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青草俳句会~命のよろこび

結社「青草」 主宰 草深昌子

青草通信句会 2023年8月

2023年08月18日 | 俳句
草深昌子選 (順不同)
兼題「蜩」



   かなかなや天袋から声のする    小宮からす
 実際に何らかの用で天袋に上がった人の声がしたのか、それとも、蜩の声そのものがあたかも天袋から下りてきたようだというのでしょうか。私は後者に解しましたが、どちらでも結構です。何れにしても「天袋」が文字通り意表を突いています。

  鱧食うてついと異人の立ち去りぬ   二村結季
 鱧は関西人には欠かせぬ夏のご馳走です。はてさて異人さんのお口に合ったのでしょうか。「ついと」がウマイです、きっと満足されたのではないでしょうか。
  蜩や西武球場芝生席   結季
 一読、こんなところで聞いてみたいと思いました。やはり「芝生」の魅力でしょう。用言がなく簡単明瞭が素敵です。

  かなぶんや足掻きて羽を半開き   渡邉清枝
 虫が苦手の私にも、この観察眼によって、かなぶんに少し親しめそうです、ここから又飛ぶのでしょうか。 〈俳人にかなぶんぶんがぶんとくる 兜太〉

  八月や真正面に望の月   奥山きよ子
 一日か二日か、夏満月はまさに皓皓として、確かに真正面でした。夏の月としないで「八月や」という主題の転換には、独得の感慨があります。

  蜩の馬坂尽きるところかな   きよ子
 馬坂という固有名詞の字面のよろしさが聞き覚えのある蜩の音色を聞かせます。馬坂峠かもしれませんが、「峠」としないで中七の表現が巧いです。

  炎天を咲き継ぐ薔薇でありにけり   石堂光子
 炎天にもめげずに、野性の生命力を見せる薔薇の花にうたれています。断定的に言い切ったところに、作者の感銘が打ち出されました。

  蜩やそろそろ仕舞ふキャンプ場   小宮からす
 賑やかだったキャンプ場にも時の移りが寄せています。「そろそろ」に、蜩の声をしみじみ聞かせます。

   映画館出て夕暮は残暑かな   田中朝子
 実感があります。句跨りの表現もさることながら、「夕暮」という素朴な措辞が効いています。


 


  ふと指に触れてねばるや土用の芽    草深昌子
  遠目にも鵯の口開く暑さかな
  ゆるやかにくだりゆくかなかなかなかな


 

令和5年8月・青草通信句会講評    草深昌子

8月の兼題は「蜩」。

  書に倦むや蜩鳴いて飯遅し  正岡子規
  蜩や几(つくえ)を圧す椎の影  〃

 明治三十年作、子規三十歳。すでに脊髄カリエスを病んで、腰痛激しく杖にすがって漸く立っていた頃の句です。
 一句目は、書物に飽きて、さっきから蜩が鳴き続けています、さて飯はまだかという面白い句です。二句目は、机に椎の木の夕影がかぶさってくる感じが黒々と感じられます。   それにしても「圧す」とは言えません、子規ならではの心象が籠っているようです。
 どちらの句にも、蜩の声が美しくも切なく沁み入っています。
 子規が死の前年から死の直前までを書き綴った『仰臥漫録』には、俳句や水彩画に交えて、日々の食欲の旺盛ぶりも克明に記されています。この健啖こそが子規が病人にあらずして巨人であったことの証のような気がします。

 俳句は上手に作ろう、作ろうとしますとうまくいきません。ふと我を忘れたときに向うから言葉がやってくるのを体験されていることでしょう。それは日頃から沢山作って沢山の失敗を繰り返しているからこそのご褒美かもしれません。「青草」の句会が始まる前の席題でも、思いがけぬ佳句が生まれています。席題で詠うときも空想で作っているわけでなく、過去の体験なども寄せ集めて、自分をそこに置いて作っています、つまり写生しているのです。
 俳句は韻文ですから、散文のように意味でつないで筋を通すものではありません。一読して、何となく面白いというのが俳句です、俳句は作る時も選句の時も直感的に反応するものです。従って、俳句は分かる人には分かりますが、分からない人には分かりません。     読者に分かってもらおうと思わないことです。
 また俳句は切字が大事です。切字は説明したい自分の気持ちを断ち切ります。切字でもって相手の関心を対象の方へ引き込むのです。どうしても説明したい人は切字が使えません。
 切字によって俳句の背骨が通ります。
  蜩の一本道を来りけり  大峯あきら


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青草本部句会 令和5年8月4日

2023年08月12日 | 俳句
少し雨は降ったものの関東地方はまだ乾き
猛暑の中での句会である
足を運ぶだけで汗にまみれるのだが
句座にいることで刺激をもらい元気になっている
 
