社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

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安藤次郎「社会統計学者の任務についての一提言」『金沢大学法文学部論集(経済学篇)』第15号,1967年

2016-10-04 20:26:59 | 2.統計学の対象・方法・課題
安藤次郎「社会統計学者の任務についての一提言」『金沢大学法文学部論集(経済学篇)』第15号,1967年

 本稿には前段に,経済統計研究会第11回総会(於:京都,1967年10月)における報告が載っている。ここでは,社会統計学者の任務についての問題提起を,片意地をはることなく気軽に提言している。3つの課題を示している。第一は,日本の社会の全体像を描き出すのに役立つ統計指標体系の作成である。第二は,統計の収集・整理・保存・提供の仕事ならびに統計を使う諸部門科学の研究者の協力を組織することである。第三は,統計の使われ方の研究,批判ないし協力の活動をつうじて統計の社会的,歴史的性質を確保し,統計生産の改善,進歩を要求し,実現させることである。ここまでは,総会での報告草稿から若干の削除をし,補筆した文章である。

 本題は,次のとおり。筆者は「統計学は統計についての(統計を対象とする)学問である」という定義から出発している。統計学とは何か,という定義は,数えきれないほどある。あるいは,統計学に関する諸説は大きく分けると,普遍科学方法論説,社会科学方法論説,実質科学説に分かれる。しかし,筆者は上記の簡単明瞭な定義を大切にし,そこから出発して諸問題を考察する。この定義は,上記の実質科学説とも,統計学の対象を統計方法とみなす2つの方法論説とも異なる。日本には蜷川統計学があるが,筆者によればこの学説はいささか身勝手な理論構成をとっているという。とりわけ,自然現象を反映する数字の規定がなく,広義に使われている統計という用語の概念規定に関して積極的に言及していない。そればかりか,社会統計学者の取り扱う統計を「大量」=社会集団を反映するものに限定している。筆者によれば,この点は蜷川理論の発展形態である大橋説も内海説も変わらない。

 筆者の立論は,次のようである。人間社会は人間だけから成るのではない。人間社会を正しく認識するには,人間集団だけでなく,それを取り巻く自然環境を,さらには人間自身の生産活動の場にも消費生活の場にも取り入れられる種々の自然的生物や人為的工作物にも関心を持たなければならない。この事実は,いわゆる自然統計をも技術計算的統計をも,統計として扱わなければならない,ことを意味する。統計を「大量」=社会集団を反映するものに限定するのは,定義として狭すぎる。社会経済統計以外の諸統計を関心の対象とすることは,社会科学方法論としての社会統計学の所説に矛盾しない。

 筆者が重要視しているのは,本稿の主題にあるように,社会統計学者の社会的任務である。ところが社会科学方法論説の立場にたつ者が行っていることは,実質科学説の立場にたつ者のそれと大同小異で,社会経済の法則的認識を目指す点でかわりないという点にみられるように,あるいは彼らが作成する教科書の構成が普遍科学方法論説にたつ者のそれと大差ないことにみられるように,それぞれの主張の違いを社会的実践のもとに明確に示すことができていない。

 統計学が統計方法を研究対象とする学問であるとする社会科学方法論説に異議を唱えたのは,大屋祐雪,あるいは松村一隆である。あるいは上杉正一郎も統計が統計学の基本概念であると説いている。筆者の理解では,大屋は統計が一国の行財政機関あるいは生産流通の機構のなかで調査活動集団を形成している人々の現実的な実践活動の結果であることに注意を喚起し,統計が純然たる科学研究のためや国民一般の利用に奉仕することを目指して作成されていないし,できるものでもないという事実に注意を喚起している。

 認識手段である「統計」を問題にすべきことは,立場は異なっても誰しもが認めるところであるが,それでは「統計」とは何かとなるとその概念規定には微妙な差がある。筆者は統計学の対象としての統計には「質」と「量」の側面があるとし,統計の「質」は情報であると述べている。数字で伝えられる部分情報が,統計なのである。「統計は自然界および人間社会における多数の実在群についての,数字であらわされている“情報である”」「情報という「質」的規定を前面に出すことによって,統計の歴史的社会的性格を明示できる」(p.51)。本稿の課題である社会統計学者の任務は,以上の見解をふまえて,次のようになる。

「社会統計学者の任務は,実質社会諸科学の研究者と肩を並べていわゆる統計的研究にいそしむことによって,社会現象の諸法則を発見したり検証したりすることにあるのではなく,統計そのものの生産と利用を研究対象とすること,統計の保存・整理・提供に協力すること,統計指標体系を構築して実質科学研究者の研究の前進に役立つこと,特に統計がいかなる目的のもとに作成され,どのように使われることによって,現実社会の問題がどのように処理されているかということ,すなわち,政治・経済・経営その他,社会百般の実践活動のなかで統計がはたしつつある役割を明らかにすることが,実践的にも理論的にも重要である」(p.53)と。
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