冬は風邪やインフルエンザが流行しやすい季節だ。多くの患者と接する医師たちは、どのような対策をしているのか。フリーランス麻酔科医の筒井冨美氏は「インフルエンザの予防接種は必須。それ以外にも予防や対処の『小技』があります」という。どんなテクニックなのか――。
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■現役医師が実践する風邪・インフル予防とは?

本格的な風邪の流行シーズンになった。ときおり「お医者さんも風邪をひくんですか?」といった質問を受けるが、私は「はい」と答える。医者も人間なので、当然ながら風邪をひく。「でも、医者ならではの“必殺技”があるのでは?」と聞かれれば、“必殺技”と言うほどではないが、小技はあるので、今回はそれをご紹介したい。

1)予防接種は必須

まずインフルエンザの予防接種は必須である。現在、最も効果が証明された予防策である。よって、筆者を含む多くの医者は接種している。読者の皆さんも接種してほしい。「近所にきれいなクリニックができて気になっているけど、特に病気もないし……」のような場合には、格好の偵察理由にもなる。

医者自身(特に勤務医)が予防接種を打つ最大の理由は「打たずに風邪をひいて休んだ時、仕事が増えてしまった周囲の反応が怖い」からである。企業と同じく、病院でも、風邪で休んだ人間の給与は減らないが、穴埋めした人材の給与も増えない。予防策を講じた上での感染ならば情状酌量の余地はあるが、予防接種すらしていない(近年は電子カルテなので、簡単に判明する)場合に職場で何を言われているか想像すると……クワバラクワバラである。筆者も小市民なので、毎年打っている。

2)風邪? それともインフルエンザ?

風邪とは「ウイルスによる上気道(鼻・のど)感染症」の俗称である。なかでもインフルエンザはインフルエンザウイルスによる感染であり、症状が重く感染力も強いので区別して対策されている。「風邪ぐらいで休むな!」と騒ぐ鬼上司も、インフルエンザと言えばすんなり休ませてもらえる。特徴を表にまとめたので、参照いただきたい。

「インフルっぽい熱」で病院を受診すれば、まず行われるのが鼻腔粘膜のインフルエンザウイルス迅速診断だろう。綿棒を鼻の奥に突っ込んでゴリゴリされて、機械に入れてしばらく待つと「A型ですね」などと診断される、すっかりおなじみになった検査だが、この診断キットには弱点がある。感染の直後(24時間以内)では「偽陰性」出やすいことである。インフルエンザウイルスがいるのに、10~30%程度は反応が出ないのだ。

医者仲間だと、そのへんは十分承知しているので、研修医が電話で上司に対して「インフルっぽいんです。昨日の夜から急に39℃の熱が出て、全身の関節が痛いんです。去年もらった、タミフル(抗インフルエンザ薬)だったら手元にあります」とガラガラ声で話せば、上司は「そうか、とりあえず今日は病院に来ず、家で静養してろ」などと、たいていは症状だけで判断してくれる。

しかし、頭の固い会社員管理職だと「インフルっぽい? ちゃんと病院行って、インフルエンザの証明書を出してもらえ。でないと、病欠は認められない」などとゴネることもあるので、哀れなインフル会社員は39℃の高熱に耐えつつ夜間やっている病院を探しだして、救急外来で長時間待たされた挙げ句、運が悪いと迅速検査で陰性判定(本当は陽性)されてしまう。翌朝に電話報告して、「インフルじゃないんなら、会社に来い」と再度怒られたりするのも、「ジャパニーズサラリーマンあるある」である。

よって、不幸にして上司や社風がインフルエンザ検査結果を重視するタイプの場合、高熱が出た直後に無理して救急外来を受診するのではなく、「インフルっぽいので、明日午前中は半休で病院受診します。インフルだったら、そのまま自宅静養します」などと、発症から時間をおいてからの検査が、偽陰性の確立を下げることになる。

