夢と希望と

そして力と意志と覚悟があるなら、きっと何でも出来る。

眦を決して その1

2007-05-05 | 中身
 万里の記事に触発され、私も心に残る一戦を紹介してみようと思い立ちました。素敵な闘いというのは数多く存在しますけれど、どれか一つを選ぶなら……やはり「男組」における流全次郎と神竜剛次の決闘しかありません。
 「男組」という物語について本気で語り出すと私は三日三晩でも喋り続けてしまいますが、まず今回は二人が決闘に至る過程を御説明させて頂きます。

 戦時中の物資横流しにより莫大な冨を築き上げ、政治家達を金と暴力で支配する「影の総理」と呼ばれる男。流全次郎は影の総理に謀殺された父親の闘いを引き継ぎ真に平等な社会を実現する為に、そして神竜剛次は実の父親である影の総理を打ち倒し理想社会を構築する為に、それぞれ死力を尽くします。
 ちなみに影の総理がどんな人間であるか、神竜剛次と交わされた以下のやり取りに集約されていると言えましょう。
「お前が何をしても社会問題にならぬよう、お前の父や山際に警察を抑える力を与えたのも、お前にどれ程の事が出来るか力を試す為だった。その結果、僅かな期間に関東の全学園を支配下に置き、一般大衆をお前の意のままに動かす教育システムを作り上げた。お前の能力はただ事では無い、100点満点の試験で200点以上も取ったも同じ事。試験で100点を取る男は有能で役に立つ。しかし200点以上取るような男は、優れ過ぎていて危険だ。このまま放っておけば、お前は学園から社会に力を向け、ワシの権力の基盤である今の社会を、関東の全学園と同様に根こそぎひっくり返そうとするだろう。それはワシの権力の座を危うくする事になる。ワシの権力の座を脅かす者に対して取る道は一つ。その者を滅ぼすだけ。剛次、お前はあまりに優れ過ぎている事が命取りになった。」
「私は、自分の力をあなたを倒す為に使う気はありません!!一般大衆のブタどもに秩序を与え、このドブのように汚れ果て、乱れ果てた社会を、理想社会に作り替える為に使うつもりなのです!!」
「剛次、それだ。それがいかんのだ。理想などというものが一番いかん。大衆はブタのままで良い。ドブ泥のような社会に放し飼いにしておいて、エサにつられて、どんな事でも聞くようにしておく事が、権力を保つコツだ。ワシが影の総理などと呼ばれ巨大な力を保っていられるのも、この社会がドブ沼に浸かっているからだ。お前のやり方では、ドブ沼をさらってワシの力を奪う事になる。だからお前を許してはおけん。」
 ……つまり素晴らしく、率直な大人という事です。
 この影の総理を打倒する唯一の手段と互いの命を賭けて、流全次郎と神竜剛次は雌雄を決すべく闘います。場所は因縁の地、二人の学舎である青雲学園校庭。かつて神竜剛次が本拠地として支配し、流全次郎が立ち上がった地です。
 誰にも邪魔されずに決闘を行う為、神竜剛次は校長を恫喝して青雲学園を臨時休校とします。登校してきた生徒達は色めき立ち、口々に文句を言い立てました。
「臨時休校だなんて、どうしてですかっ?」
「昨日までそんな話は何も無かったのに……」
「何をいい加減な事を言ってるんですかっ!三年生にとっては、大学入試の為に大事な時期なんですよっ!」
 コレに対する、神竜剛次の反応が白眉です。
「下衆どもが……休校が不服だと大騒ぎする程、学校で何を学んでいるというのだ!人間にとっての真実とは何の関係も無い受験技術…!人を出し抜く技術!!貴様達が学校で学んでいる事は、自分達の父親どもが作り上げたこの汚らしい社会に入って行く為の準備でしかない!卒業する時には父親どもとそっくりのブタだ!!」
 歯に衣着せぬ物言いは影の総理譲りですが、彼は非常に潔癖な人間であり、こんな事も言っています。
「これからは俺達の時代なのだ!!お前達の父親どもを見ろ!勤め先での出世競争、小金を貯めて家を建てる事、人の裏をかいて金を稼ぐ事ちっぽけな目先の欲に追い回されて何の理想も無く毎日をあくせく送っている!!お前達の父親はブタだ!!利己的な欲に固まって泥に顔を突っ込み、エサを漁る惨めなブタだ!!力ある者にはへつらい、力の無い者は踏み躙り、自分の欲望を満たす事しか考えていないブタだ!!欲望を満たす為には魂をも平気で売り飛ばす!!高貴な人間性など考えた事も無く、まずいエサをまずいとも思わずたらふく喰って、いぎたなく大イビキをかいて寝る!!それがお前達の父親だ!この世を醜い物にしてしまったブタどもなのだ!そんなブタの生活はぶち破れ!!それが俺達若い者の使命だっ!!お前達の父親どもが作ったブタの社会を理想社会に作り直すのが我々の闘いだ!!その為には我々に敵対する者どもを叩き潰さねばならん!!」
 そして、一方の流全次郎。彼は校門の前で生徒達に詰め寄られます。かつては共に闘い、友だと思っていた生徒達に。
「流くん、帰ってくれ!せっかく平和を取り戻した青雲学園を、再び騒ぎに巻き込むのはやめてくれ!!流くんが帰れば神竜も立ち去る!闘いを放棄するなんて言っていない、だけど僕達は学生だ、まだ無力だっ!!だから、うんと勉強して立派な社会人となって力をつけて、それから闘う道を考えると言っているんだ!!」
 流全次郎は、彼等に告げます。
「今ライオンに襲われようとしている時に、もっと自分が強くなるまで待ってくれと言ったら、ライオンは待ってくれるだろうか。大事なのは今だ!今、闘う事が大事なんだ!今闘わない人間が後で戦う訳が無い!!闘わない為の言い訳なんて、無限に考えつける物なんだ!!闘いを放棄する人間に一緒に闘えとはもう言わない!だが、闘う人間を妨げる事だけはしないでくれ!」
 この言葉に生徒達は沈黙し、流全次郎と神竜剛次は互いの全てをぶつけあう決闘へと臨むのです。