風の強い日だった。風の中、村の紙製の門松など「配り物」を配って回った。雪は今日は落ち着いて曇り空で、こんな日でさえ雪が降りさえしなければ、気分は少しはいい。北風でも、雪を連れてこなければ、いい天気である。そして、雪景色の夕暮れはなぜか寂しい。寂しい夕暮れには英国の詩人、ジョン・ウェイン (1925-1994) の詩を読む。
「なぜ迷ってしまったのかしら?」恋人が言った。
言いながら、身じろぎもせず眠ったままだった。ぼくは
目覚めて、はるか遠く誇らしげな恋人の寝息をみつめていた。
恋人の言葉のとどくところ、そこまでぼくはついていけなかった。
恋人は、ぼくのすべてから遠くへだたった世界を夢見ていた。
「なぜ迷ってしまったのかしら?」恋人はたずねているのではなかった。
(以下略)
二人は愛し合っているけれど、しかし深い眠りの中で、二人の間には越えがたい遠い距離があるのである。世界は男と女の世界である。夕暮れの雪景色の中にさえも男と女がいる。雪に埋もれた家々に明かりが灯るのは実にそうした世界である。フィクションである詩という文学は、実は現実世界をより鮮明にする。雪に埋もれた寂しさをフィクションによって慰め、またフィクションによって、雪の中の「暖かさ」を感じるのである。