脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

名門ヴィオラ 「紫」の軍団

2007年06月25日 | 脚で語る欧州・海外


 23日のコパ・デルレイ(スペイン国王杯)の決勝がヘタフェとセビージャのマッチアップで行われ、チームの成熟著しいセビージャが連覇を達成したUEFA杯と共にこのタイトルも手中に収めた。リーグでもレアル・マドリーとバルセロナを最後まで追いかけ、決してスターがいないながらもリーグを盛り立てたセビージャの強さは本物であり、今季の欧州サッカー界において特筆すべき活躍であったことは言うまでもない。

 このコパ・デルレイが終焉を迎え、ようやく欧州サッカーにも短いオフシーズンが訪れる。既に各国の移籍市場は熱い動きを見せているところである。
 しかし、今季の欧州サッカーを振り返ると、最終節までもつれ込んだリーガエスパニョーラやリヨンの6連覇もそうだが、やはりマンUとインテルの安定した戦いぶりが強く印象に残るシーズンだった。特に17連勝を含む開幕からの31戦無敗で走り抜けたインテルの強さは「ライバル」の存在を感じさせないものであり、負けじとスペクタクルなサッカーを見せたローマの奮闘が霞むものであったのは間違いない。得点王に輝いたトッティの1トップが計算外に機能したローマとの勝ち点差22があまりにそれを物語っている。
 
 そんな中、今季のカルチョでインテルを除外すれば最も旋風を巻き起こしたのは間違いなくフィオレンティーナであろう。何しろ15ポイントの勝ち点差を考慮すれば最終的な成績は2位ローマに肉薄の73ポイント。21勝10分7敗という好成績である。昨季の不正が無ければ、チャンピオンズリーグ出場権を文句無しに獲得する成績である。今季の欧州を制したミランでさえ、剥奪分のポイントを加えてもそれに3ポイント及ばない。
 この紫の軍団が機能したのは、開幕前にポジノフとのトレードでユヴェントスからフィレンツェにやって来たFWアドリアン・ムトゥの貢献度が間違いなく大きいだろう。かつてゲオルゲ・ハジの後継者としてルーマニアサッカーの牽引を託された27歳のストライカーは、2年前の2004年10月にドーピング検査で長期の出場停止を受けたネガティブなイメージを完全に払拭した。昨季の得点王トニ、右のヨルゲンセンとのカルチョ最強3トップで、シーズン通してコンスタントに活躍。2度の4連勝を積み上げたチームにおいてリーグ最高の8アシストと16得点を叩き出す大活躍を見せた。相棒のトニも同じく16得点で2人並んで得点ランキングも7位に入る結果となっている。何を隠そうこの2人が稼ぎ出した32得点を含むフィオレンティーナのシーズン62得点は、インテル、ローマに次いでカルチョ3位の得点数である。3トップをバックアップとして支えたジャンパオロ・パッツィーニも7得点を挙げる活躍を見せ、総得点の半分以上を全てFW陣で稼ぎ出したのである。

 フィオレンティーナが冴えたのは何も攻撃陣だけでなかった。かつてパルマの守護神として君臨したGKフレイが今季はフル出場。完全にゴールに鍵をかけた。その堅守ぶりは終盤のミラン戦を含めた4連戦連続完封に顕著に現われている。最終ラインのダイネッリと中盤の底リベラーニが連動した攻守を披露。トップ下を固定しない4‐3‐3の布陣は若手のMFモントリーボとブラージを中心に完全にフィットした。失点数31はダントツでカルチョ最少失点数を誇っている。

 しかし、赤字経営による親会社の経営破綻でわずか5年前はセリエCのカテゴリーに甘んじていたヴィオラが、まさかここまで復活するとは感慨深いものである。3年前に中田英寿が在籍し、日本でもその注目度が増したが、本当はアルゼンチン屈指のストライカーであるバティストゥータやポルトガルの国民的英雄ルイコスタもその黄金期には在籍していた輝かしいチームである。
 また、かつてはイングランド代表の監督として名を馳せたエリクソン氏や90年のブラジルを率いた元横浜FM監督のラザロニ、来季からユベントスで指揮をとるラニエリ、イタリア代表監督も務めたトラパットーニや引退後にここで監督としてのキャリアをスタートさせたマンチーニなど輝かしい功績を持つ指揮官たちが一世を風靡したチームでもあるのだ。

 そんな名門の復活に注目して見つめた今季のカルチョであったが、来季はエースのトニがバイエルンへ移籍。これまで通りとはいかないだろう。ユベントスからバルザレッティが移籍、そしてかつてのエースポジノフも復帰する。プランデッリ監督の采配とこれからの動向に注目だ。しかし、これからチームを支えるのはムトゥ。来季も彼が輝けば、間違いなくスクデットを争うことも不可能ではないはずだ。