都市徘徊blog

徒然まちあるき日記

マンションを拝む

2006-04-17 | 港区   

 高輪東禅寺は幕末に英国公使館が置かれたりした歴史があり、由緒のあるお寺だ。
 Photo 2006.3.5

 高輪の斜面地とその周辺の住宅地を調査するため、以前はこの界隈は毎年歩いていた。最近数年は、研究が一段落した関係で、ちょっとご無沙汰していたのだが、久々に歩いたら、本当にあちこちで景色が変化していて、かなり驚かされた。先日、桂坂からの風景の項で取り上げた、丘の上のマンション、高輪・ザ・レジデンス(港区高輪1-27、47F、154m、2005年12月竣工)は150m以上あるので、周辺のあちこちから見えているが、この東禅寺の参道及び境内からもバッチリそのお姿を望むことができる。

 品川駅から北へ歩き、第一京浜から角を曲がり参道に入る。東禅寺は大きなお寺なので、山門の手前に長い参道がある。現在は両側にマンションなどが建っているが、参道正面にお寺の山門が見えている様はなかなかのものだ。門の向こうの木立の中には数年前に復元された三重塔も見え、高台上には高野山東京別院の大屋根も見えて、そこだけは江戸以来の歴史を感じさせる景色になっていた。

 ところが、上の写真のように、背後にドーンである。お寺へ向かって歩いているのか、マンションへ向かって歩いているのか・・・。参道の軸線と一致してしまっているので、お寺へ近づいても、一向に状況は変わらない。むしろマンションが巨大にそびえるように見えてくる。

 山門をくぐり、境内に入ってもマンションは見え続け、本堂前でも背後に上部が見えている。お賽銭を入れるために本堂に近づくとようやく見えなくなるのだが、ずーっと、マンションを見ながら境内に入って来るので妙な気分だ。本堂の奥にマンションがあると分かっていると、俺はマンションを拝んでいるのかもしれない・・・、などと思ってしまう。東禅寺の御本尊は「高輪・ザ・レジデンス」だったりして、なんてね。「The」が付いてるもんな。

 この景色を良いと思う人は多くないと思う。少なくとも、変な景色だと思う人が多いのではないだろうか?

 これで良いのだ、という人は、そこに住んでいる人と、これを建てた人ぐらいだろう。だが建てた人でさえ、「規制されていれば建てなかったよ」と言うだろう。背が高くなくても、元が取れれば高い建物は建てなかった、とも言うだろう。そこに住んでいる人も、売っていたから買った、違反建築じゃないんだから仕方ないんじゃないの、と言うだろう。ここでは責任の所在は曖昧で、悪い人は誰もいないことになる。そうして、みんながそれぞれに努力して、変な景色を作り出して、みんなが努力して、不幸になっている。

 先日も取り上げたが、東京都は国会議事堂、迎賓館、絵画館の三つの建物について、前景と後景を守るべく規制を始めたんだそうだ。この件に関しては、新聞、テレビ等でも報道されたので、御存知の方もおられるかと思う。また今後は、世間の人々の認知度の深まりを見ながら、規制対象を広げていく予定であるという都の意向も報道された。

 新聞などのコラムを見ると、もっと早く規制していれば、国会議事堂の背後に既にできてしまった建物が建つ前に規制できたはずだとか、国立のマンションも建ってしまって訴訟になる前に手を打つことができたはずだ、とか書かれている。

 確かに早く手を打っておけば規制はできた。しかし都の言い分としては、民意が大きくならなければ動くことはできない、というところだろう。問題が顕在化する前に手を打つのは、結果的には賢明なのだが、その時点では一般の人の関心は低く、やりすぎだと声高に言う人々がいれば、勇み足だと言われてしまう。行政は、間違いを犯したくないという保守性、消極姿勢を体質として持っている。

 景観法の成立を受けて、更に国立の訴訟、その他いくつかの景観問題を経て、住民だけでなく開発業者も認識を少しずつ深めている。今回の報道の中には、規制するならすると早めにはっきりさせて欲しいという声も業者から出始めている、という記事もあった。眺望だけが売りではなく、「周囲の景観、周辺との調和に配慮したマンション」が売り文句になる時代にそろそろなりつつあるのだ。ある意味、業者や住民の方が、急速に駆けだしたのかもしれない。

 そのとき、自治体は?、公園や庭園からの眺望の規制を検討するとあったが、これとて公共空間である。共通了解は既に得られているのではないだろうか? その次に問題になるのは、公共性の高い民間空間だろう。神社、仏閣、近代建築・・・、たとえ民間建物であっても、これらは江戸期以来の歴史を持つ建物や空間であり、東京の文化の一端である。これらの施設の景観についてどう折り合いをつけるか?

 京都や奈良などの寺社の景観保護は、しばしば話題にされているが、東京も実は歴史的な空間が多い街である。戦災で多くの寺社が焼失して、建築的に価値のある建物は多くはないが、緑地などを含めた寺社空間の景観的価値は、観光面から考えても意外に価値がある。

 神社、仏閣の景観の保護は、宗教と政治の分離原則も多少絡んで、厄介な問題ではある。しかし特定の宗教の保護ということではなく、江戸以来の日本文化の保護と考えて、取り組んでいただきたい。

 参考になる事例は既にかなり出てきた。規制しなければならないと考える人も増えてきている。そしてこれ以上妙な景色を増やしたくはない。みんなが努力して却って不幸になっているいま、ルールがあれば、みんながそれなりに我慢して、幸せになれるのではないだろうか。

#新しい建物 港区  #ヴィスタ  #眺望  #寺院  #高層ビル
#住宅系 

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2 コメント

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マンションを拝む (ひまじん)
2006-04-22 04:50:01
報復絶倒。

林泉寺の三田丁目計画ビルみたいなものですね。

自宅の近隣は世田谷区なので、寺といっても、これほど

切羽詰ってはいません。

例えば、吉田五十八設計の満願寺。伝統的寺院です。



林泉寺さんの角砂糖にユニコーンの角みたいな多宝塔を

のっけた都市型寺院が「なんまいだ」の対象になるのか

どうか。笑いながら考え込みました。



青山の隅研吾設計の現代寺院 まあ、こんなところなら

許せるかな。

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梅窓院 (asabata)
2006-04-23 23:52:15
青山の梅窓院(隅研吾さん設計)はオフィス開発と一緒になって、ガラス張りのモダンな建物になりましたね。門前の竹の雰囲気は良いなと思いました。青山というハイセンスな雰囲気の街には合っているのだろうなと思いました。

でもお寺の建物の方は綺麗で晴れやかすぎて、ギャラリーみたいで落ち着かなかったので、すぐに踵を返してしまいました。お堂の中まで入ればまた別だったのかもしれませんが・・・。

個人的には以前の梅窓院の奇妙な近代建築の方が印象的ではあります。
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