アノニマス・ライターの事件簿

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【医療事故】造影剤を誤投与した女性医師の刑事裁判で有罪判決

2015年07月31日 | 造影剤による医療事故

2014年4月、CT撮影時に造影剤の誤投与により女性患者(78)を死亡させたとして、業務上過失致死の容疑で起訴された国立国際医療研究センター病院の飯高世子 医師(30)の刑事裁判で判決が下った(東京地方裁判所)。

【刑事裁判の日程】
・初公判(2015-05-08)・・・・・冒頭陳述、罪状認否など
・第2回公判(2015-05-25)・・・証人尋問、意見陳述など
・第3回公判(2015-06-08)・・・論告求刑など
・判決(2015-07-14)



<判決の概要>
判決は2015年7月14日。
刑事裁判の法廷では、多くの傍聴人が見守る中、判決が読み上げられる。今回の医療事故は新聞やテレビでも多く取り上げられ、注目されてるためか、傍聴席はあらかた埋まっている。報道陣も詰めかけているようだ。


新聞やインターネット・メディアの記事によると詳細は次の通りである。

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『造影剤誤注入で患者死亡、医師に有罪判決「初歩的ミス」』
朝日新聞(2015年07月15日)

 国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)で昨年4月、女性患者(当時78)の脊髄(せきずい)に誤った造影剤を注入して死亡させたとして、業務上過失致死の罪に問われた女性医師(30)の判決が14日、東京地裁であった。大野勝則裁判長は「ミスはごく初歩的であり、過失は重い」として禁錮1年執行猶予3年(求刑禁錮1年)を言い渡した。

 判決は、造影剤の箱などには「脊髄造影禁止」と目立つように朱書きされていたと指摘し、「ほんの少し注意を払えば使用してはならないと容易に気づけた」と批判。一方で「反省し謝罪を重ねている」とした。判決後、患者の次男(50)が記者会見し、「医師の教育が不十分であり、病院の過失も非常に大きい。刑事事件で医師しか裁けないのは限界を感じる」と述べた。

 判決によると、女性医師は昨年4月16日、脊髄造影検査をする際に、患者に脊髄への使用が禁止されている造影剤「ウログラフイン」を誤って注入し、患者を死亡させた。

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『遺族「反省しているのか」…誤投与の医師に有罪』
読売新聞(2015年07月15日)

 国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)で昨年4月、造影剤を誤投与して患者を死亡させたとして、業務上過失致死罪に問われた整形外科医の飯高世子(いいだか としこ)被告(30)に対し、東京地裁は14日、禁錮1年、執行猶予3年(求刑・禁錮1年)の判決を言い渡した。
 大野勝則裁判長は、「初歩的な過失で責任は重いが、被害者や遺族に謝罪している」と述べた。
 判決では、飯高被告は同病院の研修医だった昨年4月16日、足の痛みで検査入院した女性(当時78歳)の脊髄の造影検査を行った際、重い副作用の恐れから脊髄への投与が禁止されている造影剤「ウログラフイン」を誤って注射し、女性を急性呼吸不全で死亡させた。
 判決後の記者会見で女性の長男(52)は「本当に反省しているのか疑問。病院は事故の責任をとって安全管理体制を構築してほしい」と話した。

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『造影剤の誤投与「初歩的、重い過失」、禁錮1年
東京地裁判決、国立国際医療研究センター事故』
2015年7月14日(m3.com)

 国立国際医療研究センター病院の整形外科医が、2014年4月に脊髄造影検査には禁忌の造影剤ウログラフインを誤投与し、78歳の女性が死亡、業務上過失致死罪に問われた裁判で、東京地裁(大野勝則裁判長)は7月14日、禁錮1年、執行猶予3年の判決を言い渡した。検察の求刑は禁錮1年だった。

 判決は、脊髄造影検査の際には、添付文書等で造影剤の薬理作用を確認し、誤用による生命身体への危険を防止する注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、漫然と脊髄腔内に造影剤約8mLを誤投与し、女性を急性呼吸不全により、死亡させた過失があると判断した。

