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私の視点 甲子園狂想曲 『“進軍ラッパ”に踊らされ』

2006-08-21 12:31:28 | Weblog
 いやあ、いい試合でした、昨日の高校野球の決勝。早稲田実業と駒大苫小牧ががっぷり四つのまま、互いに譲らず15回を戦い抜き、引き分け。

 この両ティーム、大会前から何かと注目を集めてきた。早稲田実業は、WBC(世界野球大会)で優勝を勝ち取った全日本ティームの監督である王貞治氏の母校である。王氏は早実時代、投打の主力でエイスで4番打者。夏の大会こそ優勝できなかったが、春の選抜では全国一になったし、ノーヒット・ノーランの偉業も成し遂げている。その王氏と早実野球部との“秘話”が大会前、何度もマスコミで取り上げられ、嫌が上でも同校への関心は高まった。また、苫小牧の方は、夏の大会三連覇なるかという話題と共に、春の選抜は、三年生野球部員が飲酒や喫煙で警察に補導された事態を受けて出場を辞退したといういきさつもあり、これまた注目度は最も高いティームだ。

 その両校が決勝まで勝ち進み、決勝本番では、猛暑の中を延長15回まで熱戦を繰り広げた。その熱戦の勝ち負けがつかず、今日また再戦というのだから、高校野球ファンにとってはたまらない展開だ。いや、高校野球ファンならずとも、これに関心を持たなけりゃ非国民、とまで言われかねない空気が日本列島を包んでいる。

 「さあ、皆さん、午後一時にはTVの前に集まりましょう!」

 と、私も皆さんと一緒になって言わねばならない雰囲気だが、そんなことをしたら「浅井久仁臣」の名(認知度は別にして)が廃る。私はこの機を逃さず、この大会の持つ問題点を皆さんにぶつけたいと考える。

 「いい加減にしろよ、朝日新聞」

 私の怒りはこのひと言に集約される。それは、御存知のように朝日が夏の大会の主催者だからだ。朝日は、一部の高校野球ティームが長髪を禁じ、丸刈りを強制する雰囲気を看過してきた。紙面では通常、教育の現場ではそのような強制的な指導は止めるべきだという論調なのに、ことこの問題になると口をつぐんでしまうのだ。また、部員の不祥事による連帯責任を取っての参加辞退にも問題あり、とする意見も無視してきた。その点をつかれた時、朝日は「高野連のやることで(朝日が)口出しできるものではない」という言い方で逃げてきた。 

 だが、私の朝日に対する怒りはそれだけで収まらない。それは、主催者の大会運営の都合で、有能な選手生命を縮めているからだ。これまで何度も言われたことだが、大会運営は主催者の都合優先で、選手に過酷なスケジュールを強いている。中でも、勝ち進んでいくティームの主戦投手の体力への配慮の欠如は、人権問題といっても過言ではない。

「優れた才能をひと夏で潰すのか!」

 私は声を大にして、朝日新聞に問いたい。

 朝日新聞によると、早実の斉藤と駒大苫小牧の田中両投手が昨日の試合で投げた球数が、それぞれ178と165だ。昭和40年代まで、一試合で200球を超える投球は稀に見られた。だが、そういった玉数を投げることによって、多くの投手が肩を壊して、プロ野球に入っても期待通りの活躍を挙げられずに球界を去っていった。そこで、「肩寿命説」が球界に浸透して(米野球界で「100球が限度」とされたことにも影響された)、今では、「先発」「中継ぎ」「抑え」の分業制が常識になっている。だが、精神論が未だ跋扈する高校野球界では、旧態依然とした「マウンドに上がったら最後まで投げ抜く」が基本だ。

 今のところ、今日の試合に斉藤投手がまたマウンドに登るのではないかと言われている。そうなると、斉藤投手は、これで3日連続の登板だ。これは、人間の能力の限界をはるかに超えている。

 調べてみると、斉藤投手は、予選大会に関しての資料はないが、甲子園における6試合全ての試合に投げている。それも、一度だけ救援を仰いだが、その投手はワンアウトも取れずにマウンドを降りたので、全てのアウトは斉藤投手の手によって勝ち取られたことになる。

 この問題を朝日新聞にぶつければ、まず間違いなく、「関知しない事」という答えが返ってくるだろう。

 二人の「青春そのもの」を思わす力投と、両ティームの少年たちの頑張りようを見れば、思わず手に汗を握って応援してしまうだろう。だが、私は絶対にこの試合を観ることはない。それは、将来性に満ち溢れた選手がそうして「玉砕」していく姿を見るに耐えないからだ。

 私は、以前から書いているが、スポーツを愛することにおいては、他人に負けることはない。だが、いやそれだけに、そんな「壊れていくヒーロー」の姿を涼しい部屋で冷たいものを飲みながら観る気持ちになれないのだ。

 69年の夏、私は「世紀の一戦」にまさしく手に汗してTV観戦していた。あの時は確か、三沢高校の太田投手は18回を一人で投げぬき、翌日再戦のマウンドに登ったが力尽きてしまった。その太田投手は、後にプロ野球に入ったが、期待された活躍をすることなく球界を去った。

 そこで、私からの提案だが、長年この面で何ら改善されない現実を考えれば、やはりルールで規制するしかないだろう。60球以上投げた先発投手の連日の登板は認めない、球数は100球までといったようなルールを作れば、ティームの指導者は従わざるをえない。球場を複数にしたり、開催期間を延ばすなどの方法もないではな
いが、そちらの方が非現実的であろう。朝日新聞も人権問題を擁護する立場に立つのであれば、そのくらいのことはすべきではないだろうか。

 後、10分くらいで試合は始まる。観戦したい気持ちはあるが、これを書き終えたらそんな欲求を振り切って私は暑い街に身を投げる。