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新版画展 美しき日本の風景

2018-07-20 | 展覧会

京都伊勢丹の美術館「えき」で始まった「新版画展」、大変心待ちにしていました!

先日、浮世絵を創始した「鈴木春信展」に出かけたばかり、江戸時代に民衆の手に芸術をもたらした浮世絵は大流行しましたが、明治時代になると、写真や印刷など、新しいメディアに役割を奪われ、衰退していきました。そこで、一人の版元が、この日本の素晴らしい芸術である浮世絵の再興を目指し、画家らと取り組んで生み出したのが「新版画」です。この版元、渡邊庄三郎の生涯を追った書籍「最後の版元」を読んで以来、「新版画」をとっても見たかったんです!

「新版画」にも美人画や役者絵などのジャンルがありますが、本展では、吉田博、川瀬巴水を中心とした風景画が多く展示されていました。一目見て驚くのは、やはりその色彩の鮮やかさ。どうしても江戸時代の浮世絵は退色していますからネ、風景に見える山の色、水の色、色とりどりの花の色…、その美しさには目を奪われます。巴水の深い青の水の表現は、ホントに美しかったなあ!

この渡邊庄三郎さんのお孫さんが、何と!TV番組の「なんでも鑑定団」に出演されている渡辺章一郎氏で、出かけた日にギャラリートークを聞くことができて楽しかったです。やっぱり彼は画廊の方なので、マーケティングの視点の話が興味深かったです。例えば、吉田博は元々、風景画の画家として大家であったので、版画の世界でも大御所の彼に、おじいさんである庄三郎氏もあまり意見ができず、好きに制作してもらっていたらしい、一方、川瀬巴水には、より良い(売れる?)作品を作るために、いろいろと意見を出して共に作っていたようだ、という話。また、巴水の作品で、降りしきる雪に赤い建物と美しい女性、これはめちゃくちゃ人気がある!とか…。

ところで、新版画と同時代の版画運動に「創作版画」がありました。「新版画」が、共同で創作するものの画師・彫師・摺師で役割分担しているのに対し、「創作版画」はすべてを一人でこなします。以前紹介した「月映」は創作版画ですね。

本展では「創作版画」の作家である小泉癸巳男の『昭和大東京百図絵』を見ることができます。戦前の東京の風景を叙情的に描いたこの代表作により、彼は「昭和の広重」と言われており、会場では歌川広重の類似するテーマの作品が並べて展示されていて、その対比がおもしろいと思いました。「新版画」のように精緻ではなく、とても味のある小泉さんの作品は、かなり気に入ったのですが、絵はがき等が全くなくて残念でした。

前述の本を読んでいただけに、この「新版画」の作品たちには、題材、構図、色使い、色の重ね方、すべてにおいて、かつての浮世絵を再興し、そして超えてやろう!という意気込みがあふれているように感じました。会場には、故ダイアナ妃が気に入って購入した吉田博の作品と、ダイアナ妃のお部屋に飾られている写真が展示されていました。スティーブ・ジョブズ氏も愛好家だったそうです。ホント、浮世絵作品は、手元に置きたくなる気持ち、とってもわかります!

100点もの新版画を堪能できる貴重な機会。展覧会は、8月1日(水)まで。


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