SUBARUが2018年秋に米国で発売する3列シートの新型SUV「アセント」(右)と売れ筋の「アウトバック」(左)。米国では今年3車種を投入し販売台数も増えるが、収益貢献はいまひとつの見通しだ(写真:SUBARU)

SUBARUに元気がない。5月11日に発表された2019年3月期の業績予想は、売上高は前期比4.6%減の3兆2500億円、営業利益は同20.9%減の3000億円を見込む。3期連続減益の上、営業利益率は9.2%の予想で、2013年3月以来6期ぶりに10%を切る計画だ。

スバルと言えば、少し前までは、安全運転支援システム「アイサイト」の高い安全性能が評価され、SUV(スポーツ用多目的車)ブームの波に乗り、販売も絶好調だったはず。苦戦している背景には何があるのか。


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2018年3月期は、売上高が前期比2.4%減の3兆4052億円、営業利益は同7.6%減の3794億円と減収減益で着地した。米国事業は足元では堅調だが、国内事業が足を引っ張った。

2017年10月、新車の工場出荷時に行う完成検査で無資格の検査員による不正検査が発覚。不正は30年以上も前から常態化していた。この問題による40万台のリコール関連費用250億円などが大きく響いた。

収益柱の米国で稼ぐ力弱まる

不正検査問題に伴うリコールは今期も続いているが、費用は前期に引き当て済み。今期の世界販売台数は110万台と前期よりも3万3000台(3%)増を計画する。にもかかわらず、今期の営業利益は、前期に比べ約800億円もの大幅減益になるのはなぜか。

為替想定レートを米ドルで前期よりも6円円高に見直したことで、為替影響だけで600億円近く利益を押し下げる。だが、それを販売台数増や原価低減でカバーできないのだ。


吉永社長は2018年6月の株主総会後に会長に退く。柱の米国事業で収益性が低下していることに危機意識が強い(撮影:風間仁一郎)

吉永泰之社長は「(今のスバルには)実力が伴っていない」と話す。今期は米国で夏から年末にかけて、3車種のSUVを投入する。3列シートの「アセント」、「フォレスター」の新型、それに「クロストレック」(日本名:XV)のプラグインハイブリッド(PHEV)モデルだ。

新型車種3種の投入で米国の販売台数は70万7000台と、3万6000台増を見込む。ただ、「新型アセントの効果はあるが、フォレスターの新型は旧モデルより収益性が落ちる。原材料価格の高騰で、原価低減が難しくなっている」(岡田稔明CFO)。

日本でも新型フォレスターを夏頃に発売するが、スバル車の国内ラインナップではモデルの端境期に当たる今期は、前期比1万2700台(7.8%)もの大幅な台数減を見込む。その分、収益も落ち込むが、来期に挽回する考えだ。やはり世界販売の3分の2近くを占める米国で「稼ぐ力」が弱まっていることが、スバルが苦しんでいる最大の要因だ。


スバルは今年、主力SUVの「フォレスター」を刷新する。日本では今夏、米国では今秋に発売予定だ(写真:SUBARU)

米国市場ではSUVなど大型車が人気だが、競争の激化で販売店の値引きの原資となるインセンティブ(販売奨励金)は上昇が続く。これまでスバルは商品性の高さを武器にインセンティブを抑制できていた。

しかし、去年夏に1台当たりの平均が1000ドルを突破し、足元では2000ドル前後で推移する。今期は「インセンティブに加え、新型車投入で広告宣伝費が増える」(岡田CFO)ことも収益を圧迫する。

上昇しているとはいえ、スバルのインセンティブは業界平均の半分の水準で優等生だ。ただ、米国の新車市場全体はピークアウトしており、SUVが今後も販売台数をキープできるかは不透明だ。

スバルにはもともと米国で生産は逼迫状態にあるというボトルネックもあり、中長期的にみて、米国で大きく収益を引き上げることは容易ではない。スバルの現状は、2008年のリーマンショック前、ホンダが長らく続けていた「米国一本足打法」と言われてきた米国依存と似ている。

日本と北米以外に、スバルが伸ばせる市場はあるのか。特に懸念されるのが、世界の各メーカーが注力する中国での弱さだ。トヨタ自動車・日産自動車・ホンダは年間100万台以上、マツダも30万台を販売する中、スバルは5万台にも届かない。中国の販売網は非常に弱く、戦略もほとんど見えてこない。

