脳のリンパ腫
(のうのりんぱしゅ)
更新日:2006年10月01日 掲載日:2006年10月01日
1.はじめに
脳のリンパ腫は、医学用語では「中枢神経原発悪性リンパ腫」(Primary CNS Lymphoma:PCNSL)といいます。悪性リンパ腫が起こったとき(初発時といいます)に、それが脳や脊髄および眼にだけある状態(医学用語では限局するといいます)を指します。ここでは、中枢神経原発の悪性リンパ腫を「脳のリンパ腫」と呼んで話を進めます。
2.悪性リンパ腫とは
血液の中には、酸素を運ぶ赤血球、出血を止める際に重要な働きをする血小板、体を細菌などから守る白血球の、3種類の血球があります。さらに、白血球は大きく5種類に分かれます。その1つにリンパ球があります。リンパ球には、主に抗体を作るB細胞(Bリンパ球)と、Bリンパ球が抗体をつくるのを調整したり、またがん細胞やウイルス感染細胞を直接やっつける殺し屋(キラーリンパ球、キラー細胞)になったりするT細胞(Tリンパ球)があります。このリンパ球が“がん”になって腫瘤(しゅりゅう)をつくると、「悪性リンパ腫(Malignant Lymphoma)」と呼ばれます。リンパ球の集まった組織をリンパ組織と呼びますが、これは体の至るところにみられます。リンパ節や腸や胃等の臓器の中にもリンパ組織がありますので、リンパ腫は体のどこにでも発生することになります。この場合、リンパ節に発生したリンパ腫を「節性リンパ腫」と呼び、リンパ節以外に発生したリンパ腫を「節外性リンパ腫」と呼びます。これはリンパ腫のできる場所で決めた分け方です。節外性リンパ腫は、そのできた場所でも分けられることになります。つまり、胃にできれば胃リンパ腫とい
いますし
、肺にできれば肺リンパ腫と呼びます。
悪性リンパ腫の生い立ちや分類について、さらに詳しく知りたい方はクリックしてください。
3.脳のリンパ腫は他の場所のリンパ腫と違いがあるのでしょうか。
――― 脳は特殊な仕組みで守られています。
他の部位の血管とは異なり、脳の中を流れる血管には「脳血管関門」(Blood Brain Barrier:BBB)と呼ばれる特殊な仕組みが備わっています。これは、血液の中に含まれる有害な薬などを、簡単に脳の中に通さないようにして脳を守るための仕組みです。しかしこのことは、脳の中にできたがんを攻撃するには不利になり、有効な抗がん剤の種類が限られてしまいます。現在、中高悪性リンパ腫の治療に多く用いられる「CHOP(チョップ)療法(ドキソルビシン/ビンクリスチン/シクロホスファミド/プレドニゾロン)」は4種類の抗がん剤を使用しますが、プレドニゾロンを除いてこれらの薬は脳血管関門を通過しません。
このため脳のリンパ腫の治療には、この脳血管関門を通過するメトトレキサートやシタラビン(Ara-C)等の抗がん剤が用いられます。非ホジキンリンパ腫には約40もの種類がありますが、びまん性大細胞B細胞リンパ腫がその約30%を占めます。ところが脳のリンパ腫は、その90%がびまん性大細胞B細胞リンパ腫で、残りの10%程度がバーキットリンパ腫やT細胞リンパ腫です。患者さんの発症年齢は60歳前後で、男性がやや多いようです。
4.脳のリンパ腫はどのくらいある病気なのでしょうか?
――― 脳のリンパ腫は増えています。
脳のリンパ腫は、1970年代後半までは全リンパ腫の1%にも満たないまれな病気でした。しかし、1980年代より米国を中心にエイズ(後天性免疫不全症候群:AIDS)の患者さんや、臓器移植後などの免疫能が極度に低下している患者さんでの発症が報告されるようになりました。また、免疫能の正常な患者さんへの発生も増加傾向にあると報告されています。日本ではこのような統計がありませんが、1980年代に大阪地区の患者さんを調べた結果、脳のリンパ腫は節外性リンパ腫の1.8%と報告されていました。この報告から日本での脳のリンパ腫の発生頻度は、米国と同じように悪性リンパ腫全体の1%未満と推測されていました。ところが1990年代の福岡地区の調査では、脳のリンパ腫は悪性リンパ腫全体の約3%でした。日本の脳腫瘍全国集計調査報告書によりますと、1969年から1983年の14年間で272人の患者さんが登録されましたが、1984年から1993年の10年間では1,038人もの患者さんが発生し、やはり発症率が高くなっていると考えられます。日本の患者さんの多くは免疫能が正常と考えられる
ので、画像診断の進歩や人口の高齢化だけでは説明できず、増えている原因は不明です。ただ、増加傾向にあるとはいえ、脳のリンパ腫の罹患率(りかんりつ:病気にかかる割合)は、10万人に0.38人とまれな病気であることは確かです。
5.どのような症状があるのでしょうか?
