ゆっくりと世界が沈む水辺で

きしの字間漫遊記。読んでも読んでも、まだ読みたい。

信長を討ったのは誰か。 加藤廣【秀吉の枷】

2007-08-07 | and others
 
信長の棺』から始まるシリーズの最終巻の『明智左馬助の恋』が店頭に並んでいるのをみて、文庫化を待ちきれずにとうとう読んでしまいました。
「信長公記」の作者・太田牛一の、本能寺での信長遺体消失の真相に迫る旅を描いた『信長の棺』。
これを受けて書かれた豊臣秀吉の半生の物語です。

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 秀吉の枷

 著者:加藤 廣
 発行:日本経済新聞社


物語の始まりは、秀吉の軍師・竹中半兵衛の死から。
死を目前にした半兵衛の言葉が、秀吉に、天下を治めるという野望の種を植え付けます。
信長は真実、天下統一するにふさわしい器なのか。
この疑問を胸に芽生えさせた秀吉の中で、次第に卑小なものへと変わっていく信長の存在。
秀吉は、敵味方の区別なく諜報の手を伸ばし、集めた情報から水面下の動きを読み取り、状況を把握していきます。
信長の動向。織田家古参の武将たちの思惑。
そして、朝廷の意志。
その中に、浮かび上がる明智光秀謀反の気配を、秀吉はどう利用するのか。
上巻は、本能寺の変前後の動きを軸にして、信頼のおける家臣たちに支えられた秀吉の天下盗りが展開されます。

下巻は、天下人となった秀吉の苦悩が中心。
振り払うことのできない織田の呪縛に、徳川の無言の圧力。
決して他言できない秘密を抱える秀吉は、権力を手にしても、安んじることができません。
権勢を誇示しながらも、折に触れて、先立った竹中半兵衛を思い、常に、あの運命の分岐点・本能寺の変にたちかえり、あの時、違った選択をしていればと考えずにはいられない秀吉ですが、すでに選択は為されてしまったもの。
人を惹きつけ権力の高みへと登りつめていった勢いは、下巻のページが進むにつれて、破滅へ向かう速度に転じていきます。
本能寺の変が残す波紋。
老いてゆく身の焦りと権力への執着。
世継ぎ誕生への真摯な願いを無にする茶々の裏切り。
苦楽をともにしてきた家臣たちとの距離、秀次の抹殺と転落の一途。

終生裏切ることのなかった正室の存在や、醍醐の花見で迎える終焉の小説的な情緒よりも、朝廷との関係や朝鮮出兵の動機など秀吉の行動に対しての説得力が印象としては勝ります。
利休との確執も、ああ、そうだったのかもしれないと素直に思えてしまう。
華美なところのない文章が、そういった印象を持たせるのかもしれません。
質実剛健、冷静沈着な歴史小説。
地味な登場人物のほうが、より魅力的です。
秀吉の目耳となった前野将右衛門などは、もう、誰よりもかっこいい。
ああ、でも、竹中半兵衛の死して尚大きな存在感も捨てがたい…。
あれこれと俳優さんをキャスティングして、妄想が広がってしまいます。

ですが、やはり気になるのは本能寺の変を巡る真相。
秀吉がずっと本能寺の変の秘密をひきずっているので、こちらも、その詳細が知りたくてしかたない。
時々出てくる光秀の義理の息子、明智左馬助の印象の鮮やかなこと。
『明智左馬助の恋』を読まずにはいられません。

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 明智左馬助の恋

 著者:加藤 廣
 発行:日本経済新聞出版社
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6 コメント

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うわ・・・ (むぎこ)
2007-08-07 06:52:50
むちゃくちゃよみたくなる
>質実剛健、冷静沈着な歴史小説。
好き、絶対好み
ハードカバーだったら図書館だな・・・うん
と言う感じです
明智モデル (にゃんにゃん)
2007-08-07 14:27:09
明智光秀モデルのキャラクター発見。
かわぃぃよぉ。
http://ameblo.jp/7kenshi/
はい~。 (きし)
2007-08-08 00:28:13
むぎこさん、お好きかも
私は好きでしたね~。秀吉がヤなヤツで、いいヤツで、気の毒で、でもちょっとウラヤマシイようなヤツです。
同じように年齢が上になってから書き始めた隆慶一郎を途中で思い出していたのですが、ああいう派手さはないかわりに、みっちり書いてあるなぁと。
まあ、本能寺の変の謎解き自体は、かなり派手な説だと思うのですが、浮ついた感じがありません。主従の関係、武将同士の関係に説得力があるからかも。
にゃんにゃんさま (きし)
2007-08-08 00:36:38
コメント、ありがとうございます。
明智光秀がモデル?キャラクターが出来るほど人気とは思っていませんでした
他にもたくさんいるのですね~。武将好きにはたまらないかも。
よみました! (むぎこ)
2007-09-29 07:33:49
>秀吉がヤなヤツで、いいヤツで、気の毒
これにもの凄く納得!
こんどは明智さまのすけ、探しに行きます
おお。 (きし)
2007-09-29 20:08:56
読んでいただけましたか~。
長いですけど読み応えありますよね。
「明智左馬助の恋」の感想もお聞かせくださいませ~。
左馬助を内野さんで観たいと思われるかも?でも、染五郎さんなんです。

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