列王紀下11・3 ヨアシは乳母と共に六年の間、主の宮に隠れていたが、その間アタリヤが国を治めた。
北イスラエルではエヒウ(エフー)が王となり政権をとるや、アハブ王家は滅亡したことを先の章では見ましたが、その時、南ユダのアハジヤ王は北イスラエルを訪問中であったため、戦渦に巻き込まれて戦死しました。
南ユダの王アハジヤの死去という緊急事態に乗じて、王母アタリヤが実権を掌握し南を支配したのです。
彼女は、北イスラエルを腐敗させたあのイゼベルの娘です。北ではエヒウによってアハブ王家共々イゼベルも殺害されましたが、その娘アタリヤは南ユダで生きのびていました。北イスラエルを堕落させたイゼベルの働きは、次に南ユダ王国へと触手を伸ばしていたのです。
このアタリヤがまず着手したことは、アハジヤの子たち、すなわち王子たちの粛正(しゅくせい)です(11・1)。
アハジヤの子はアタリヤからすれば孫にあたりますが、容赦なく殺害した意図は何だったのでしょうか。ひとつは、エヒウによるイゼベルおよびバアル礼拝者殺害への報復だと思われます。しかし、もっと大きな理由は、彼女の背後にあって働くサタンの存在です。
ここで整理しておきましょう。
神は、ダビデ契約によって、ダビデの子孫からひとりの王を生まれさせ、彼が支配する王国は永遠につづくのだと約束されました(サムエル下7・12)。その約束は、単に、ユダ王国が子々孫々繁栄するといった程度の意味ではありません。
神が、ダビデ王家の子孫からキリスト(油を注がれた者)を生まれさせ、そのお方によって神の御国が完成すること。その御国が実現するとき、悪魔は滅ぼされることを意味しています。
このダビデの子孫とはイエス・キリストのことです。
イエス様はダビデ王家の子孫としてこの世に来られました。イエス様の宣教の第一声は、「神の御国は近づいた」でした。そして、悪霊(あくれい)を追い出し、悪魔とその働きを追放なさいました。悪霊を追い出している事実は、神の御国がここに来ている証拠だとも言われました(ルカ11・20)。
そして、ついに十字架の死と復活によって、悪魔の最大の武器である罪と死を滅ぼしてしまわれました。
そのようなキリストが、ダビデ王家から誕生するというのが神の約束ですから、悪魔にとって、ダビデ王家の滅亡は最優先課題となるわけです。
このキリスト誕生預言は、創世記の時から語られてきました。エデンの園でアダムとイブが罪を犯したとき、主なる神はヘビ(悪魔)に向って、「女の子孫がお前を頭を砕く」と預言されました(創3・15)。この「女の子孫」とはイエス・キリストのことです。事実、イエスは処女マリヤからお生まれになりました。
また、神はアブラハムに対しても、「あなたの子孫は敵(悪魔)の門を打ち破り、地のすべての国民は、あなたの子孫によって祝福を得る」と約束されました(創22・17~18)。この「アブラハムの子孫」もイエス・キリストのことです。
キリストは「女の子孫」から生まれる。それは、アブラハムの子孫であり、さらに絞り込んで、ダビデ王家の子孫である……と預言されてきたわけです。
ユダヤ民族の歴史は、迫害の中を生き抜いてきた歴史です。なぜ、彼らはかくも迫害を受けるのでしょうか。その背後には、ユダヤ民族を絶やすことによってキリスト誕生を阻止しようとする悪魔の働きが潜んでいるからです。
エジプトに寄留していたとき、エジプトの王パロはイスラエル人に生まれる男児を殺害しました。また、イエスが誕生された時も、ヘロデ王はベツレヘム一帯の幼子を殺害しました。前後しますが、今回のアタリヤの迫害もその流れで読み解くべき事件です。
悪魔(サタン)にとって最も都合の悪いことは何でしょうか。それはキリストの来臨です。それを阻止するための事件が旧約の歴史には数多く記録されているわけです。
しかし、それにもかかわらず、第1回目のキリスト来臨を、悪魔は阻止できず、遂にイエス・キリストは来られました。そして、今や第2回目の来臨(再臨)を阻止しようとして悪魔は働いています。
第1回目の来臨の時、ユダヤ人はイエスを受け入れませんでしたが、第2回目の来臨の場合は、ユダヤ人が再び約束の地に集結し、イエスを信じて迎える準備ができた時に来られるというのが神の約束です。
だから、悪魔にとって、キリストの第2回目の来臨を阻止するための決定打は、ユダヤ人を滅ぼしてしまうことです。その働きは、新約の時代の2千年間途切れることなく続いています。「反ユダヤ主義思想」は、このような歴史的背景にあります。
この視点でユダヤ人の歴史を見る時、ユダヤ人迫害の背後に悪魔の支配があることがお分かりいただけると思います。残念なことに、キリスト教会もこの悪魔の策略に惑わされて、ユダヤ人迫害に加担しました。キリスト教会の汚点であり罪です。
さて、話題を戻しましょう。王母アタリヤは、王家を滅ぼすために王子たちを次々に殺害して行きました。しかし、ダビデ王家存亡の危機に際して、神の御手は力強く働いています。
「アハジヤの姉妹であるエホシバは、アハジヤの子ヨアシを、殺されようとしている王の子たちのうちから盗み取り、彼とその乳母とを寝室に入れて、アタリヤに隠したので、彼はついに殺されなかった」のです(列王下11・2)。
何と、幼児ヨアシだけは叔母の勇気ある行動によって助け出され、神殿の中にかくまわれ、6年後に、ヨアシは王として立ち上がったのです。
クーデターの時に助かる方法は、一般的には国外亡命が定石(じょうせき)です。しかし、エルサレムの神殿の中です。いのちをねらっているアタリヤに最も近い場所で、6年間もかくまわれたのは意義深いことです。
アタリヤはバアル礼拝者ですから、主の神殿に参拝しません。偶像礼拝者は、真の神殿には近づきたくもありませんから、どんな危機のただ中にあっても、神殿の中は安全だったのです。
私たちも悪魔の激しい攻撃を受けるかも知れません。しかし、神はヨアシを神殿の中で匿(かくま)われたように、私たちをイエスの中で匿ってくださいます。イエスの中にまで、悪魔は入ってくることができません。
イエスも言われました。「わたしの中にとどまっていなさい」と。そうです。イエスを信じるとは、イエスの中にとどまることです。イエスの御言の中にとどまることです。イエスの愛の中にとどまることです。