――― 悪性リンパ腫が発生した場所で症状は異なります。
脳は、場所によりそれぞれ働きが異なります。詳しくはクリックしてください。
脳のリンパ腫の症状は、脳腫瘍としての“巣症状”(脳の中にかたまりができて、圧迫された部位の脳の働きが阻害され、麻痺、感覚障害等、その部位に特異的な症状が出ること)での発症が半数以上にみられます。また、頭痛などの症状もみられます。大脳の前頭葉に病変が多いため、性格変化が初発症状のこともあります。他の脳腫瘍に比較して痙攣(けいれん)は少ない(10%程度)です。これは、リンパ腫が脳の深いところにできることが多いためと考えられています。発熱などの全身症状は2%程度と少なく、眼の症状は5~20%の患者さんにみられます。脊髄にできることはまれです。
症状の進み具合はリンパ腫の病型(リンパ腫の種類)にもよりますが、多くはびまん性大細胞B細胞リンパ腫ですので、週単位で急速に進行します。脳や脊髄は、硬膜という膜で包まれています。その中を脳脊髄液が流れていますが、この液を採り、リンパ腫細胞がいるかどうかをみる検査(髄液検査)を実施すると、16~40%の患者さんにリンパ腫細胞が見られます。これを“脳脊髄液への浸潤(しんじゅん)”と呼び、脳脊髄液の中にリンパ腫細胞が広がっていることを意味します。しかし脳のリンパ腫は、脳や脊髄腔以外の全身に広がることはまれで、再発も脳や脊髄で起こることが多いです。
6.脳のどこにできやすいのか
――― 脳の深いところです。
脳のリンパ腫の80%以上は大脳にできます。初発のとき腫瘤が1つだけ(単発といいます)のこともありますが、患者さんの30~40%は複数個(多発といいます)みられます。できやすい場所は、表に示しましたように側脳室の周囲の脳の深いところです。この表は、ヨーロッパの国々で378人の脳のリンパ腫の患者さんについて、その発生した場所をまとめたものです。
表1 脳のリンパ腫の発生部位
病変部位 患者数 頻度(%)
前頭葉 166 44
側頭葉 50 13
頭頂葉 52 14
後頭葉 24 6
大脳基底核(だいのうきていかく)
104 28
脳幹部 21 6
小脳 23 6
髄膜 39 10
脳神経 3 <1
初診時複数病変を含む。
薄井紀子 医学のあゆみ 212巻5号491-498、2005年
さらに詳しく知りたい方はクリックしてください。
7.脳のリンパ腫の診断はどのようにするのでしょうか?
