アートの周辺 around the art

美術館、展覧会、作品、アーティスト… 私のアンテナに
引っかかるアートにまつわるもろもろを記してまいります。

映画『あえかなる部屋 内藤礼と、光たち』@立誠シネマ

2016-01-18 | 映画

 

楽しみにしていた映画鑑賞に、やっと行ってまいりました。場所は、立誠シネマ、木屋町通に面する元・立誠小学校を活用してさまざまな話題の映画を上映しています。以前、大興奮だったウィリアム・ケントリッジの展覧会が開催された場所でもあります。なんだか不思議な時間と空気が流れている場所。

これは、ある意味、異色の映画でした。ドキュメンタリーの主役であるはずのアーティスト内藤礼さんは、わずかなお姿と少しの声のみの登場で、まつわるエピソードも前半だけ。そして後半には、5人のさまざまな事情をかかえる女性たちが登場し、豊島美術館で一緒に時を過ごします。ナレーションは、監督ご本人の中村佑子さん。

これらをつなぐものが、「母型」。瀬戸内海に浮かぶ島、豊島につくられた白いドームのような豊島美術館。建築は、SANAAのメンバーである西沢立衛さん。この建物には開口部があり、そこからは自然の光や風、雨が吹き込みます。この中で展開されているのが、内藤礼さんの作品「母型」。床のそこここから水が湧き出て、小さな美しい粒となってころがる…。

この美術館できたのは2010年。そのとき開催された瀬戸内国際芸術祭に出かけたのだけれど、豊島美術館はあまりの混雑ぶりに立ち寄ることができませんでした。(そのときの豊島の様子はこちら) それ以降、訪ねるチャンスがないのですが、やはりこの美術館に行ったことのある人ない人では、映画の感じ方がずいぶん違うかもしれません。建物の内外の境目のない感じ、床の質感、空気の匂い、音の聞こえ方…。そんなものが映画体験をよりいっそう豊かにし、そこに集った女性たちの心情に共感できるのではないでしょうか…。

内藤礼さんは、ずっと昔から気になっている作家です。1991年、佐賀町エキジビットスペースで展開された「地上にひとつの場所を」を見に行ったことは、今ではかなりの貴重な体験です。天幕のような空間に入っていくときの密やかなドキドキ感、靴を脱いであがった柔らかな布の感触を、今でも覚えています。そこに展開されていた小さくてはかなげなものたちと淡い光を、息をのんで見つめた、その体験自体が作品であったのだと感じます。

それから、直島で作品を見て以来、内藤礼さんのお名前を聞くことは、本当にまれでした。2009年の鎌近(もうすぐ終わってしまいますね…)の展覧会は、ホント行きたかったな~。露出も少ないので、かなり謎に包まれたアーティストという印象です。そういう意味では、この映画は、内藤さんをよく表現しているといえます。

それでも中村監督が、長い時間をかけて内藤礼さんと信頼関係を築いていった暖かい軌跡がうかがえました。そのような関係性のもと、監督の個人的な体験が語られ、登場する女性たちの心情が織り成した、私家集のようなドキュメンタリーでした。個人的には、一番若い中学生の女の子の表情や言葉が、グッときたなあ。豊島美術館の中での映像は、本当に美しかったです。

今年は、瀬戸内国際芸術祭の年ですね。豊島美術館、ぜひ行きたい!でもどうなんでしょう、あの映画のように静謐な時間を体験できるものなのでしょうか??

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