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日々の出来事から国際情勢まで一刀両断、鋭く斬っていきます。コメントは承認制です。但し、返事は致しませんのでご了承下さい。

死者の数

2006-07-31 11:20:58 | Weblog
 30日にイスラエルがレバノンで行なった愚挙が原因で全世界からブーイングを喰らっている。既報の、54人の命を奪ったカナへの空爆に対する怒りだ。それを受けてイスラエルは31日、48時間の空爆中止を発表した。

 今回、世界中が怒りの声を上げたわけは、犠牲者の内37人もが子供であったからだろう。さもなくば、世界中のマスコミが大々的に報道しなかっただろうし、読者や視聴者の心に届かなかったはずだ。

 だが、私はそこに疑問を感じる。確かに、子供は「社会の宝」だし、我々大人が守ってやらねばならない存在だ。しかし、命の重さに年齢の高低は関係ないはずだ。かく言う私も、この種の記事を書く時、子供の数をしばしば書き入れる。それは、加害者側が、攻撃理由に“テロリスト”の存在を挙げるからだ。つまり、子供の犠牲を書くことによって、攻撃の正当性を「根拠に乏しい理屈付け」としたい意図を働かせているのだ。それを、一部の人たちは、偏向報道と呼ぶかも知れぬが、私は客観性を欠く伝え方だとは思わない。

 死者の数だけで言えば、イラクではほぼ毎日、50人を超える市民が、戦闘の巻き添えになっている(3年前の開戦以来、イラク側の死者は約4万人)。パレスチナでも同様の惨劇が日常化している。「世界の目」、つまりは監視する目が鋭さを失くせば、侵略者はやりたい放題暴れまわるということだ。

かわいそうなぞう

2006-07-31 01:08:11 | Weblog
 浦和で開かれている「平和のための埼玉の戦争展」に行って来た。この催しは、毎年夏に行なわれており、今年で23回目になるという。今年はイラク戦争や憲法問題に力を入れるというので足を運んでみた。

 会場は、JR浦和駅西口の伊勢丹デパートと接するショッピング・センター「コルソ」の7階にあった。

 コルソの正面入口に、今ではパチンコ屋の「新台オープン」の時くらいしか見かけないチンドン屋の姿が見られた。「今時、チンドン屋を使って宣伝するなんてどんな店?」と思いながら、それを確かめたくてわざわざ正面入り口に行ってみた。

 チンドン屋から渡されたチラシを見てびっくり。なんと、彼らは戦争展の客引きだったのだ。それを見た途端、行く気が失せた。ただ、直子が行きたがっていたし、まあ、入場料が無料だからそのまま会場に向かった。

 会場では高校生を含めて老若男女が展示品を熱心に見ていた。だが、残念ながら入場者の多くは、かなりの高齢者だ。若い人は少ない。

 展示品の説明要員があちこちで入場者に対して当時の状況を語っている。だが、全ての説明要員がそうではないが、一部の人は、何か昔を懐かしんでいるように楽しそうに大声で話すので私には耳障りであった。

 私が目を引かれたのは、展示品の中にあった、米写真誌『LIFE』の1940年6月号である。それは、「天皇ヒロヒト」の特集号で、表紙も昭和天皇が白馬に乗る写真が使われている。

 太平洋戦争が始まる一年半前に発行されたものだから、相当反日的な内容かと思っていたが、ミステリアスというか、「世界で一番不可思議な国」である日本や日本人を、天皇との関係に触れながら読者に紹介しようとするもので、中々読み応えのある内容であった。

 中でも、日本人社会における「腹」の存在の記述が面白かった。「腹黒い」「腹を読む」「腹を割って話す」という日本人独特の表現が彼らには奇異に映るらしく(そりゃそうですよね?)、いくつも例を挙げて面白がっている。

 また、腹切りの意味から切腹の作法を書いている記述もあった。それによると、日本では当時でも切腹は日常的に行なわれているものであったらしく、年間で約1,500人が割腹自殺をしていたらしい。これは驚きの数字だ。当時の記録や資料を読むと、日本軍の中でも何かと割腹で責任が取られたいう記述が目立つが、当時は切腹はそれほど「特別」なものではなかったということだろう。そう言えば、私の父は職業軍人でしかも筋金入りの青年将校だったそうだ。その父が、腸結核に罹り、医者から手術を勧められると、「他人に腹は切らせん」と言って死を選んだと聞き、ナント無責任な男だと思ったが、当時ではそんなに“特別なこと”ではなかったかもしれないと、それを読みながら考えた。

 その雑誌の他のペイジをめくっていると、米国の当時の豊かさが手に取るように分かった。広告には、自家用車や掃除機が取り上げられているのだ。隣にある日本の雑誌を見比べてみると、日米両国の国力の差は、歴然としている。よくぞ、こんな国に向かって戦争を仕掛けたものだ、とため息が出てきた。

 書籍売り場で直子が買いたいと選んだ本の一冊が「かわいそうなぞう」。彼女は子供の頃に読んだ記憶があるが、戦争の話とはとらえていなかったようで読んでみたくなったという。

 この本については、読者の方のほとんどが御存知であろう。戦時中、上野動物園で起きた実話である。動物に与える食料が入手できなくなり、多くの動物を“安楽死”させたのだが、象には注射針が刺さらず、飢え死にさせてしまう話で、動物好きには涙腺を緩ませずにはいられない本だ。

 評論家の秋山ちえ子さんは、今でも敗戦記念日にラジオでこの話を読み聞かせる活動を続けている。これは、ただ日本だけではなく、今戦火に包まれているレバノンの首都ベイルートの動物園でも同様のことが行なわれたと聞いたし、旧ユーゴ内戦のサラエボ動物園の動物達も同じ運命を辿った。戦争が起これば、常に弱者が排除される考え方が世の中を支配するという好例だ。

 家に戻った直子は早速その本を読み出した。1分としない内に鼻水をすする音がしてきた。