安呑演る落語

音源などを元に、起こした台本を中心に、覚え書きとして、徒然書きます。

笑い茸

2006年03月28日 | 落語
 ここに、生まれてから笑ったことのないというかたがあります。
  仏具屋の頂兵衛・・・・つめて仏頂と呼ばれたお方、年が四十五歳、生まれて四十五年間、笑ったことがないという・・・・。愛嬌のない人を仏頂面というのは、この人から始まったので・・・・、
 ご家内も、連れ添ってもう十五年になりますが、一度もご主人の笑い顔を見たことがないので、いろいろ心配して、横丁の寸白(スンパク)さんというお医者さまのところへ参って、

妻: 私は、ただいまの家へ嫁いでまいりまして、十五年になりますが、まだ、夫(ヤド)の笑った顔を、一ぺんも見たことがございません。
どうか、笑いますようなお薬がありますなら、いただいて参って、飲ませとうございます――
寸白: はァ、それには良い薬がある。紅葉茸(モミジダケ)といって、紅葉の木の根ッこへできる茸がある。これを酒のなかへひたしておいて飲ませると、どんな笑わない者でも、自然と笑い出す。これを笑い茸という。
幸い、ここにあるから、持って行って飲ましてやんなさい
妻: それはどうも、ありがとう存じます
*と、おかみさん、いろいろ効能を聞かされて、うれし喜んで、寸白さんのところから、笑い茸というものをもらってきて、お酒の中へひたしておいて、
妻: もし、あなた。あなたと私といっしょになってから、十五年になりますねェ
仏頂: それは、おまえが言わないったって、わかっている
妻: ですけれどもねェ、あなた、この十五年の間、私の前でちっともお笑いなすったことが、ありませんね?
仏頂: おれは、何もおかしくねえから、笑わねえ――
妻: あなたは、私がおいやだから、それで、私の前でお笑いなさらないんでしょう?
仏頂: バカなことを言いなさんな。おまえがイヤで笑わないのではい・・・・おれには、そうしても笑えない。
世間の人が笑ってると、バカバカしくてたまらない
妻: じゃァ、まったくあなたは笑うことがないんですか?
仏頂: おまえといっしょになってからは十五年だが、それよりずっとまえ、生まれたときから、きょうまで、一度も笑ったことがない
妻: 私も、あなたと夫婦になったものだから、どうかしてあなたの笑うお顔を、一度拝見したいと思って、いろいろ心配していたところ、実はさっき、横丁の寸白先生のところへ行って話をすると、
”笑い茸というものがある。これを飲ませると、どんな笑わない人でも、自然と笑い出す” 
とおっしゃるから、ここへいただいてきました。あなたが、ほんとうに笑ったことがないなら、ひとつ、めしあがってごらんなさい
仏頂: じゃァ、何か・・・・おまえが医者のところへ行って、亭主が笑いませんから、薬をくれろ・・・・と言ってもらってきたのか? どうも、亭主が笑わないからといって、薬をもらってくるヤツのないものだ。おまえ、その医者にダマされたんだ
妻: けれども、これを飲めば、きっと笑うと言いました。まァ、ものはためしだから、ひとつ、飲んでごらんなさい
仏頂: そう、おまえが、たって飲めと言うなら、飲まないことはい。・・・・ここへお出し
妻: ようございます。・・・・さァ、これでございます
仏頂: はーァ、これを飲めば、必ず笑うというのか? こんなものを飲んだって、笑うわけがない。医者にダマされてきたんだ。・・・・いえサ、飲みますよ・・・・飲まないとは言わない。(飲む)
  ウーン、あまりこれは、うまいものではない・・・・ヘンな味がする。まるで、キノコみたような味がする。
・・・・さァ、すっかり飲んじまったが、おかしくも何ともない――
妻: 今に、あなた・・・お薬が身へ回ると、いくら、あなたが笑うまいと思っても、自然とふきだすようになりますよ
仏頂: なァに、笑いませんよ
妻: いいえ、あなたが強情を張っても、お薬が回れば笑いますよ
仏頂: 笑いませんよ
妻: 笑いますよ
仏頂: 笑いません! よく考えてみなさい、おれの身体だよ、おれが笑うまいと思えば、どんな薬を飲んでも、おかしくなる道理がない。こうなるとおれも強情だから、生涯笑わないから、そう思いなさい
妻: いいえ、いくらあなたが強情を張っても、お身体に薬が回れば笑いますよ
仏頂: 笑いません。なぜ、おまえ、そこで妙な顔をして見せるんだ。おまえがそこで、妙な顔をしても、おれは笑わない・・・・。何だ、おまえが笑ってるじゃァないか、おれは笑わない・・・・ふふ、おまえがそこで、フフフ、笑って見せたって・・・・ハハハ、おれは、笑やァしない――
妻: アレ、あなた、お笑いなすった!
仏頂: ふふふ、何、笑うものか・・・・ハハハハ、フフフフ・・・・
妻: それごらんなさい、お笑いなすった――

