深夜の窓に

2014-06-16 | 日記

        

月光が清かに森の間隙に光る深夜、ボオドレエル詩集 『 悪の華 』 ( 齋藤磯雄訳 ) から 「 」 という詩篇をここに書くのも一興であるかも知れない。

 

       われは美し、人間よ、あたかも似たり石の夢。

       人こもごもに来りては創痍負ふなるわが胸は、

       物質のごと不滅なる無言の愛を、詩人の

       心のなかに燃やさむにふさはしくこそ作られてあれ。

 

       われ蒼穹に君臨す、さながら謎のスフィンクス。

       雪の心を白鳥の真白き色に結ぶわれ。

       線を移して掻き擾す物の動きを憎むわれ。

       而してわれは絶えて、哭かず、絶えてまたわれは笑はず。

 

       傲然と立つ記念碑の姿を倣ぶかに見ゆる

       わが堂堂のたたずまひ、打眺めつつ詩人は、

       骨身を削る研鑽にその歳月を使ひ果さむ。

 

       そは、斯くばかり素直なる恋人たちを魅惑すに、

       万象の美をいよよ増す澄める鏡をわれ有てばなり、

       これぞわが眼、永遠の光芒を放つ大いなる眼。   

 

読めない文字が多々あるが、これもまた一興にして、深夜の心地いい冷気に当りながら 『 大字典 』 を引く。 引く身の哀れなりけり、窓から果て無き虚空に顔を放つ。