草深昌子選  (順不同)
兼題「流れ星」
席題「上」


 やはらかき紙をはがして枇杷にほふ   東小薗まさ一
 流星やヒマラヤ杉のざわつきぬ   松井あき子
 極上の一献を添へ洗鯛   山森小径             
 流星や眠らぬ部屋の灯が一つ   奥山きよ子 
 星飛ぶや樹の黒々とざわざわと   きよ子
 浮輪穿き子の上り来る歩道橋   きよ子
 飛蝗の子風呂場に跳ねる夕立かな   きよ子
 中元に上総の豆の届きけり   二村結季       
 雲の峰鳥は地べたをつつついて   山森小径
 流れ星丸天井を転がりぬ   小宮からす 
 キャンプファイヤー火の粉の先の流星   河野きなこ
 まんまんと空へ向ふや百日紅   大村清和
 黒胡椒バルサミコ酢で冷奴   佐藤昌緒            




 蜻蛉の背ナ盛り上がる暑さかな   草深昌子
 黄色濃く煮上げて藷や暑気払
 子の肩をひしと抱くや流れ星
 夏負けてものの上下たがへたる
 新涼の上へ行きます昇降機
 鬼の子や裏表なく上下なく







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草深昌子を中心とする句会・選後に・令和5年7月          

2023年08月08日 | 俳句
草深昌子選




  揺り椅子にまどろむ母や日日草   川井さとみ
 日日草は日々咲き続けるというところから来た名前のようであるが、私にはこの名前が災いして、なかなか詠いあげることができなかった。
 ところが掲句はどうだろう、日日草はいつも身近にあって、こんなにも愛らしく清らかであったのだった。
 揺り椅子はいわゆるロッキングチエアであるが、このゆるやかな揺れが母のまどろみを誘い出していかにもやさしい。
 母の視線には日日草も揺れているだろう、そしてその赤や白がぽつりぽつりと何かしらを語りかけているのではなかろうか。

  こめかみのジャリと鳴りたる暑さか   伊藤 波
 異様なる今年の猛暑が、驚くべき実態をもって詠いあげられている。
「ジャリと鳴りたる」、誇張ではなかろうかと思う間もなく、さもありなんといたく納得させられるものである。
 真実の暑さをよくぞ表現されたと感嘆するばかり。

  由布岳の男前なり氷水   松井あき子
  鳶の来て鴉の黙る朝ぐもり    〃

 一句目、由布岳が「男前」とは何とスカッとしていることだろう、
 思わず勝手に由布岳の勇壮を想像してしまう。そこでフッと笑みをもらしたら「氷水」がやってくる。
 このタイミングの素早さ、この掻き削りよう、この冷たさは抜群である。
 「かき氷」と同じであるが「氷水」の方がゆったりと大らかに由布岳を見せてもらえる。
 二句目、上五中七のありように何の因果関係もない、
 言わば「朝ぐもり」ならではの作者の発見だと言えよう、よって季題にゆるぎがないのである。

  ベランダに蟻も来たらぬ猛暑かな   永瀬なつき
  七夕の短冊誰か「土地」と書く      〃

 一句目、「蠅も来たらぬ」とは猛暑の実態を捉えてあまりあるものである。
 しかも「ベランダ」がいい、いよいよ灼けつくようである。

 二句目、七夕の短冊といえば、ナニナニになりたいという愛らしい願いが溢れる中、
 「土地」と書く人は誰であろうか、何とも堂々としている。
天の川のはるかを今さらに幻想させられるものである。

  炎天や山頭火像仄白く   小宮からす
  まとはりて蠅も象舎に入りにけり  〃

 一句目、作者は最近山口県に旅行されたようであるから、実際にどこかで山頭火の像に出くわされたのであろう。
 それが「仄白く」感じ入った、つまりは「炎天」を見事に詠いあげているのだが、
 山頭火が旅をして旅に果てたという印象も潜んでいるだろう。
余談だが、わが手元にある日めくりの昨日は、たまたま山頭火の〈あるけばかつこう いそげばかつこう〉であった。
その終焉の地、松山の一草庵で見た一面の落椿の赤さは、今もって忘れられない。
 二句目、蠅が象にくっついていったというのである。何だがあの巨大な象が意図的に蠅を慈しんでいるようにも感じられる。
 つまりは作者の目線に愛情があふれているということだろう。





  睡蓮の甕や金蠅動かざる   奥山きよ子
  日からかさ博士の像を仰ぎけり  〃

 一句目、「睡蓮の甕や」で切ったところが巧い。
 ときに「や」の切字が一句を大きく支配するものであることをよく知っている作者のもの。
 二句目、日傘をさして何を仰いでもいいが、「博士の像」とは決まっている。
 実際に見たからこそのものと推察されるが、このポイントに気付かなければ的外れになってしまう。
 博士に出会ってはっとした感じがそのまま日傘の空間をけがれなく打ち出している。

