月の晩にひらく「アンデルの手帖」

資生堂パーラーの洋食のあとは「ブェンキ銀座店」



1月14日(火曜)

再び、機上の人である。夕方の4時。
「8K」という窓のない席。前席から半分みえる窓の外は、水色の中にうっすら赤みがさして、明るい。雲まで茜色だ。まるで湖面をすべっている。伊丹空港から羽田まで、空に浮かぶ時間は50分。もう1時間くらいどこの国にも属さない、浮遊旅行もいいなと思う。


京急線で蒲田までいき、新橋駅でおりる。交差点の信号を待って、銀座方面へ。
歩きながら、なにげなく首に手をやると、さっきまで飛行機の中で鳴り響いていた、BOSEノイズキャンセリングの残像がない。え! 鞄、コートの中、体にまとわりついていないかも探すがない。信じられない。新橋からの道のりを引き返して探す。が、跡形もなかった。


Nが駅係員の人に聞いてくれたり、道の隅などを探したりしてくれるのをみて、これはいかんと落ち着いた。落ち込んでも仕方ない。ないものはない。明日、手当たり次第、駅や電車や忘れ物センターに電話してみよう。と腹をくくり、気分よく歩きだした。


むかったのは銀座の資生堂パーラーだ。エレベーターで4階まで。







銀の食器がふれあう音。白のテーブルクロスとハイチェア。イエローの壁。
隣には、おじいさまと夫婦と子ども、孫たちが秩序正しくコース料理を味わっていらした。ボーイが席のところまでメーン料理を運び、丁寧にとりわけて各席に配る。本当においしそうである。
部屋の佇まいもきれいで、ここはテイストを変えない。銀座といえど、こういう店があるといいなぁ。ほっとする。


私は伝統料理からのメニューで「ミートクロケット」。Nは、「海の幸のグラタン」をオーダー。











オレンジのトマトソースがとろりとして艶やかだ。ナイフをいれるとサックリ、と切れ味よく、中はとろり。舌触りのいいクリーム系。食べ応えがあるのは、ハムとボイルした仔牛の肉をさいの目にカットしてあるそうだ。料理にあわせると白ワインが妥当だろう。
それでも、ブルゴーニューの赤を愉しんだ。何を話したのか、すっかり忘れたけれど。おそらくNの近況を面白く聞いたのだ。きっと。


光の洪水がキラキラする夜の銀座を歩いたあと、Nの推薦でチョコレートとジェラートの店「ヴェンキ 銀座店(Venchi Ginza)」(中央区銀座4丁目3番2号 )
まだ昨年12月にオープンしたばかりという。








イタリア・トリノ生まれ、創業して141年。合成香料や着色料、添加物の使用を控えた、鮮度のいいジェラートを提供。
店内は量り売りの高級チョコがずらり。

私たちが選んだのは、
ヘーゼルナッツとチョコレートを混ぜた「クレミノ」、「マンゴー」!
ほんのりお酒のはいった体にひんやりとして、いかにもフレッシュ。
さすが、チョコレートはしっとり濃厚、ビターでおいしかった。    







このままバーには足をむけないのが、まあいいんじゃないだろうか。すぐそばの銀座3丁目にある珈琲三十間へ。地下へ降りていく、隠れ家風。長く真夜中までいられそうな秘密基地みたいな安らぐ、静謐な空間だ。スピーカーがそういうくぐもった音で響く、まるでジャズの調べだ。


ファイベルカスティーロというキャラメル風味のコロンビア豆をつかったコーヒーを飲み、Nのマンションへかえった。


さて。Nの部屋で年末の仕切り直しですか。ウィーン産やフランス産のチーズを4種類アテに、彼女が録画した紅白歌合戦を観ながら、「知多」+ウィルキンソンの強炭酸で割った香りのいいハイボールをごちそうになる。なにも生み出さず、発見もなく、でも気楽で心地いい明るい話しばかりがはずんだ。1月のことである。







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