本日、快晴。

映画中心雑記。後ろ向きなポジティブが売りです。

トム・アット・ザ・ファーム【映画】

2014年11月19日 | 【映画】


@シネマカリテ


ようやく観れた・・・。
去年の東京国際映画祭ラインナップ見落としてから、早1年。
わたしはロランス」で受けた衝撃もまだ鮮明な中、
若干25歳の天才・グザヴィエ・ドラン監督の新作を観ました。

「わたしはロランス」もそうだったんですが、
彼の映画は、何と言うか、脳が痺れる感覚を与えられる、
いわば麻薬的な要素があるように感じます。

さして小難しいストーリーではないのだけれど、
何とも言えない後味の悪さとか、居心地の悪さとかに、
観賞後、身体の震えが止まりませんでした。

面白いか、と言われたら「YES」とは答えられないけど、
素通りできない傑作です。

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恋人のギョームがこの世を去り、葬儀に参列するために、
彼の田舎に足を運んだトム(グザヴィエ・ドラン)。
しかし、ギョームの母はトムのことを知らず、
一方ギョームの兄フランシス(ピエール=イヴ・カルディナル)は
トムとギョームの関係を他言しないようにと強く言い聞かされる。
フランシスに脅されるうちに、
トムはフランシスに死んだ恋人の姿を重ね合わせるようになり……。
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複雑な物語ではありませんが、
全編通して語られる言葉が非常に少ないこともあり、
終始、観客の解釈に委ねられる部分が多いです。


ゲイの恋人を事故で亡くしたトムの、冒頭の手紙。
「愛する君を亡くした僕は、君の代わりを見つけることしか出来ない」
(すみません、うろ覚えなので、原文と違うかも。)
という言葉が物語るトムの気持ちは、トム自身だけではなく、
ギョームの母・アガットや兄のフランシスにもまた通じていて。

誰しもが、ギョームの代わりを無意識に探している。
アガットにとっての、トム。
トムにとっての、フランシス。
フランシスにとっての、トム。

全員が、おかしくなる一歩手前のところで、
ギョームの死による環境の変化に対応している様は
一見何事もないかのように見えて、非常に異様で、
それが画面からひしひしと伝わってきます。

ホラー映画でもないのに、『怖い』という感想をよく目にするのは、
これが要因のひとつかなと思いました。


ギョームと恋愛関係にあったトムですが、2人はゲイ。
それを母に知らせたくない兄フランシスは、トムに口止めをします。
激しい暴力と、鬼気迫る脅迫。
普通は、警察に駆け込んで終わりなのかもしれないけれど、
田舎の排他的な雰囲気が、無意識にトムに歯止めをかけているように見えます。

「知られたら困る」というフランシスの言葉や、
後の場面で、サラを乗せてきたタクシーが家の前まで来なかったのも、
暗にこの家が異常であることを示していました。


ギョームの葬儀後、農場に残るトムは、
DVに屈したストックホルム症候群のように見て取れますが、
それと同時に、ギョームの喪失に耐えられず、
『代わりの誰か』を求めての行動だったようにもとれます。

一方で、ギョームの兄・フランシス。
自己中心的で、暴力的で、排他的。
田舎の長男として、分かりやすくフラストレーションを抱えているという点で、
彼の気持ちもまた、理解できてしまった、私。
(もちろん暴力行為には共感は出来ませんが。)
母のためと言いながら、一方では自分のために、
トムを脅し、引き留め、圧力をかけていきます。


母アガットを含めた、非常に危うい3人のバランスは、
偽りの恋人・サラの登場によって、崩れます。

私が唯一わからなかったのは、トムがサラを呼んだ理由。
想像するしかないのだけれど、
抑圧され切っていたトムの残り少ない理性が発したSOSなのか、
キス写真のサラに対する(自分が本物の恋人だ!という)主張なのか。
ともあれ、サラに「帰らない」と主張するトムの表情がもう完全にイッちゃっていることで、
観客である私は絶望を感じました。

しかしながら、その後のサラの行動と、バー店主の話で、理性を取り戻すトム。
その後の農場からの逃走劇は、今更ではあるのだけれど、
"どうか逃げ切って・・・!"と願わずにはいられないくらい緊迫感があり、
森の中で叫ぶフランシスの懺悔に、一瞬揺らいだ(ように見えた)トムが
勇気を振り絞ってトラックを発車させる瞬間、
完全にトムの気持ちにシンクロしてしまっていて、心臓がバクバク言ってました。



何てことない話なんですよ。多分。
暴力行為での脅しから何とか逃れることの出来た青年の話です。
ホラー映画とかで、恐怖の館から逃げるそれと、作りは一緒だと思います。

ただ、心理的な恐怖ゆえに、対象が曖昧なのと、
主人公自身が、恐怖から逃げることに積極的ではないのとで、
観客も、何が怖いのか、はっきりとは分からないんです。
むしろそのこと自体がより一層恐怖感を煽っているのかな、と勝手に解釈。

ラストシーン、街まで逃れたトムが、ハンドルを握る画。
カットアウトした後もまだ、恐怖の余韻が残ってました。


もう一度言いますが、ストーリー自体は、何てことない話なのです。
ただ、画面から伝わる空気感とか、感情とかが、
あまりにも圧倒的で、心臓にダイレクトに響くというか、
冒頭書きましたが、麻薬的な作品でした。



情緒不安定なまま書き殴ったので、
観た人にしかわからない不親切な記事ですみません。
ただ1点確実なのは、グザヴィエ・ドランは天才だということですかね。

万人受けはしないかもしれないけど、私にはど真ん中でした。
彼の映画は、できるだけ漏らさずにしたいと思いました。
見逃し作品をTSUTAYAで借りようと思います。

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