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日々の出来事から国際情勢まで一刀両断、鋭く斬っていきます。コメントは承認制です。但し、返事は致しませんのでご了承下さい。

彼の地に想いを馳せる

2006-07-18 11:35:10 | Weblog
 毎日気が重い。無力感でどうしようもない。時に無性に悲しくなる。涙が視界をさえぎることもある。

 私生活で不幸というわけではない。逆に、パートナーとは人生だから当然いろいろな試練はあるが、58年でもっとも充実な日々を送っている。だが、悲しいのだ。

 心の重さは、今戦火に包まれているパレスチナとレバノンの悲惨な状況から来ている。圧倒的な軍事力を持つイスラエルの爆撃に多くの無辜の市民の血が流れ、命が奪われ、街が壊されている。レバノンは、1975年から15年間、今のイラクよりもひどい状況で内戦が行なわれた。76年から2005年まで屈辱的な外国軍(シリアとイスラエル)の軍事占領も受けてきた。90年の終戦と共に、民衆は「もう戦争はたくさんだ」と立ち上がった。その想いは、奇跡的な戦後復興につながり、昨年シリア軍を撤退にまで追い込んだ。

 「ヒズボッラーに投票して政治の世界でも力を与えたレバノン人にも責任の一端がある」というバカな評論をしていたTV解説者がいたが、恐らく私は彼が目の前にいたら「何も知らずに無責任な発言をするな!」と、力ずくでも黙らせていただろう。こういう無知な発言やそれに踊らされた国際世論でこれまでどれだけの人たちが苦しめられてきたか、それを知っているだけに私はそういう連中が許せないのだ。

 ヒズボッラーが誕生する前から私はその指導者のナスラッラーたちが活動していたのを見ていたし、なぜ彼らがこれほどまでに勢力を伸ばしてきたのか、知っている。だから無責任な解説者の暴論に黙っていられない。

 ヒズボッラーは、その誕生を見てきた私に言わせれば、誕生するべくして誕生し、勢いを伸ばしてきた。その原因の多くを作ったのは、誰あろう、欧米やイスラエルである。パレスチナやレバノンの問題は、アラブ世界の成長に手を貸す振りをして調和を乱して国益を吸い上げてきた国々に責任の多くがあることを世界はいい加減に気付くべきだ。欧米諸国の関与が原因で生まれてきたのは、ヒズボッラーだけではない。その元となる、イランの革命政権もしかり、ハマース、アル・カーイダそれら全ての西側諸国が「テロリスト」とレッテルを貼る国や組織の誕生に間接的に手を貸しているのだ。

 それなのに、今になって欧米諸国はキレイ事ばかりを言い、「高見の見物」を決め込む。ロシアで開かれていたG8首脳会議などその典型だ。仏のシラク首相がレバノン政府を支持して注目されたが、この程度のことはかつての宗主国であったフランスとすれば発言してごく当然のことだ。それよりも、これまでレバノンが苦しむ原因の幾つかを作った責任を感じていたらもっと踏み込んだ発言や行動ができるはずだ。

 私のパレスチナやレバノンとの付き合いは30年以上になる。1970年9月、パレスチナ・ゲリラたちが4機の民間機を同時に乗っ取り、TVカメラの奥にいる世界中の人たちに窮状を訴えてからというもの、私の心には常に「パレスチナ」が重い存在になっている。

 パレスチナやレバノンにはこれまで何十回足を運んだか数えたことはないが、恐らく外国人ジャーナリストでは最も多い部類に入るだろう。現地では銃砲撃の中を共に逃げ惑い、恐怖に震えてきた。重病にも罹った。しかし、その状況の中で、いつも私を温かい気持ちにしてくれたのは、住民たちだ。砲撃で吹き飛ばされた時、自らの命を顧みず私に手を貸してくれた人たち。防空壕が満員なのに、私を奥に招じ入れようとしてくれた人たち。私にとっての命の恩人は数え切れない。

 その一方で、醜い姿を見せてきたのは、欧米諸国のリーダー達だ。イスラエルにばかり悪役を演じさせて、奥座敷からその“出来具合”を見ている。その姿は、かつてローマ帝国の上層階級の連中が、占領地から連れてきた奴隷(ユダヤ人を含む)たちを闘わせて喜んでいたものと私の目にかぶる。もちろん奇麗事を言う指導者達のテイブルの下には、国益をはじき出す資料と計算機が置かれている。

 イラク戦争同様、事情があって現場取材に行けない私の心は、落胆と怒り、そして悲しみでいっぱいだ。