草深昌子選 (順不同)
兼題「香水」
ままごとや葉陰に小さき桑苺 渡邉清枝
桑苺は桑の実のこと。上五で切って、ままごとの背景を描写しました。桑の実もちょっと摘んでままごとを一層楽しくしていることでしょう。
香水のさざめきにある幕間かな 奥山きよ子
観劇の幕間の時間には飲食したり語らったり様々ですが、そんないっときのある種の興奮のようなものを「香水」をもって語らせました。とっておきの華やかな香りを思います。
香水の夜のデッキの姉妹かな 柴田博祥
例えば船の甲板のデッキでしょうか。夜という時間の静けさが姉妹だけのものとして、香水はいっそう幽かにも香り立つようです。姉妹の仲のよろしさがしのばれます。
香水を売る一角の佇まひ 小宮からす
デパートあるいは六本木、銀座など香水ブランドの売場でしょうか、その一角のありようは静かにも独特な雰囲気をもたらします。表現もしんとしています。「香水」を売場で詠うという切り口がすでに斬新。
引率の教師のオーデコロンかな 奥山きよ子
よどみなく一続きに詠いあげたことですっきりしています。その爽やかさも香水でなくオーデコロンであるところからもたらされます。教師のよろしさです。
磐石に苔のつきたる夏越かな 昌子
香水の瓶の背高いとほしむ
松風の茅の輪くぐりしあとにつく

令和7年7月・青草通信句会講評 草深昌子
令和7年7月の兼題は「香水」
香水は四季を問いませんが、俳句では「夏」の季題です。
香水の香ぞ鉄壁をなせりける 中村草田男
初学時代、香水といえばもうこの句でした。さぞかし美人でしょう、これほど近寄りがたい香水があるでしょうか、まさに鉄壁です。
香水やまぬがれがたく老けたまひ 後藤夜半
こちらも美人であられたのでしょう、香水のたしなみは持ち合わせながら老いは隠しようもないようです。普遍的な老いのかなしみというものを一句は静かにも詠いあげています。
さて、いつしか年老いますと、俳句観も変わってきます。
「鉄壁」が如き高尚性を求めなくともいいのです。高い調子で書かなくていいのです。じっと見て、じっと聞く、対象のこころと同化して、はじめて自分の言葉がどこからかやってきます。俳句は発見がなければダメです。その場でなければなりません。即物的にやればやるだけ一句はしなやかに強くなります。
常識的に敷衍している言葉、他人様に借りた言葉などはすでに陳腐です。写生というのは自分という人生観で見るものです。
詩はまた読者と共感しあうものです。説明したくなる自分の気持ちを断ちきって、読者と共に素直に楽しみあいたいものです。
そのためには選句が大事なことを度々申しあげていますが、今もって説明が行き届いて、意味でつながっている句、散文のような常識的な句に点数が入りがちです。これは俳句を作るときも、因果関係でつなげて意味が分かるように作っているからだということになりましょうか。そう、実作の能力と、選句の能力はほぼ等しいものです。どちらも歳月かけて向上してゆくものですから、焦ることはありませんが、ちょっと心して選句するだけでも上達が違ってきます。
本部句会で取り合せの句をお示ししていますが、名句は表でつながらないで、裏でそれとなくつながっているものですから、分からないというのが本音でしょう。ずば抜けた俳句は、ずば抜けた俳人しかとれないということがしみじみと分かります。
初心のうちは日常的に目にしているものだけで作っていましたが、今後は古典的な季題も含めて、知らない季題にチャレンジしましよう。そこで、どんどん先人の名句を読んでいるうちに類想も分かってくるのです。類句を作ったらすぐに取り消し、その先は類句を恐れずに作っていきましょう。自分の言葉で自分の顔を出せますように。