迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

大入叶!

2020-04-19 18:43:00 | 浮世見聞記

澄んだ空の向ふに映える白富士。

町内に例年通り訪れる年中行事。


浮世の景色は変はらねど、変わったはニンゲンの生活。


忌ま忌ましきは支那疫病かな。


なれば気分も変へやうと、再び隣町の古刹へ出かける。



鐘楼を包む竹林のもとに腰をおろし、風に躍る笹に耳を澄ますうち、ここでひとつ手猿樂の稽古をしやうと、俄かに思ひ立つ。


鞄にいつも入れてゐる夏扇を手にとり、

「能樂師は、扇さへあればいつでもどこでも舞える」──

金春流前宗家の言葉、まさにこれなりと噛みしめる。


包む竹林は見物人、

風に躍る笹はその歓聲──


さう見立てた途端、稽古はたちまち本番の舞台となる。


これは現代手猿樂はじまって以来の大入りじゃ……!



ひとつ舞ひおほせると、


“もっとなにかやれ……!”


笹たちは、さう枝を鳴らして所望する。


「されば……」

私はまう少し工夫を凝らしてから初演と考へてゐた“新作”を、試演として披露する。


仕舞ひに附祝言として「すゑひろがり」をつとめると、向ふから鶯の聲が。



なんて素晴らしい褒美……!

私は石段に再び腰をおろし、しばしその聲に聞き入る。





ああ、立ち去りがたき風情かな。



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