 さらに「禁錮1年」という量刑の理由として「被告人の過誤は初歩的であって、その過失の程度は重い」と説明。その理由として、「造影剤の選択 を誤ると、重大な副作用を起こす場合もあるという基本的な知識を持ち合わせていなかった」「経験による思い込みから添付文書を検討せず、薬剤部への問い合わせもせずに造影剤を誤投与した」「医師は、使用する薬剤の確認や選定に過誤がないよう十分な注意を払うべきことは明らか」などと判示した上で、 (1)造影剤には、添付文書だけでなく、箱の3カ所やアンプル本体に、脊髄造影検査には禁忌と赤字で記載されていた、(2)使用すべき造影剤の種類について、ほんの少しの注意を払っていれば、脊髄造影検査に使用してはならないことに容易に気づくことができた――ことを挙げた。

 被告の弁護人は公判で、誤投与の事実は認めたものの、病院組織としての事故防止対策の不十分さを指摘し、医療安全の観点から、個人の処罰よりも、 再発防止体制を構築する重要性を主張していた。しかしながら、判決では、「造影剤について、医師と看護師がダブルチェックする体制が取られていなかった」 などの点には触れたものの、「それ以前の被告人自身のごく初歩的な過誤に起因している。過失の重さを否定するような事情や証拠を見いだすことはできない」 と、弁護人の主張を考慮しなかった。

 本件については、過去の同様のウログラフイン誤投与事故で、刑事責任を問われた裁判例から、有罪は避けられないと想定されていた。しかし、一部の医師会や保険医協会などから、個人の責任追及では再発防止につながらないことから、システムエラーの観点から医療安全に取り組む必要性などを判決文で言及するよう求めた嘆願書が出されていたが、判決では顧みられず、検察側の主張を全面的に受け入れた判断になった。(※中略)

 一方、死亡した女性の遺族側は判決後の記者会見を開き、死亡した女性の長男(52歳)は「検察側の主張がほぼ全面的に認められた、きちんとした判断だったと思う」と述べたものの、病院の安全管理体制も問題視、「病院の関係者にもきちんとした形で責任を取ってほしい」と求めた。次男(50歳)からは「執行猶予が付いたのは残念だと思う。できれば実刑にしてもらいたかった」との言葉もあった。もっとも、執行猶予付きは予想されたと言い「判決後、検察官と話したが、恐らく控訴はしないだろう」(遺族側の弁護士)。

【解説】その後、検察と被告ともに控訴せず刑が確定した(2015/7/29)

 なお、本事案については、並行して損害賠償に関する話し合いも進められている。遺族側の弁護士によると、今年5月に、国立国際医療研究センター病院と整形外科医本人に対し、連帯して賠償するよう求め、7月13日に病院から回答が来たという。「責任があること自体には争いはない。ただ、賠償額には、 数千万円の隔たりがある。今後、遺族と協議しながら話し合いを進める」(遺族側の弁護士)。事故原因と再発防止策、謝罪について納得できる回答が得られれば、賠償額については交渉の余地はあるとしている。

「禁錮1年執行猶予3年」の量刑、「2人死亡」の事案と同じ

 (※中略)本事案については、5月8日の初公判を含め、計3回公判が開かれたが、事実認定については争いがなく、判決でも起訴状通りに認定した。被告の整形外科医は、2014年4月16日、腰部脊柱管狭窄症の再発疑いの78歳女性に対し、脊髄造影検査を実施する際、脊髄造影用造影剤イソビストを使用すべきところを、ウログラフイン60%注射液を誤って使用。女性は同日午後8時3分頃、急性呼吸不全により死亡した。整形外科医は、2014年12月3日に業務上過失致死罪容疑で書類送検、今年3月9日に在宅起訴された。

 判決では、執行猶予を付けた理由について、(1)真摯な反省の態度を示し、被害者と遺族に対して心からの謝罪を重ねている、(2)自らの責任を痛感し、遺族の心情にも思いを寄せ、今は医療関係の研究に携わって社会に貢献する方法を模索し、実践している、(3)遺族とは損害賠償の交渉中であり、遺族には相応額の賠償がなされる見込みである――という点を挙げた。

 そのほか判決では、「被告人のごく初歩的な過誤の結果、家族と平穏な日々を過ごしていた被害者の命が突然、失われた」などとし、遺族が公判で悲しみと整形外科医に対する厳しい処罰感情を述べていたことについて、「もっともだ」とも言及した。