■葛根湯や麻黄湯など漢方薬をこよなく愛する医者も多い

3)抗インフルエンザ薬には過大な期待をしない

タミフル、イナビル、リレンザと言った抗インフルエンザの従来薬品に加え、今シーズンから「ゾフルーザ」が処方できるようになった。「ゾフルーザ(Xofluza)」という商品名は、「インフルエンザ(Influenza)を、ノックアウト(XO)」だそうで、なんとなく頼もしい。「1回飲めば終了」という使いやすさもうれしい。ただし、20mg1錠が約2400円、80kgを超えた成人は4錠必要なので、それなりのお値段となる。

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全ての抗インフルエンザ薬に言えることだが、「それを飲めばたちどころに治る」というミラクルな薬ではなく「ウイルスの増殖を抑えて、熱に苦しむ期間を1日程度短縮する」レベルの効果である。近場に手頃なクリニックがあるならともかく、夜間や連休中に高熱の体で遠方の救急外来を受診するほどの価値があるかと問われれば、それは微妙である。治療の基本は自宅安静だが、最終的に受診するかしないかは個々のご判断にお任せしたい。

4)市販の総合感冒薬、漢方薬はそこそこ有効

インフルエンザではなく風邪をひいたとき、医者はどうするか?

最も多いのは、「市販の総合感冒薬を飲んで、自宅安静」だろう。総合感冒薬とは幕の内弁当のようなもので、5~6種類の成分を組み合わせた製品となっている。コレというような切り札ではないが、たいていはどれかが効くので症状は軽くなることが多い。値段も手ごろで、街のドラッグストアなどで簡単に入手できる。そして、ムダに病院を受診して消耗することもない。

また、葛根湯や麻黄湯のような漢方薬をこよなく愛する医者も多い。「インフルエンザには抗インフルエンザ薬より麻黄湯が効く」と経験則から主張する医師もそれなりに実在する。読者の皆さんは薬局で迷ったら、自分の症状を説明しどんな薬が適切か薬剤師や登録販売者に相談するといいだろう。

そして薬を飲んだら、後はとにかく寝る。水分補給しながら、ひたすら寝るべきである。乾燥注意報が出ている日ならば、加湿を忘れずに。加湿器がなくても、濡れたタオルを枕元に干せば、とりあえずは加湿器代わりになるはずだ。

■現役医師の風邪対策「スリッパ、柚子、養命酒」

5)筆者の風邪対策

最後に筆者自身の風邪の予防法を紹介したい。

【頭寒足熱にアウトドアスリッパ】

昔から「頭寒足熱」というように、ピンポイントに足を温めることは、寒さ対策と勉強・仕事の効率アップに有用だと思う。足首には鍼灸のツボも集中しており、温めると何より気持ちがよい。筆者は、自宅でアウトドアスリッパを愛用している。これは、もともとキャンプのときにテント内で履くための用品なので保温性能はバッチリ、履いたまま寝てしまうこともしばしばある。実は、この原稿を書きながらも履いている。

【ホット柚子はちみつ】
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風邪のシーズンになると、柚子が安くなる。出勤前に500mlの保温水筒に、「柚子果汁一個分(酸っぱいのが苦手な場合は半分、レモンでも代替可)+はちみつ大さじ4~5杯+熱湯」を入れて、移動中などにちびちび飲む。新鮮なビタミンとはちみつによるのど保護効果が期待できる。絞った柚子の皮は風呂にまわすのもよい。

 
【ぬる湯で長湯】

入浴はぬるめのお湯にひたすら浸かる。すると、免疫とか末梢循環が改善するような気がする。筆者の場合、風呂に防水タブレットを持ち込んで、30分ぐらいダラダラしている。柚子の皮を投入したお湯は、弱酸性になってお肌にもやさしいような気がする。

【お湯割り養命酒】

背筋などがちょっとゾクゾクする夜は、養命酒をお湯割りにして、寝酒にしている。養命酒を愛飲する医師は、実はけっこう存在する。心臓外科医で元宇宙飛行士の向井千秋先生も、その一人だったと、夫で医師の向井万起男先生が『君について行こう 女房は宇宙をめざした』(講談社+α文庫)で書いている。

(フリーランス麻酔科医、医学博士 筒井 冨美 写真=iStock.com)