社会統計学の伝統とその継承

社会統計学の論文の要約を掲載します。

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森博美「承認統計調査」『統計法規と統計体系』法政大学出版,1991年

2017-04-27 21:41:11 | 11.日本の統計・統計学
 統計調整の専門法規は,「統計報告調整法」(昭和27年5月)である。この法律は統計調整を統計企画次元に限局し,その条文は調整技術的なものである。この法律の適用を受け実施される調査は,承認統計調査である。承認統計調査の実施状況を知ることで,「統計報告調整法」の特質を解明することができる。このような理由で,筆者は承認統計調査の特徴の考察を本稿で行っている。

 全体の構成は,次のとおり。「はじめに」「Ⅰ.承認統計調査の実施状況」「Ⅱ.承認統計における調査論理」「むすび」。

 「Ⅰ.承認統計調査の実施状況」では,「年次別調査承認状況」「現行承認統計の特徴」が示される。「統計報告調整法」が制定された昭和27年以来,昭和63年末まで承認された統計報告は16,929件である。この間,年間の承認件数は300-500件であり,昭和30年代前後は年平均350件程度であったが,その後承認のテンポが増えている。調査実施機関では,農水省,通産省,労働省,厚生省,運輸省が関わる調査が多い。特徴的なのは総務省がかかわる調査が,指定統計と比べても極端に少ないことである。承認制度発足当時は承認統計の二大実施機関のうち通産省の承認件数が農林省のそれを上回っていたが,40年代以降はこの関係が逆転している。

 『統計調査総覧』は,日本で実施された政府統計の総合リストである。政府統計の実施状況に関するディレクトリー情報をここから得ることができる。筆者はそれ(昭和59年版)に収録された承認統計調査に関する種々のデータを再集計し,分析して,現行承認統計の特徴をあげている。まず承認統計調査を最も多く実施した機関は農水省である(29.5%)。以下,通産省(17.4%),厚生省(13.7%),労働省(9.8%),運輸省(8.7%)が続く。

 対象属性別では,事業所(45.8%),企業(19.7%)が多い。しかし,調査対象の属性は,調査実施機関によって大きく異なる。承認統計をもっとも多く実施しているのは農水省であるが,その約3分の1は個人,世帯を対象としている。これに対し,通産省ではこの種の調査対象をもつ調査はわずか4件である。

 調査の実施系統と調査対象の関係に関しては,企業が対象とした承認統計の場合,全体の3分の2が実施機関から直接に報告をもとめる形をとる。事業所の場合には調査実施機関による直接調査を含め,その地方直轄組織を経由して実施されるものが全体の71.2%にのぼる。世帯あるいは個人を対象とする場合でも,調査実施機関の地方直轄組織を経由して実施されるものが49.2%である。調査対象の選定方法の内訳は,全数調査39.2%,無作為抽出標本調査38.1%,有意抽出調査22.6%である。これを調査対象の属性でみると,企業や事業所の調査で半数以上が全数調査であるが,個人や世帯の調査では3分の2が無作為抽出調査である。調査票の配集方法に関しては,承認統計調査では全体の3分の2が併用型を含めた郵送法で行われている。この点で,調査員依存型調査が63.0%の指定統計とは対照的である。これを調査対象の属性別でみると,企業や事業所を調査対象とする調査では調査員併用型の調査を含め4分の3が郵送法で実施されている。個人や世帯の調査では調査員依存型の調査比率が高い。調査の定期性では,調査周期1年以下の調査の割合は,企業を対象とする調査で71.6%,事業所54.7%,世帯47.8%,個人24.2%である。2年以上の調査周期(1回限り,不定期を含む)を有する調査の割合は,個人を対象とする調査をのぞけばいずれも半数以下である。

 「Ⅱ.承認統計における調査論理」では,承認統計の調査論理の解明のために,農水省と通産省の承認統計に代表される2つの調査類型のそれぞれについて,現実の調査実績にそくした検討がなされている。承認統計の場合,指定統計や業務統計にみられるような実査過程における法的強制としての調査協力誘因メカニズムは働かない。承認統計の実査過程を特徴づけているのは,申請者の「被拘束性」に象徴されるこの種の統計に固有の論理,すなわち調査実施者と申請者との間に日常的,恒常的に維持されている行政指導的レベルでの強制関係である。換言すれば,このような申請者の「被拘束性」にもとづく非法規的強制関係という調査論理が,統計法規あるいは個別業務法規による調査協力要請メカニズムをもたない承認統計への申告者の「自発的」協力を支えている。

 筆者は以上に要約される承認統計の調査論理を,実際の調査過程に探っている。その結果,得られた結論は次のようである。少々長いが引用する。「個人や世帯を対象とする調査の中にも,実査過程において調査実施者と申告者との間には,単なる統計作成行為を超えた現実の業務を媒介した特別な社会的関係が日常的に維持されているものが多く含まれる。・・・実査過程で成立する社会的関係の形態は多様である。実査における協力要請を日常的に維持されたこのような社会的関係に依拠するという点でこの種の調査は,単に無作為標本として抽出された不特定多数を対象とする調査とは明らかにその調査論理を異にする。このような特別な社会的関係に制約された調査対象としての個人や世帯をここでは特に『被拘束的』個人・世帯と呼ぶことにする」と(268頁)。事業所を対象とする調査でも,事情は同じである。ここでも「恒常的に維持されている『管理-被管理』という特別な社会的関係が,申告者に対する協力要請面で有効な強制力を持ちうる」(269頁)。「中央で指導・監督の立場にある調査実施者が管下の企業や事業者に対して調査を実施する場合,承認統計において広汎に採用されている郵送・自計法は,調査実施者と統計原情報の提供者の間に成立する独特な『被拘束的』関係,さらには定期性調査に対する報告者側の組織的対応という要素を考慮すれば,獲得される結果数字の精度の点からも積極的意味を持つ。なお新規調査や新設の調査項目への記入にあたっては,しばしば過去に遡及した資料の再整理が必要になる。これについても承認統計では報告者側から調査実施者に問合せが行われるのが一般的である。このことも,承認統計調査の実査における調査実施者と報告者の特別な関係を象徴している」(270頁)。

 筆者は「むすび」で,承認統計による結果数字の性格,「個人情報保護法」(昭和63年12月)の制定にともなう「報告調整統計法」の一部改正,承認統計における「裾切り調査」の役割と特徴,「裾切り調査」と「無作為抽出標本調査」との関係と前者の政策関連統計としての存在合理性などに言及し,承認統計が調査協力要請の論理という点でも,調査資料の行政目的への使用の面からも,指定統計と業務統計の中間的存在であることを確認して,本稿を閉じている。
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