――― 手術による生検と病理診断、さらに脳以外に病気がないかどうかの確認が重要です。
脳のリンパ腫と診断し、さらに病気の広がり(病期といいます)などをきちんと評価するには、表2のような検査が必要です。他には患者さんの全身状態を調べるための検査、例えば心臓の検査のための心電図や心臓超音波検査、あるいは肝臓や腎臓を調べる検査等が必要です。
重要なことは、まず脳にできた腫瘤が悪性リンパ腫かどうかを決めることです。最近では、MR検査などの痛みを伴わない検査法の進歩によって、悪性リンパ腫の画像診断が高い精度でできるようになりました。ただし、診断を確実にするには、手術を行って得たがんの一部を用いる病理組織診断が必須です。腫瘤の組織を採取してホルマリンという固定液で固定し、パラフィン標本という標本をつくります。さまざまな染色や抗体を使った免疫染色などの標本を作製した後、病理専門医(病理診断を専門にしている医師)に診断をしてもらうことです。悪性リンパ腫を手術で全部取ろうとしても、これで患者さんが治癒する可能性は乏しいばかりか、後遺症を残すことも考えられます。正しい診断をつけることで最も良い治療法を選択することができますから、確実にかつ検査に必要なだけの十分な量のがん組織を採取するためには、定位脳手術が勧められます。また可能な施設では、手術中に速やかに病理診断(“術中迅速病理診断”といいます)を行います。ただ、注意が必要なのは、この診断方法は手術中に結果を出すために、あくまでも急いで行う暫定的なものです。前述のようにパラ
フィン標本を作製して、詳しくかつ慎重に観察できる標本を作成してから診断することが重要です。その結果によっては、手術中の迅速病理診断結果が後に変更になることも、実際にはあります。
次に重要なことは、脳にだけリンパ腫があるのか、それとも他の場所にもあるのかを調べることです。他にもある場合は、そのがんが脳に転移したのか、それとも脳にできたものが転移したのかという、2つの可能性があります。ただ、脳のリンパ腫の場合は、脳以外に広がることはまれです。脳以外にある場合は、脳から転移したリンパ腫とそれ以外のリンパ腫に対して、異なる方法の治療が必要になります。このために頸部、胸部、腹部等のCT検査が必要です。また、悪性リンパ腫は血をつくる骨髄にみられることが多いので、骨髄生検が必要になります。他には眼の検査や、前述した脳脊髄液の中にリンパ腫細胞がいないかどうかを調べる検査(髄液検査)が必要になります。
表2 脳のリンパ腫の診断に必要な検査
頭部MRI(ガドリニウムによる造影)
腰椎穿刺(ようついせんし)
眼科的診察(スリットランプを含む)
胸部、腹部、骨盤部CT
骨髄検査(穿刺、生検)
脊髄MRI(病変が疑われるとき)
8.予後因子とはなんでしょうか
――― 年齢(60歳以上)、パフォーマンスステータス(PS)1以上、血中LDHの異常値、髄液中のたんぱく増加、脳の深部にがんがあることの5つが予後不良の因子と呼ばれています。
脳のリンパ腫:[がん情報サービス]
http://www.google.co.jp/gwt/x?q=%E6%82%AA%E6%80%A7%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%91%E8%85%AB+%E8%84%B3+%E8%BB%A2%E7%A7%BB&ei=Lk_XT7C6EYPBkAXAhgE&ved=0CAgQFjAA&hl=ja&source=m&rd=1&u=http://ganjoho.jp/public/cancer/data/brain_lymphoma.html
(のうのりんぱしゅ)
更新日:2006年10月01日 掲載日:2006年10月01日
1.はじめに
脳のリンパ腫は、医学用語では「中枢神経原発悪性リンパ腫」(Primary CNS Lymphoma:PCNSL)といいます。悪性リンパ腫が起こったとき(初発時といいます)に、それが脳や脊髄および眼にだけある状態(医学用語では限局するといいます)を指します。ここでは、中枢神経原発の悪性リンパ腫を「脳のリンパ腫」と呼んで話を進めます。
2.悪性リンパ腫とは
血液の中には、酸素を運ぶ赤血球、出血を止める際に重要な働きをする血小板、体を細菌などから守る白血球の、3種類の血球があります。さらに、白血球は大きく5種類に分かれます。その1つにリンパ球があります。リンパ球には、主に抗体を作るB細胞(Bリンパ球)と、Bリンパ球が抗体をつくるのを調整したり、またがん細胞やウイルス感染細胞を直接やっつける殺し屋(キラーリンパ球、キラー細胞)になったりするT細胞(Tリンパ球)があります。このリンパ球が“がん”になって腫瘤(しゅりゅう)をつくると、「悪性リンパ腫(Malignant Lymphoma)」と呼ばれます。リンパ球の集まった組織をリンパ組織と呼びますが、これは体の至るところにみられます。リンパ節や腸や胃等の臓器の中にもリンパ組織がありますので、リンパ腫は体のどこにでも発生することになります。この場合、リンパ節に発生したリンパ腫を「節性リンパ腫」と呼び、リンパ節以外に発生したリンパ腫を「節外性リンパ腫」と呼びます。これはリンパ腫のできる場所で決めた分け方です。節外性リンパ腫は、そのできた場所でも分けられることになります。つまり、胃にできれば胃リンパ腫とい
いますし
、肺にできれば肺リンパ腫と呼びます。
悪性リンパ腫の生い立ちや分類について、さらに詳しく知りたい方はクリックしてください。
3.脳のリンパ腫は他の場所のリンパ腫と違いがあるのでしょうか。
――― 脳は特殊な仕組みで守られています。
他の部位の血管とは異なり、脳の中を流れる血管には「脳血管関門」(Blood Brain Barrier:BBB)と呼ばれる特殊な仕組みが備わっています。これは、血液の中に含まれる有害な薬などを、簡単に脳の中に通さないようにして脳を守るための仕組みです。しかしこのことは、脳の中にできたがんを攻撃するには不利になり、有効な抗がん剤の種類が限られてしまいます。現在、中高悪性リンパ腫の治療に多く用いられる「CHOP(チョップ)療法(ドキソルビシン/ビンクリスチン/シクロホスファミド/プレドニゾロン)」は4種類の抗がん剤を使用しますが、プレドニゾロンを除いてこれらの薬は脳血管関門を通過しません。
このため脳のリンパ腫の治療には、この脳血管関門を通過するメトトレキサートやシタラビン(Ara-C)等の抗がん剤が用いられます。非ホジキンリンパ腫には約40もの種類がありますが、びまん性大細胞B細胞リンパ腫がその約30%を占めます。ところが脳のリンパ腫は、その90%がびまん性大細胞B細胞リンパ腫で、残りの10%程度がバーキットリンパ腫やT細胞リンパ腫です。患者さんの発症年齢は60歳前後で、男性がやや多いようです。
4.脳のリンパ腫はどのくらいある病気なのでしょうか?
