草深昌子選
兼題「玉葱」
枇杷の実や空き家の裏に登り窯 古舘千世 x時かけてゆっくり枇杷の実の熟れてきそうな感じです。登り窯の響きからでしょう、所を得た枇杷の実です。
独り居の家取り囲む姫女苑 冨沢詠司 x「姫女苑」はその名に華やかさをもちながら、雑草と言ってもいいほどの地味な花です。そんな姫女苑を独り居の慰めにしているところがいいのです。
理髪店軒の玉葱押し合うて 川井さとみ xどこの軒にも玉葱は吊られますが、この理髪店の軒というところが作者の眼の付けどころです。下五の「押し合うて」が微妙に理髪店に通うところがあって、見事な描写です。発見のある写実です。
口喧嘩負けて玉葱剝いており さとみ x「口喧嘩に負けて」でしょうか、それならやはり「に」は必要です。〈玉葱を剥くや口喧嘩に負けて〉も一考です。口喧嘩と「玉葱を剥く」はよく呼応しています
軽トラに玉葱山と運びをる 市川わこ x玉葱を山と積んで運ばれる情景のリアリティーは「軽トラ」の措辞にあります。玉葱の逞しさが思われます。
紫陽花や風の道なる切通し 松井あき子 x「風の道なる」という中七が切通しの説明に終わらないで清々しい思いを誘います、そこで紫陽花が生きてきます。
紫の玉葱括る葉のあをし あき子 x玉葱の中でもサラダ向きの紫玉葱ですね。そこで、ことさらに葉が青々と感じられるのでしょう。「あをし」と平仮名書きにして注意をよく払って一句に仕上げています。
玉葱を吊るし今年も半ばかな 佐藤健成 xある種の状況説明のようではありますが、ふと一年という歳月、その半分にさしかかったということを、玉葱を吊ると言う所作に覚えたというのはやはり作者のものでしょう。毎年吊ってないとこうは詠えません。
竹散るや道白くして明らけし 神﨑ひで子 x言い得て妙といいますか、文字通りはっきりと竹落葉が見えてきます。土の庭などに散りかかるのとはまた違う風情。
雨蛙何処から来たか夜の庭 長谷川美知江 x「夜の庭」がいいですね、何処から来たのかと思わせる、つまり読者に共鳴させるだけの力があります。
青葉風小学校は瓦屋根 美知江 x小田原市立三の丸小学校は瓦屋根でしたね、吟行の折に同じような句が出ました。なつかしいです。
買い置きの玉葱芽吹く独り者 間 草蛙 x丁寧に詠いましたが、いわゆる芽吹きとはちょっと違いますので推敲願います。独り者の抑えは、ここでは効いています。
薔薇園のバラと思へぬ太き幹 黒田珠水 x薔薇園の中の薔薇にはびっくりするほど太い幹の薔薇の木があったということでしょうか、その感じが読者に良く届くように表現できるといいですね、推敲してみてください。驚きのある写実です。
玉葱の皮集めては煮出しけり 珠水 x84の「玉葱の皮」と同様、玉葱の季題から、玉葱の皮の用途にまで想像力を伸ばされました。これは煮て出汁をとって、健康食にされるのでしょうか。
天辺まで山あをあをと植田かな 石堂光子 x田を植えたことによって、遥かの山の青さもまた引き立ってきます。早苗の青と一と続きの青さでしょう。
玉葱の皮もて布を染めゐたる 光子 x私も昔理科の自由研究で玉葱の皮で染めを実験したことがあります。綺麗な色に染め上がったことでしょう。
青梅や夕日傾く裏の木戸 佐藤昌緒 x「夕日かがやかく」でなく「夕日傾く」がいいですね、言葉を飾らず写生しました。裏木戸のそんなところにある梅の実の青さが良く引き出されています。

玉葱を軒に月蝕進みけり 昌子
玉葱やまたまた蝶の三つ巴
十薬に松の聳ゆる避暑の宿
令和3年6月青草通信句会・選後に 草深昌子
今回の季題「玉葱」も歳時記に例句が少なくて、お困りになったかと思いますが、幸いなことに、ここ厚木市は玉葱の産地ですので、玉葱の様々の事象が詠われていて感心しました。
玉葱に手を汚したこともなく、ただ食しているだけの私には偉そうなことは言えませんが、「玉葱」のような食材系の季題はどうしても料理方法になりがちだということがよくわかりました。レシピはレシピです、俳句には成り得ません。
玉葱を吊す必ず二三落ち 波多野爽波
ただ単に「玉葱を吊る」までは誰にも写生できますが、そこからもう一歩踏み込んで、こういうところまで詠いあげてこその「玉葱」の一句だと教えられます。面白いですね。
玉葱の皮剥き女ざかりかな 清水基吉
石田波郷系の俳人ですが、これも一句です。
旬の玉葱です。その玉葱のはち切れそうなピカピカの充実の一個からもたらされた感懐には納得させられます。「女ざかり」なんて自覚するものではないのでした、まあそういう時代もあったのかなあと、私なんかは嘆くほかありませんが。
だからこそ今を大切にと思います。俳句がうまくいってもいかなくてもいいのです、いろいろあります、それが生きている時間の実感です。今日の充実、一日、また一日の充実があってこそ、それが明日へ繋がっていくのでしょう。
そこで蛇足です。「独り者」「独り居」などがたったこれだけの句会で数句ありました。それだけ手垢の付いた言葉なのです。一人暮しは取り立てて一句にするほどのことではないと覚悟を決めて、今後はプラス思考でお願いいたします。
「玉葱」から教えられたことを書きました、失礼しました。