  青田風おたまじゃくしの足短か   平野 翠
 青田におたまじゃくしを見届けた瞬間に、「おっ、足短か」ときたのだろう。
 その直感がそのまま一句におさまって、読者もまた、まるで自分が発見したような感銘をいただいたものである。
 見たまま正直に、何かを伝えようという意図が作者に一切ないところに詩情が生まれている。

  寿司飯の匂ひ飛ばして団扇かな   渡邉清枝
 炊き上げたばかりの寿司飯をしばらくおいて、団扇で冷ますのは主婦なら誰でも知っているが、
 この句のいいところは「匂ひ飛ばして」という、見るからに団扇の風がこちらへ吹き飛んでくるように詠われているところである。
 口中が酸っぱくなるほどである。
 寿司であれ、俳句であれ、作るときに迷いのないのが上出来に仕上がるコツのようである。

  立葵咲いて七尺雨の中   葉山蛍
 「七尺」しかも「雨の中」、一語一語的確に無駄がなく、まさしく立葵が実際にそこに咲いているように見える。
 そして、立葵そのものの持っている風情が明らかに立ち上がってくるものである。
 俳句は先ずは読者の眼に見えなくてはならない。もとよりそればかりが俳句ではないが、なまじ観念的なものより、このように正直な句の方がはるかに上質である。

  田螺らの浮きつ沈みつ青田かな   大村清和
 田植のあと、あっという間に稲の葉は伸び、やがて田んぼの水も見えなくなるほどに生長する。
 こんな青田のみどりの美しさを青田風、青田波などと詠いあげることが多い中で、作者は何と田螺を見届けたのである。
 それも浮いたり沈んだりしてなかなかに活気ある命のようである。
 俳句は常識にあらずして、作者独自の発見が頼もしい。

  額咲くや廃校の庭ひろびろと   町田亮々
 少子化によって児童数が減少し、年々廃校が増えているらしい。
 作者もかつての学舎を訪れたものの廃校になって子供たちの姿は見えず、
 校庭は閑散として、いよいよ索漠たる広さを感じられたのであろう。
 そこには額の花が咲いていたというのである。
額の花は、かの紫陽花の母種となる品種ではあるが毬状にならないこともあって、紫陽花ほどに派手ではない。
この句に於いても額の花は虚しさの救いのように地道なる雰囲気を引き寄せている。




  石塊か蚯蚓の糞か小暑なる   二村結季
小暑は二十四節の一つで陽暦では七月七日頃である。
 作者は畑仕事をよくされるから、その周辺でのことであろう。
 石のかけらのようなものがある、いやひょっとして蚯蚓の糞かもしれない、
 ふと異質のものが同じように見えたことに、小暑たる時節の実感を感受されたのであろう。
 蚯蚓の糞がどんなものか私には分からない、だが外見が似てありながら「石」と「糞」という似ても似つかぬものの対比に思わず身を乗りだして覗き込みたくなるものである。

  夏便り金欠病と知らせたり   関野瑛子
「夏便り」とは、「暑中見舞」と同じ意味合いのものであろう。
 郷里の身内か友人であろうか、猛暑の安否を気遣って手紙をしたためたのだが、
ちょっと茶目っ気を発揮して、私は「金欠病」だというのである。
 あるいは、見舞を受け取って、それの返事に書いたことかもしれない。
何れにしても「知らせたり」はいかにも真面目で面白い。ところで病気ならざる病気、金欠病はもはや死語かもしれない。
 作者はご高齢だが、句材は身辺のどんなところからも拾ってきて、日々前向きの姿勢に教えられることが多い。

  盆が来る仏壇の花桔梗かな   矢島 静
 お盆が来るので、仏壇は桔梗の花をもって飾りましょう、というさりげない一句。
 でもこう詠いあげることによって、桔梗の美しい青紫というか深い色彩をいっそう鮮やかに印象付けるものである。

  遊船や底に窓ある珊瑚礁   佐藤昌緒
 沖縄諸島の珊瑚礁であろう、一読、透き通った海の色は清冽そのもの。
 確か「窓」の席題で共鳴した句であるが、今読みかえしてみると「遊船」という季題が生きるかどうか、ちょっと思いとどまるところもある。
 つまり遊船は夏の暑さを回避して涼味を求めるのか本意なので、亜熱帯気候の沖縄では墨田川や嵐山のそれとは趣が違ってくるかもしれない。
 それでも、この句もまた独得のものとして採用したいと思っている。
北海道から沖縄まで日本は長ぼそいので、東京を中心に考えると時期や意味合いにさまざまな違いの出てくる季題は多い。
 先日も句会で稲作の遅速などが話題になったが、実作や鑑賞を通して、これからも季題をより深く考えていきたいものである。


  炎天下薊の絮の飛んでをり   河野きなこ
  空梅雨や赤い靴てふバスの行く   〃
  故里の雲思はるる海月かな   山森小径
  文字細き転居の便り月見草   石井久美











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