――― 脳のリンパ腫は増えています。
脳のリンパ腫は、1970年代後半までは全リンパ腫の1%にも満たないまれな病気でした。しかし、1980年代より米国を中心にエイズ(後天性免疫不全症候群:AIDS)の患者さんや、臓器移植後などの免疫能が極度に低下している患者さんでの発症が報告されるようになりました。また、免疫能の正常な患者さんへの発生も増加傾向にあると報告されています。日本ではこのような統計がありませんが、1980年代に大阪地区の患者さんを調べた結果、脳のリンパ腫は節外性リンパ腫の1.8%と報告されていました。この報告から日本での脳のリンパ腫の発生頻度は、米国と同じように悪性リンパ腫全体の1%未満と推測されていました。ところが1990年代の福岡地区の調査では、脳のリンパ腫は悪性リンパ腫全体の約3%でした。日本の脳腫瘍全国集計調査報告書によりますと、1969年から1983年の14年間で272人の患者さんが登録されましたが、1984年から1993年の10年間では1,038人もの患者さんが発生し、やはり発症率が高くなっていると考えられます。日本の患者さんの多くは免疫能が正常と考えられる
ので、画像診断の進歩や人口の高齢化だけでは説明できず、増えている原因は不明です。ただ、増加傾向にあるとはいえ、脳のリンパ腫の罹患率(りかんりつ:病気にかかる割合)は、10万人に0.38人とまれな病気であることは確かです。
5.どのような症状があるのでしょうか?
――― 悪性リンパ腫が発生した場所で症状は異なります。
脳は、場所によりそれぞれ働きが異なります。詳しくはクリックしてください。
脳のリンパ腫の症状は、脳腫瘍としての“巣症状”(脳の中にかたまりができて、圧迫された部位の脳の働きが阻害され、麻痺、感覚障害等、その部位に特異的な症状が出ること)での発症が半数以上にみられます。また、頭痛などの症状もみられます。大脳の前頭葉に病変が多いため、性格変化が初発症状のこともあります。他の脳腫瘍に比較して痙攣(けいれん)は少ない(10%程度)です。これは、リンパ腫が脳の深いところにできることが多いためと考えられています。発熱などの全身症状は2%程度と少なく、眼の症状は5~20%の患者さんにみられます。脊髄にできることはまれです。
症状の進み具合はリンパ腫の病型(リンパ腫の種類)にもよりますが、多くはびまん性大細胞B細胞リンパ腫ですので、週単位で急速に進行します。脳や脊髄は、硬膜という膜で包まれています。その中を脳脊髄液が流れていますが、この液を採り、リンパ腫細胞がいるかどうかをみる検査(髄液検査)を実施すると、16~40%の患者さんにリンパ腫細胞が見られます。これを“脳脊髄液への浸潤(しんじゅん)”と呼び、脳脊髄液の中にリンパ腫細胞が広がっていることを意味します。しかし脳のリンパ腫は、脳や脊髄腔以外の全身に広がることはまれで、再発も脳や脊髄で起こることが多いです。
6.脳のどこにできやすいのか
――― 脳の深いところです。
脳のリンパ腫の80%以上は大脳にできます。初発のとき腫瘤が1つだけ(単発といいます)のこともありますが、患者さんの30~40%は複数個(多発といいます)みられます。できやすい場所は、表に示しましたように側脳室の周囲の脳の深いところです。この表は、ヨーロッパの国々で378人の脳のリンパ腫の患者さんについて、その発生した場所をまとめたものです。
表1 脳のリンパ腫の発生部位
病変部位 患者数 頻度(%)
前頭葉 166 44
側頭葉 50 13
頭頂葉 52 14
後頭葉 24 6
大脳基底核(だいのうきていかく)
104 28
脳幹部 21 6
小脳 23 6
髄膜 39 10
脳神経 3 <1
初診時複数病変を含む。
薄井紀子 医学のあゆみ 212巻5号491-498、2005年
さらに詳しく知りたい方はクリックしてください。
7.脳のリンパ腫の診断はどのようにするのでしょうか?