中国で売れていないもどかしさ

もともと中国では苦戦していたが、2018年3月期の販売台数は約2万7000台と前期比で17%も減少した。この状態について前期の中間決算では、吉永社長も「中国のインセンティブ競争に勝てない」と述べ、収益を重視して、台数競争からは距離を置いていることを認めていた。しかし、結局のところ、なぜ中国市場の消費者に訴求できていないかが重要だ。


スバルが今年4月の北京モーターショーで展示した新型「フォレスター」。「インテリジェント・ボクサー(水平対向エンジン)」というキャッチフレーズには、先進性を打ち出す狙いがあるとみられる(記者撮影)

「(地域ごとに)個性・特徴を明確に伝える必要がある。中国では『安全と楽しさ』が伝わりにくい。4輪駆動の走りのよさなどを訴えた方がよいかもしれない」(吉永社長)。スバルは今後中国で、マーケティングの手法を変え、3万台まで販売を回復させるという。中国では力強いSUVが人気。走行性能の高いスバルのSUVの特性を押し出せば、ニーズとマッチしそうだ。

また、スバルは中国に生産工場を置かず、日本から全量を輸出している。中国では自動車の現地生産は現地企業との合弁が義務づけられている。スバルも2011年に中国の奇瑞(きずい)汽車と合弁工場を作ろうとして、中国政府に申請したが認められなかった。スバルに約16%出資しているトヨタが合弁企業を2社設立していることが影響しているという見方が強い。外資メーカーが合弁を組めるのは2社までというルールがあるからだ。


スバルは奇瑞汽車(ブランド名:CHERY)との合弁設立を中国政府に申請したが認められなかった。背景にはスバルの筆頭株主であるトヨタがすでに現地企業2社と合弁を組んでいる影響があるとされる(記者撮影)

現在、スバルの「中国プロジェクト準備室」には担当役員がいるだけで、実際に業務を行うチームはない。ただ、スバルにも現地生産のチャンスが出てきた。今年4月、中国政府が自動車生産の外資規制を2022年までに撤廃すると発表したのだ。規制撤廃で、外資は全額出資の現地法人を設立することも可能になる。

これに対し、吉永社長は「生産の前に販売を立て直すのが優先。現地生産を始めようとは考えていない」と述べる。自動車業界では最低でも10万台売れないと現地生産の採算が取れないとの考えが一般的であり、スバルのスタンスは妥当とも言える。

5月22日、中国政府は輸入乗用車に現在25%課している関税を7月1日から15%に引き下げると発表した。スバルにとっては追い風になる。自動車メーカーとして今後成長するためには、もはや中国という巨大市場を横目で眺めているわけにはいかなくなっている。

中国の電動車対応でも、スバルは難しい立ち位置にいる。2019年から中国に導入されるNEV(新エネルギー車)規制では、3万台以上販売しているメーカーは、規制に対応した電気自動車(EV)やPHEV、燃料電池車(FCV)といった電動車を販売しなければ罰金を科される。

スバルは今期、中国で約3万台の販売を見込む。NEV規制にギリギリ当てはまる可能性のある同社は、来期以降は電動車を新たに発売するか、罰金を支払うか、天秤にかけることになる。ただ、電動車は台数が出にくく、収益性も低いため、当面は中国市場への投入の可能性は低いとみられる。

新社長は成長戦略を描けるか

スバルはこの1年で、株価も大きく値を下げた。2016年に5000円を超え好調だった株価は、2017年5月に2018年3月期の業績予想を2期連続の営業減益としたことで4000円を割り込む。市場は回復の端緒を探っていたが、昨秋の不正検査問題発覚や今回の決算発表に失望。足元では3600円前後で低迷を続ける。あるアナリストは、「完成検査の件があり、今は底ではあるが、もっとも勢いのあった水準までは戻らないだろう」と話す。

今年6月には中村知美専務執行役員が社長に就任し、7月には新中期経営ビジョンが発表される。中村専務は、米国事業を長く担当した営業畑の出身だ。完成検査問題を乗り越え、今期以降どのような成長戦略を描くのか。スバル刷新は新社長の双肩にかかっている。