脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

疲弊する奈良とのジレンマ

2010年02月13日 | 脚で語る奈良クラブ
 13日に奈良クラブによる親子サッカー教室とトークショーが財団法人奈良市生涯学習財団の企画によって、中部公民館にて行われた。会場には幼稚園から小学校低学年を対象に親子でサッカーボールに触れ合いたいという親子が集合。インドア環境ながら場内からは楽しそうな歓声が終始飛び交った。

 トークショーでは、奈良クラブの現状と今後の目標などが話題として挙がり、改めて地域リーグからJリーグまでの道程が説明された。何よりも「拠点グラウンドがありません」という矢部の言葉は集まったオーディエンスの脳裏に鋭く突き刺さったに違いない。

 おそらく奈良クラブは、現状でJリーグを目指すとクラブ側から公言する日本国内の地域リーグクラブ勢としては、最も厳しい環境下に晒されているクラブの一つではないだろうか。固定された練習グラウンドが無く、市内の柏木公園を中心に行われる週に2回の数少ない練習は土のグラウンドゆえに天候に左右される(雨天時はほぼ中止)。もし練習ができたとしてもグラウンドにゴールは無く、19時から開始される練習はグラウンドの事情で21時に照明が消される。仕事を持つ選手が大半のクラブにとっては、彼らが合流しての練習は至難だ。そのため、わずかな練習試合の機会は非常に貴重な場となっている。もちろん、コンスタントに公式戦を開催できる本拠地といえるスタジアムの類もない。なかなか行政面でも奈良クラブに救いの手が差し伸べられる余裕が無いのが現在の奈良県の現状だ。

 県民に配布される「県民だより奈良」という広報誌がある。その2月号には、“県土の生命線”と称した特集で、奈良県による今後の幹線道路拡大の重点戦略が紹介されている。道路整備の遅れに起因すると考えられる県内の厳しいデータが一際目を引く。
 県内の企業立地が少なく、法人税収(法人事業税と法人住民税)は約2万2千円と全国45位の数字。全国平均である約5万1千円の半分に満たない。また、雇用と消費の県外流出が止まらず、県内就業率は70.7%と全国最下位。県内消費率も83.2%で全国45位と振るわない。おまけに世界遺産に恵まれた古都であるというのに、奈良県への観光客数は年間で約3,500万人。この20年で約600万人もの落ち込みを見せており、年間宿泊者数は約117万人でこれもまた全国最下位である。県の見解としては、これらの要素として全国43位という高規格幹線道路供用率の低さを問題視し、京奈和自動車道の開通に向けた取り組みをはじめ、県内経済を発展すべく対策を考えている。

 これらの数字を概観すると明らかなように、今までこのブログでも再三指摘してきた「奈良府民」と称される京都・大阪のベッドタウン都市としての役割はより如実に現れている。行政もなかなかスポーツ振興に本腰を入れられないことに納得する部分もある。奈良に新天地を求める選手への就職の斡旋もできないほどの状況。その県の経済状況とは裏腹に1年1年着実にステップを踏む奈良クラブの躍進は、それを支援する者への葛藤やジレンマとして今後もより多くの試練を与えていくだろう。今日のトークショーの中で、「もっと厳しい状況をいくつも体験した。大きなスポンサーも付いていないのは逆にチャンスだと前向きに考えたい。」と持論を展開した浜岡の言葉が若干の鎮痛剤のようにも思えた。

 ほんの小さなカルチャーハウスのスペースで、一生懸命に子供たちとボールに触れ合う奈良クラブの選手たち。今後はしばらくこういった土着的な活動が重要になるだろう。併せて結果を求めていかなくてはいけない難しさを今から選手たちは感じているはずだ。何年かかっても結果さえ出せれば周囲は徐々に変わっていくに違いない。最近はその言葉が皆の合言葉になろうとしている。