――― 手術による生検と病理診断、さらに脳以外に病気がないかどうかの確認が重要です。
脳のリンパ腫と診断し、さらに病気の広がり(病期といいます)などをきちんと評価するには、表2のような検査が必要です。他には患者さんの全身状態を調べるための検査、例えば心臓の検査のための心電図や心臓超音波検査、あるいは肝臓や腎臓を調べる検査等が必要です。
重要なことは、まず脳にできた腫瘤が悪性リンパ腫かどうかを決めることです。最近では、MR検査などの痛みを伴わない検査法の進歩によって、悪性リンパ腫の画像診断が高い精度でできるようになりました。ただし、診断を確実にするには、手術を行って得たがんの一部を用いる病理組織診断が必須です。腫瘤の組織を採取してホルマリンという固定液で固定し、パラフィン標本という標本をつくります。さまざまな染色や抗体を使った免疫染色などの標本を作製した後、病理専門医(病理診断を専門にしている医師)に診断をしてもらうことです。悪性リンパ腫を手術で全部取ろうとしても、これで患者さんが治癒する可能性は乏しいばかりか、後遺症を残すことも考えられます。正しい診断をつけることで最も良い治療法を選択することができますから、確実にかつ検査に必要なだけの十分な量のがん組織を採取するためには、定位脳手術が勧められます。また可能な施設では、手術中に速やかに病理診断(“術中迅速病理診断”といいます)を行います。ただ、注意が必要なのは、この診断方法は手術中に結果を出すために、あくまでも急いで行う暫定的なものです。前述のようにパラ
フィン標本を作製して、詳しくかつ慎重に観察できる標本を作成してから診断することが重要です。その結果によっては、手術中の迅速病理診断結果が後に変更になることも、実際にはあります。
次に重要なことは、脳にだけリンパ腫があるのか、それとも他の場所にもあるのかを調べることです。他にもある場合は、そのがんが脳に転移したのか、それとも脳にできたものが転移したのかという、2つの可能性があります。ただ、脳のリンパ腫の場合は、脳以外に広がることはまれです。脳以外にある場合は、脳から転移したリンパ腫とそれ以外のリンパ腫に対して、異なる方法の治療が必要になります。このために頸部、胸部、腹部等のCT検査が必要です。また、悪性リンパ腫は血をつくる骨髄にみられることが多いので、骨髄生検が必要になります。他には眼の検査や、前述した脳脊髄液の中にリンパ腫細胞がいないかどうかを調べる検査(髄液検査)が必要になります。
表2 脳のリンパ腫の診断に必要な検査
頭部MRI(ガドリニウムによる造影)
腰椎穿刺(ようついせんし)
眼科的診察(スリットランプを含む)
胸部、腹部、骨盤部CT
骨髄検査(穿刺、生検)
脊髄MRI(病変が疑われるとき)
8.予後因子とはなんでしょうか
――― 年齢(60歳以上)、パフォーマンスステータス(PS)1以上、血中LDHの異常値、髄液中のたんぱく増加、脳の深部にがんがあることの5つが予後不良の因子と呼ばれています。
脳のリンパ腫:[がん情報サービス]
http://www.google.co.jp/gwt/x?q=%E6%82%AA%E6%80%A7%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%91%E8%85%AB+%E8%84%B3+%E8%BB%A2%E7%A7%BB&ei=Lk_XT7C6EYPBkAXAhgE&ved=0CAgQFjAA&hl=ja&source=m&rd=1&u=http://ganjoho.jp/public/cancer/data/brain_lymphoma.html