脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

天皇杯レビュー 3回戦 佐川急便SCVSバンディオンセ神戸

2007年10月08日 | 脚で語る天皇杯


 既にご承知の通り、札幌、東京V、京都、仙台のJ2上位陣が揃って不甲斐無い敗退を余儀なくされるというジャイアントキリングの風が吹き荒れた天皇杯3回戦。筆者は、結果的に最も互いの実力差を明確に示したゲームを観戦したことになるだろう。

 このゲームは楽しみだった。今季関西社会人リーグ1部で優勝を果たしたバンディオンセ神戸(以下B神戸)はこれからJFL行きの切符をかけて、地域リーグ決勝大会に臨むことになる。この天皇杯3回戦にてその相手はJFL首位を走る佐川急便SC(以下佐川)。力試しにはもってこいの相手。Jチームが絡むゲームには無いアマチュア特有の熱さと雰囲気が最も感じられる対戦カードであった。

 両チームのスターティングメンバーは・・・
<佐川急便SC>
GK33森田
DF30高橋、5影山、3冨山、13旗手
MF6岡村、8山根(81分=7小幡)、11嶋田(68分=10山本)、17堀
FW20中村(75分=15竹谷)、9御給

<バンディオンセ神戸>
GK21近藤
DF24八柄、5神崎、4川口、7秋田
MF8川崎、13森岡(73分=3山道)、18吉田、25下松
FW10西村(60分=17松田)、11川淵(55分=2烏谷)

 837人の観衆が見守る中、佐川のホーム佐川守山陸上競技場で行われたこの試合。試合後に両チームのグッズを全観衆に対して抽選会で振舞うなど、滋賀県サッカー協会の力の入れようにも目を奪われた。スタンドは県内のクラブなどでプレーする子供たちで溢れかえっている。アマチュア規格を超越した自社環境であるこの運動施設と子供たちへの認知度からも佐川の理念の浸透と注目度が窺えた。
 肝心な試合であるが、個人的には、佐川の中村とB神戸の下松の近畿大附属高同期対決などマニアックな注目点もあったのだが、それはさておき、序盤から佐川が容赦なく攻撃を仕掛ける見逃せない展開となった。
 納得というか残念というか、開始5分ほどで、この両チームの力の差がはっきり現われてしまった。佐川は、現在JFL得点ランキングを独走するエース御給を中心に岡村のゲームメイクから前線の中村と右サイドの嶋田がポジションを入れ変えながら攻撃を牽引し、立ち上がりからチャンスを量産。対するB神戸も前線には今季関西社会人リーグ1部ベストイレブンにも選出された西村とJ1千葉でもプレーした川淵の2トップ、そして元G大阪の森岡、元V神戸の吉田が担う両翼を据えながらも、立ち上がりから佐川の凄まじい攻撃に防戦一方となってしまう。DFを支えるのは今季関西リーグMVPにも選ばれた神崎。しかしながら、そのB神戸は、サイドから中央から波状攻撃を仕掛ける佐川にラインアップがままならず、攻守の切り替えで終始停滞を招いてしまった。
 前半6分に岡村の右CKを山根がニアで合わせ先制する。出鼻を挫かれたB神戸は前線にボールがろくに繋がることなく、続く16分にはアーリーな中央からのセンタリングをエース御給が長身を生かしてのヘディングシュートで佐川は難なく追加点を得る。
 とにかく挑戦者のB神戸に容赦なく自分たちのサッカーを貫く佐川の攻撃的スタイルは圧巻で、正直ほとんどポゼッションでB神戸はリズムを掴むことができなかった。ボランチに入った下松と川崎が佐川の素早いチェックにボールを思うように捌けず、中盤はスピードを失った。いざボールを失えば、徹底した前への勝負に打って出る佐川の猛攻にラインはズルズル下がり、ベンチからも田中真二監督の激しいラインアップの指示が飛ぶ。

 2位のロッソ熊本に勝ち点差10を付けるJFL首位の佐川は自然体でこのゲームを消化するだけだった。アマチュア規格外の高さと得点力、ボディバランスを見せる御給はB神戸のマークでは完全に役不足といえるほど攻撃に絡み、テクニックとスピードに長けた中村、嶋田だけでなく、右SB高橋あたりもオーバーラップするなど幾多にも及ぶ攻撃パターンで終始相手ゴールを脅かす。
 後半16分には岡村のFKからゴール前の混戦に冨山が押し込み3-0。そのわずか3分後には御給のパスに呼応した堀が左サイドからそのまま果敢にGKと勝負。相手のミスも重なり、嶋田が押し込んだ。4点差というスコア以上に内容はその完成度の差が歴然であった。
 後半8分に守備の要である神崎が退場処分となり、さらに厳しい状況に追い込まれながらも、4-0となった後からB神戸も次第にボールが繋がるようになり、途中から関西1部リーグ得点王の松田を投入するもゴールを奪うには至らずタイムアップの笛が響く。B神戸はまじまじとJFLの実力を見せつけられた。

 これから、地域リーグ決勝大会に臨むにあたって、B神戸はいい良薬をこの大敗から得たのかもしれない。圧倒的に攻められながらも、ラインアップの意識と前線へのフォローを徹底させることが改善点になるだろう。佐川が足の止まった後半に見せた本来の動きがせめてもの収穫か。
 サラリと勝利を手にした佐川はその飽くなきアイデアとショートパスからの素早いパスサッカーでアマチュアのプライドを胸に4回戦へと進む。次戦からJ1チームのお出ましとなる訳だが、おそらく彼らはJ1を一泡吹かせようとモチベーションは高いはずだ。

 この3回戦、天皇杯に対する各クラブのプライオリティさえ疑うほど本当に不甲斐無い結果が続いたJチーム、次の4回戦、この佐川にやられるのはどこのチームになるのだろうか。