迦陵頻伽──ことだまのこゑ

手猿樂師•嵐悳江が見た浮世を気ままに語る。

ニッポン徘徊──東海道27 掛川宿

2018-11-30 07:48:14 | 旧東海道
次の掛川宿までは国道との合流がほとんどなく、松並木もよく保存されているなど、ほぼかつての道筋を辿ることが出来ます。

↑写真は袋井宿から20分ほど行った久津部(くつべ)地区に残るそれで、松並木は直射日光から旅人を護ると云う目的のほか、沿道の田畑との境界線の役割も果たしていたと云うことが、よくわかる景色です。

かつては、農民が道端をすこしづつを削って、自分の田畑にしてしまうことが横行していたようです。


津久部地区をさらに進むと、右手の小学校に沿って津久部一里塚が復元されていますが、



平成十二年に復元する際、このような小さな姿にしたようで、なんとなく愛らしい姿につい微笑を誘われます。


ここから先は左手の大工場に沿いながら、松並木が土手と共に良好な姿で続いています。


掛川市との境に架かる同心橋を渡るときだけ、国道1号線「掛川バイパス」と合流、橋を渡るとすぐに左手へ分かれ、割烹旅館や寿司屋にかつての間の宿──茶屋などが設けられた休憩所──の名残りが窺える原川地区の先には、



浮世絵を思わせる眺めの松並木が。


東名高速道路と掛川バイパスの高架下を続けてくぐり抜けると、道幅が狭いわりにクルマの往来が激しい──もちろん歩道なんてありません!──細田(さいだ)地区を経て、まっすぐの道の両側に民家が続く末広町を通り、一里塚跡の標識を右手に見てさらに行くと、昔の国鉄二俣線──現在の天竜浜名湖鉄道のガードをくぐり、鳥居町の交差点へと至ります。

この交差点を右へ折れてまっすぐ行けば目指す掛川の城下、地理的にもそれが最短距離ですが、これは近年に拓かれた道です。

旧東海道は、いかにも昔の街道らしく、北へぐるりと遠回りをして、十九首から南下して掛川城下に入ります。


ところで、「十九首(じゅうくしゅ)」とは金田一耕助の世界を思わせるような、



いかにも謂われ因縁あり気な耳慣れない地名ですが、これは平安時代初期、天慶の乱で敗れた平将門と家臣十八人の首級(みしるし)を、敵将の藤原秀郷らがこの地に一首づつ分けて埋葬し、それぞれに塚を建てたことに因るものです。

十九基あった塚はのちに一基にまとめられ──一説には一基を残して行方不明となり──、それは現在も旧道からすこし入ったところに、



大切に保存されています。

平将門は江戸時代には関東の守護神として崇められて現在に至る武将、私も丁寧に合掌してから、先を急ぎます。


掛川といえばもう一つ、江戸時代後期、旅興行中にこの地で客死した、三代目尾上菊五郎のお墓も訪ねることにします。

近年の区画整理でいまの場所に移動した行楽寺の本堂脇に、それは安置されています。



合掌していると、お寺の近くを300キロ近い高速度で移動する文明の利器──新幹線が走り、江戸から何日もかかる遠いこの地で命を終えなくてはならなかった音羽屋と、なにかあれば新幹線に乗って数時間で江戸(東京)へ行ける二十一世紀いま現在との“格差”を、しみじみ思わずにはいられません。


さて、掛川宿は言わずと知れた掛川城の城下町、



今川忠義が文明元年(1469年)に家老の朝比奈備中守に築かせたことに始まる城で、江戸時代には徳川家に縁ある大名が代々城主をつとめ、明治二年に廃城となりました。

お膝元の宿場は、現在ではありふれた雰囲気の商店街となっていますが、



かつてここは裃などに用いた葛布が名産品で、城下町という性格上、遊女などを置かないカタイ宿場……と、それはあくまでオモテ向き。

実際には葛織りの女性にいくらか出せば、“夜の相手”を引き受けてくれたようです……。

もっとも、明治も半ばになると市街の西の外れ、ちょうど前述の十九首の近くに花街がつくられ、昭和三十三年三月三十一日に赤線が廃止されるまで、二軒の廓が生き残って営業していたそうです。

そのうちの一軒は赤線廃止後に「萩の家」という旅館に鞍替えしましたが、いつしか廃業、かつての廓の雰囲気を濃厚に残した建物は長らく放置されて倒壊寸前にまで荒れ果て、昔の面影が一掃された平凡な住宅地となったそこに、最近まで異様な雰囲気を漂わせていました。

しかし、現在ではキレイサッパリ取り壊されて、



更地になっています。

往年の廃墟を御覧になりたい方は、『掛川 萩の家旅館』などで検索すると、凄まじい画像がかなり出てくるはずです……。
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