脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

キーマン寺田紳一

2007年10月07日 | 脚で語るJリーグ


 日立台までクルマで走って、負けて帰るほどしんどいことはない。そう思っていたこの柏戦は、試合前の予想布陣からしても勝利の予感を十分に感じさせてくれるものであった。感じずにはいられない。精神的にも疲弊して帰る500キロ以上の帰路のことを考えてみれば、自然とポジティブにならざるを得ない。
    
 播戸のここ数試合の不調ぶりも懸念してか、バレーの1トップに家長をトップ下、寺田と二川を両翼に据えた4-4-1-1とも言える布陣はこの試合の一番の見どころ。ここ何試合か本来のゲーム運びとは程遠い内容と結果が続くガンバはしばらく勝てていない日立台で、浦和追走の立て直しすら求められていた。

 序盤からフランサを中心に柏の鋭いカウンターが牙を剥いた。左の菅沼と右の太田がフランサに連動して、サイドを疾走してチャンスを作り出す。チームとしてシーズンの熟成が進んだ柏は、フランサだけ止めれば何とかなるというものでもない。DF陣の核である古賀が出場停止の最終ラインは石川と小林祐を中心にバレーに人数を割いて徹底的に囲い込む。それもそのはず、一昨年の入れ替え戦の悪夢が柏の関係者全ての脳裏に蘇る。6得点を許した大砲を好き勝手にはできない。
 
 バレーの1トップとその下に位置する家長のポジション関係は実に分かり易い。狙いとしては家長の持ち味を強烈に発揮できる布陣でもある。フィニッシュに持ち込むバレーにボールが集まりながらも、衛星的にそのエリアに顔を出す家長自身がどこまでできるかが焦点だった。そして、寺田と二川はポジションを左右に巧みに入れ替えては柏DFを翻弄し、両SBの加地と橋本のフォローにも効果的だった。
 バレーは再三シュートを放ち、柏ゴールを脅かしたが、必死の人数でブロックする柏の前に決め手を欠いた。家長が惜しい強烈なミドルをポストに当てたが、ゴールを奪うためには、ああいった形をいかに多く作っていけるかであった。

 ここまで2トップが研究されし尽くして、拮抗した展開を余儀なくされたことを思えば、この布陣は1トップのバレーにマークが集中した。それがガンバのここ数試合無かったリズムを取り戻す一因となったのは言うまでもないだろう。ただ家長の才能にウエイトを置いたこの布陣で最もその個性を発揮できたのは寺田と二川であった。前半互いにジャブの応酬を続ける中で、この2人は後半のカギを握ると予感できた。あとは前線が決めるだけだ。
 しかしながら、その期待感を一身に背負っていた得点源バレーに前半終了間際アクシデントが起こる。後に判明する肉離れが原因のこの負傷交代は、バレーに集中していたマークを分散させ、後半のガンバの猛攻に拍車をかけたといっていいだろう。

 後半開始からゴールに飢えた男、播戸が投入される。プレースタイルの違いもあり、この男が1トップで張ると柏のDF陣も困惑した。ゴールの予感を感じさせる。そしてこれによってさらに家長や寺田、二川がスペースで動けるようになる。51分に前線の右サイドを突破され、李からフランサ。この完璧な一発がゴールネットを揺らすと、この後はいかにガンバが逆転にていくかのプロセスを日立台の観客は見守るだけであった。
 寺田が起点となり、ゴール前で粘ってキープした後に右の加地へ。加地のクロスはドライブ気味で播戸の頭に。この同点弾は柏の集中力を削ぐのには十分なゴールであった。立て続けに寺田のゴール前の突破からPKを奪取し、職人遠藤が決めて難なく逆転に成功する。流れは最高だった。本来のリズムを取り戻すガンバのサッカーであった。

 これで浦和を追走するための絶対的に勝つサッカーを取り戻したというにはまだ早い。悩めるキーマン家長と寺田、二川の対照的なコントラストが目に付いた。バレーもしばらく離脱する。マグノが戻るのも時間の問題であるが、フィニッシャーがどうのこうのではない。この試合のようにガンバが本来のリズムを取り戻すのに本当に重要なのは寺田のような存在が必要だということ。
 そういった意味では、新布陣のキーマンは寺田で間違いなさそうである。