仏頂: いつ、おれが笑った? いやサ、おれが、いつ笑ったよ! おまえの気のせいだ。薬を飲んだからいまに笑うだろう、笑うだろうと思っているので、笑うようにみえるんだ、フフフフフ、バカな話で、ハハハハハ、フフフフフ、ハハハハハ、ハハハハハ・・・・。
  いや、これはいかねえ・・・・、アハハハハハ、アハハハハ、アハハハハ・・・・。おい、どうも、これは妙だ
・・・・アハハハハハ。人間というものは、奇態なものだナ、今まで、おれが笑ったことがない・・・・それを、おまえがあんなものを飲ませたら、と、と、と、と、とめどなく・・・・ハハハハハ、ハハハハハ、ワハハハハハ
・・・・、こ、こ、こ、こりゃァいかねえ、おいおい、おれは口がけけねえ・・・・。
  アハハハハハ、アハハハハハ、あァおかしい、アハハハハハ、アハハハ・・・・おいおい、人間というものは、考えると、妙なものだ、おまえとおれは、もとは他人だ、他、他、他、他人どうしだ、アハハハハハ、
アハハハハハ、そ、そ、そ、その他人どうしが、ふ、ふ、ふ、夫婦になって、アハハハハ、ワハハハハ・・・・、
それが、それが・・・おまえとおれと、夫婦になるときには、と、と、と、としが一つ違いだったろう? ハハハ
ハハ、ハハハハハ、十五年前に一つ違いだったのが・・・・。アハハハハ、ワハハハハハハ・・・・。
  それにねェ、おい、おまえがおれのところへ、よ、よ、よ、よめに来たときには、し、し、し、島田に結っていた・・・・それが今になったら、ハハハハハ、丸まげになってしまって、アハハハハハ、そうしておまえ、嫁に来たときには、おまえの顔に眉毛があったろ? それが今になったら、おまえの眉毛がな、な、なくなってしまった・・・・、アハハハハハ、ワハハハハハ、ワハハハハハハハ・・・・
*妙なことを言って、とめどなく笑っております。
  笑う門には福来る・・・・とはよく言ったもので、さァ、世界の金が仏頂のところへ集まってきて、たちまちの間に、仏頂が大金持ちになりまして、その金をつみあげて笑っております――。
  ところが、これにひきかえて天国では、それがために金がなくなってしまい、さァ、お月さまをはじめ星などは、残らず貧乏になり、しかたがないから、集会をして詮議(センギ)をすると、下界に仏頂という者があって、今まで笑ったことがなかったところ・・・・
女房が笑い茸というものを医者からもらってきて飲ませ、それから笑い始めて、少しも笑いやまない。
それゆえ、金が仏頂のところへ集まってしまうということがわかりました。してみれば、仏頂は、笑って金を集めたのだから、こっちも負けないように笑ったら、その金が帰ってくるだろう、仏頂のところにいる金に聞こえるよう大ぜいで笑え・・・・というので、星が残らず、大声で、”ワハハハハ、ワハハハ” と、しきりに笑いたてると、仏頂のところにいた金が、その笑い声を聞いて、また出かけようとするから、仏頂、笑いながらこれを止めて、
仏頂: おいおい、おまえがたは、支度をして、どこへ行きなさる?
金: ヘェ、旦那、天国で、みんなが笑っておりますから、また、天国へ参ります
仏頂: ハハハハハ、おまえがたは、天国へ行くにはおよばない
金: ヘェ、どういうわけで?
仏頂: あれはみんな、ソラ笑いだ!

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