去る1月7日、新型コロナウイルス感染拡大に対し緊急事態宣言が発出され、青草」の活動拠点である厚木市アミュ―他の句会場が一切使用中止となりました。
幸い、青草本部句会と花野の初句会はすでに実施され、カルチャ―教室の「俳句入門」と「楽しい俳句」も開催することができました。以下は、その折の注目句です。
俳句のさまざまの季題は、自然の中にいきいきと息づいています。コロナ禍下にありましても、移り変わる季節のありように、日々思いを凝らし、共々楽しんで参りましょう。またお会いできますように。
草深昌子選

硝子戸に比叡はるかやヒアシンス 二村結季
ヒアシンスは水栽培か鉢植えか、ガラス窓のそばに置かれてあるのでしょう。そしてはるか向こうには比叡山が見えるのです。青々としたヒアシンス、比叡山はまだ雪をかぶって真っ白ではないでしょうか。
比叡の「ヒ」が、ヒアシンスの「ヒ」に密着するように響きあって、透明度の高い一句となりました。
失策の笑ひ福とす猿廻し 川井さとみ
「猿廻し」は新年の季語。昔は、人々の繁栄を寿ぐための縁起ものとして猿の舞や芸を戸毎に披露したといいいます。 獅子舞などは記憶に残っていますが、猿廻しはどうであったか?そうそう、 いつだったか、やはり初春の頃、湯島天神で猿廻しを見ました。 猿曳きの思う通りにいかないことで大笑いしたことも思い出しました。それも一つの芸だったのかもしれませんが、失策こそが「福」であるという捉え方が何より嬉しいではありませんか。
「福」という席題ですかさず出されたものです、めでたしめでたしを皆で分かち合いました。

小肥りの母のエプロン小正月 石本りょうこ
1月15日(地方によって日程は違うでしょう)は小正月です。 お正月のさまざまの儀礼的行事が一段落してほっと一息入れるのは、ことに女性です、 そこで女正月(おんなしょうがつ)ともいいます。
あれほど甲斐甲斐しく動き回って痩せもしないのが不思議なぐらい、わが母も間違いなく「小肥り」でした。 小肥りの「小」という一文字に母への親しみと尊敬がこもっているように思えてなりません。そしてエプロンはいつも真っ白。 何の飾り気もなく、何も言わないこの句ほど読者に多くを思い出させてくれるものはないのではないでしょうか。 俳句は「寡黙」こそが雄弁なのだと教えられます。
奥までも届く日差しの淑気かな 田中朝子
何の解釈も要らない、そのまんまの句ですが、しみじみと静かに味わいたい一句です。日ざしのありがたさ、そこにこそ目出度い気が満ち溢れているのです。何よりも「奥までも」というところに瑞気を見届けています。 何気ない言い出しですが、言えそうで言えないことに気付かされます。
下ろしたる赤きコートや知らぬ街 川北廣子
下ろし立ての、初めて着る真っ赤なコートです。赤という色彩は、気合がかかります、元気が出ます。それだけにちょっと、気恥しくも、誇らしくもあることでしょう。
中七「や」で小休止を入れて、「知らぬ街」に着地しました。さあ、堂々とこの赤を楽しみましょう、と言外に語っています。
東より下萌始む空地かな 神﨑ひで子
「東より」はよくぞ見届けられました。 さあ、草萌えの広がる四方八方の空地がこれからの楽しみです。

初手水薬師の甍静まれり 東小薗まさ一
「初手水」、いいですね、ここで先ずピシッと威儀があらたまった感じです。 お詣りは日向薬師でしょうか、甍の美しさがまさ一さんの心意気となってしいーんとするのです。
撫牛の初日射したる鼻柱 宮前ゆき
天神さまにはゆかりの牛の座像が門前に大きく据えられてあることが多いです。これを撫でると病気が快癒するとて、もうピカピカです。 今年の初日が撫牛の鼻柱に威勢よく弾かれているのでしょう。
「撫牛の鼻柱」とは見事な詠いあげです。 「撫牛の」という上五と「鼻柱」という下五の間に「初日射したる」という中七がはさまっているのです。
雪国の白の恐怖や立往生 永瀬なつき
「白」の席題で、即吟です。 「白の恐怖」とは迫力があります、「雪の恐怖」では恐怖という言葉が生きてきません。 ただ恐怖という抽象的な言葉が危ぶまれます、 そこを下五の「立往生」という事実そのままの臨場感をもって納得のいくものに締めくくられていることに驚きました。
作者にとっては何も計らったものではないでしょう。一句に成って誰よりも作者自身がはっとされた雪の実感ではないでしょうか。

松の木に小梯かかる淑気かな 坂田金太郎
一音に全集中や初稽古 石野すみれ
日だまりの大山独楽の唸りかな 松井あき子
蓮池の底をあらはに冬日かな 奥山きよ子
読初や三島文学新装版 関野瑛子
冬晴や屋根屋が屋根で仕事する 中原初雪
年新たあなたまかせの福の神 鈴木一父
あかあかと冬満月や地平線 菊地後輪
ひよつこりと雀来たるやお元日 濱松さくら
虫喰ひの廻廊きしむ淑気かな 伊藤波
小正月餅の一つを一人食べ 矢島静
日の当たる岩にはりつく冬の蝶 中澤翔風
白雲は天女の舞ひや初御空 河野きなこ
寄せ来たる小さき波の淑気かな 渡邉清枝
初御空流れゆく雲一つなる 間草蛙