ようやく遅まきながらスマホを入手したおかげで、通勤電車ですっかり読書量が減少してしまい、「これではいかん!」と図書館で借りて来た小説がこれ。
原田マハさん、先日のクリュニー美術館を取り上げていた日曜美術館@NHKにもご出演をなさっていたが、六本木の森美術館の設立にも関わられた、キュレーターでもある小説家。プロフィールを拝見するとかなりユニーク。「楽園のカンヴァス」「ジヴェルニーの食卓」等、美術ファンがつい手をのばしたくなる作品も多い。これはタイトルずばり映画がテーマだ。
2008年に出版された作品であるが、その頃はちょうど私自身も地元のミニシアターに足繁く通っていたので、小説の中に出てくる映画がどんな作品かをけっこう知っていて、また、シネコン隆盛の中で、そのような小さな映画館がいかに苦労しているかも伺っていたので、しみじみと、時には泣きそうになりながら読んだのだった。
映画は映画館で見るに限る。登場人物のお父さんが熱く語ったように、映画を見て異世界を体験しているときに「日常」はご法度。「やたらと明るいコマーシャル」「お茶とおかき」「コタツ」はいただけないのである。
全体に本当に前向きで素直な「映画への愛」に充ちた小説で、象徴となる作品は「ニューシネマパラダイス」。実はこの映画は、映画通の方はあまり好きでない、というお声も聞くのだが、私は単純なので、こういう映画にはやられてしまうタイプ。なのでこの小説にも共感できる部分は多かった。
もうひとつこの小説でポイントとなるのが、映画の素晴らしさを実感させる「文章」だ。映画に夢中の親子、娘は老舗の映画雑誌にライターとして雇われ、父はひょんなことから、その映画雑誌のHPの専任ブロガーとなる。やはり映像を文章で語るのは限界があり、難しいものだ。でもその父親の朴訥とした、映画への愛を謳い上げるような文章が評判を呼び、何万という読者を獲得する。そして、アメリカの覆面映画評論家とのブログ上の論議が、さらに読者を激増させていくのだ。
作者はすごく文章の力を信じているんだな、と思った。何十万という読者を獲得するブログのやり取りそのものを作品の中で書く、ということはすごく覚悟がいるんじゃないかな、と思うのだ。私も文章の力を信じたいと思っているから、そこのところにも何かジンと感動するものがあった。原田マハさん、もっといろいろ作品を読んでみたいと思う。
アンクルもブログで映画評を書くときは、けっこう力が入るし、逡巡します
で、あとで読み返すと恥ずかしかったりします
語り合える仲間もいましたしね!
今は、良い映画も、遠くで通り過ぎていくようでサビシイわ~。