 過去にも、脊髄造影検査へのウログラフイン誤投与で、医師が業務上過失致死罪で有罪になった事案は複数ある。今回の量刑は、誤投与で2人死亡した 国立療養所星塚敬愛園の事案と同様だ(1990年9月の福岡高裁判決で、禁錮1年執行猶予3年)。山梨県立中央病院の事案(誤投与で1人死亡)は、 1994年6月の甲府地裁判決で、禁錮10カ月執行猶予2年だった。そのほか、略式命令で50万円の罰金刑などが科せられた例がある。

 遺族は病院の安全管理体制も問題視

 判決後の記者会見では、整形外科医が反省と謝罪の意を公判で示していたことを聞かれると、遺族は「言葉では反省していると繰り返し言っていた。ただ、やはり証言の内容から考えると、自己弁護をしていることがとても多く、本当に反省しているのかという疑問が残らざるを得ない」(長男)、「本当に反省しているなら、医師としての仕事は一切やらない、医療に従事しないでもらいたいと訴えた。ただ、今でも大学病院で研究職をしている。反省しているなら、医師免許を返上して、医療の現場からは離れてもらいたい」(次男)などと述べ、懐疑的な見方を示した。(※以下、略)

(m3.com 2015/7/14の記事より引用)

『造影剤の誤投与「初歩的、重い過失」、禁錮1年
東京地裁判決、国立国際医療研究センター事故』(m3.com)


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【判決のあと被害者の遺族が記者会見を行う】

判決後に裁判所内の別室にて新聞やテレビ局などの取材陣が集まる中、被害者の遺族と弁護士が記者会見を行った。遺族会見の主な内容は次のとおり。

<被害者女性の長男>
 判決では、検察側の主張がほぼ全面的に認められた、きちんとした判断だったと思う。本件の事故の要因は、二つあると思う。医師として当然知っていなければいけない基本的な知識が欠如したまま、診療・検査に当たっていたこと。病院側の安全管理体制の不備も大きな要因だと思う。検査で使用する造影剤のチェック体制がなかった。薬を間違えた医師は、薬が置いてある棚から、自分で造影剤を取り、それを誰のチェックも受けずに、検査に使用するという使い方をしていた。その場に主治医や看護師はいなかった。
 病院側は、事故の後、すぐに警察に事故の届出をしている。この点は、模範的な対応だったと思う。ただ、やはり大事なのは、事故が起きる前にどのようなことをなすべきか、という点だと思う。犠牲者が出てから改善したのでは遅い。事故を想定した上で安全管理体制を構築して、一人も犠牲者が出ないような体制をきちんと作っていくのが、病院の安全管理だと思う。その意味では、病院の関係者にもきちんとした形で、責任を取ってほしいと思っている。また病院の事故説明会や裁判の中で明らかになったことだが、母の後にもう一人、検査のためにスタンバイしていた。もう少しで二人目の犠牲者が出るところだった。あと多分5分ほど遅れていたら、二人目の犠牲者が出ていたのは確実だった。 その意味でも、医師としての基本的な知識の欠如のまま、なぜ診療や検査をしていたのか、不思議でならない。

<被害者女性の次男>
 私としては、執行猶予が付いたのは残念だと思う。できれば実刑にしてもらいたかった。ただ、過去の判決からすれば、執行猶予が付くだろうと予想はしていた。検察側の禁錮1年という求刑が、そのまま判決になった。判決文の中でも、我々遺族の気持ちを十分に裁判官がくみ取ってくれた言葉があったので、その点については裁判所には感謝している。
 今回の件は、担当した医師の過失によるところが大きいが、造影剤のダブルチェック体制ができておらず、研修医に対する造影剤の教育、研修の機会がなかったという。病院側の過失は大きい。ただ、今の法制度には限界があり、実際に検査を行って誤投与した医師しか刑事事件で裁けない。我々遺族は病院側に対しても激しい怒りを持っている。形通りの謝罪しかなく、証言に来た医師以外は、結局、病院側の関係者は裁判の傍聴にも来ていなかったようだ。全てを担当した医師の個人的な責任にしようと考えているのかと思う。そうした病院側の対応にも非常に怒りを感じている。




東京地方裁判所の判決後に記者会見した遺族3人と、代理人を務める弁護士。

 

【刑事裁判の判決についてのわかりやすい解説】

・谷 直樹弁護士事務所のブログ(国立国際医療研究センターでの造影剤事故)



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