
冬花火エプロンのまま見てをりぬ 松井あき子
花火といえば夏。もともとは盂蘭盆会の送火や亡くなった方への供養というものであったが、いつしか納涼の行事となっている。ところが今年の花火大会はほぼ中止、コロナ禍の密集をさけるため突然の花火打ち上げも多くあったようである。
さてこの花火は冬のさ中。夕餉の支度か晩餐の後の片づけがエプロン掛のまま、勝手口をあけて仰がれたのであろう。日常の中のふとした驚きをそのまま詠いあげて、夏の花火とはあきらかに一線を画している。 もの静かなる叙述の余韻に、澄み切った夜空に揚がる花火はさぞかし美しいことであろうと、読者もまた冬の風物に心を寄せるのである。
縄跳びに入る掛け声小春かな あき子
縄跳びを見届けただけでなく、子供の気合の声を聞きとめた。小春のリズムの楽しさ。
枯蟷螂翅かじられてありにけり 湯川桂香
作者のお孫さんは蟷螂を籠に飼って、日々その状態を観察されているという。それというのも桂香さんの旺盛なる好奇心の遺伝子のたまものかもしれない。 格好の教材を身近にしての一句はまさに迫力満点。「ありにけり」と言い切って、無駄な感想を付け足さないところが光っている。
いとをかしおろぬきなれどはや蕪 桂香
「おろぬき」というのは「おろ抜き」、つまり間引菜のこと。間引菜ながらに、その先っぽには一丁前に蕪のかたちをしたものがついていた、それが「いとをかし」なのである。表出の仕方そのものがすでにおかしい。
耳遠くなりて二人や木守柿 奥山きよ子
来年もよく生りますようにという、一種のおまじないというか、祈りをこめて、柿の一つを木に取り残しておくのが「きもりがき」、「きまもり」である。
先祖代々そうして育ててきた柿の木であろう。そこには耳の遠くなった二人がよりそうように立っている。いや立っているというより暮らしているのだろうか、これが夫婦なのか親子なのか二人の関係もわからない。 表向き何の因果もないフレーズと木守柿が、離れがたく結びついて共鳴してやまないものとなっている。 目には見えても音のない世界の静けさ、穏やかさが、ひろやかな時空を見せるのである。赤々とある木守柿には二人の心情もこもっていそう。
講演のしばし立見の小春かな きよ子
小春日という季題の素材はどこにもころがっていて、何を詠ってもそれらしい小春となる。そこで「いかにも小春ですね」という詠い方には驚かない。この句は意外性があって、「ほお、そんな小春もいいものですね」と思わせてくれるところが面白い。「しばし」がいい。
空港の展望デッキ小春かな 松尾まつを
何も言わないのが俳句である。この句も場所を提示しただけ。だが「空港の展望デッキ」とは何と大きな打ち出しであろうか。人それぞれにこの光景を想像し、小春日和のよろしさを満喫するのである。 心を遠くに遊ばせて、小春の明るさにいつまでも佇んでいたいと思う。
百歳のお方と歌ふ小春かな 木下野風
何ともやさしい心根の一句。百歳という高齢の健やかさに頭の下がる思いが「お方」にこもっている。シワシワの笑顔と若々しい笑顔が共にきらきらするような幸せの小春である。
寒日和歴史講座の最終日 川井さとみ
歴史講座と聞いただけで何やら堅いイメージがあるが、さまざまの時代を考えさせられたことであろう。心に重たく響く日もあったが、最終日の今日は見事に晴れ上がった。「寒日和」には、厳しい寒さの中にも、あれやこれやをくっきりと浮かび上がらせるような空気感がただよっている。
小春日や冬物干して半袖に 漆谷たから
小春といえば温暖なイメージがあるが、そればかりではないだろう。まさしく冬の寒さもあれば、夏かと思うほどの暑さもあるというのがこの頃の気温の上下の激しさである。そんな日和の一面を見事にキャッチされた一句である。それにしてもたからさん、半袖とはお若いですね、そういう羨ましさの眩しさもまた小春日の趣かもしれない。
短日や一駅ごとに暮れてゆく 佐藤健成
冬至を最短にして冬の日暮れはたちまちやってくる。掲句はそんな短日を実に実直に実感をもって詠いあげた。 単線列車とか各駅停車の趣もあって、身のほとりにそくそくとしてわびしさが迫ってくるようである。

大石の苔に滑るや神の留守 日下しょう子
冬初め食卓の位置少し替へ 中原初雪
潮風に揺らがぬ石蕗の蕾かな 田中朝子
大菊の並ぶ廊下や参観日 神﨑ひで子
爺さまの小春の位置のたしかなる 冨沢詠司
暗がりに大きく見ゆる朴落葉 市川わこ
芭蕉忌や虚子著「芭蕉」をひもときて 鈴木一父
散りやまぬ紅葉のガラス美術館 平野翠
棕櫚剥ぐや外階段に錆噴きて 加藤かづ乃
柿たわわポンプ井戸ある畑の道 河野きなこ
冬立つや鞄の底に五円玉 森田ちとせ
人肌の白湯をふふむや今朝の冬 川北廣子
小春日の土嚢の堰や小鮎川 黒田珠水
藤の実や畑に燻る煙あり 加藤洋洋
御朱印の掠れ筆なる冬紅葉 伊藤波
芭蕉忌や川の名変はるこの辺り 佐藤昌緒
冬ぬくし石屋に二つ布袋像 東小薗まさ一
芭蕉忌や膝を押したり伸ばしたり 泉いづ
白波の連なりくるや石蕗の花 坂田金太郎
なほざりの茄子の畑や冬に入る 二村結季
茶の花の蕊の豊かにひらきけり 山森小径










