小説『ジョーイの出立』
第一部、タイムズスクエアーの家、
第12章『親友は時として、大敵となる』
・・・[前号までのあらすじ]、NYで1999年に不動産を探している百合子は、15年前に日本で経験した詐欺事件を思い出す。そのとき危うく殺されそうになったが・・・
盗聴の結果は、当然のこと、山崎氏宅に届くシステムになっていただろう。で、もしかしたら、弁護士事務所さえ盗聴の対象になっていたかもしれない。鹿島泰三と、それと連動している組織のやり方を、後年熟知してきた百合子から見ると、この事件の際には、すでに、そこまでの高度な盗聴は、あったとも思われる。
で、山崎氏は、二重に、おくさんの狂人ぶりを聞かせられることとなった。
~~~~~~~~~~
ここから先の解釈は、非常に難しいのだが、お人よしの百合子が願っている解釈をまず一番のものとして、先に述べよう、あの殺意が、奥様の出来心だったという案で、ご主人がその事実を知って驚愕をしたという案だ。
ご主人が、『ああ。そこまで、愛する家内を追い詰めてしまったのか。自分の人生は失敗だった』と考えて、用意の短刀で割腹自殺をしたという案だ。もし、武家の出なら、この程度の結末はありえる。特に奥様が外出中に、簡単な遺書を書いて、事を行った。
もし、懐剣を戦後の、苦しい時期に売ってしまったとしたら、首吊り自殺だったかもしれない。特に次の日に、葬儀屋が来ていて、社員たちは、平服だったが、ぴんと来た百合子は彼らをとらえて、「山崎さんで、誰か亡くなった」と聞いたら、「ええ、」と答えたので、割腹自殺ではないと思われる。
山崎邸はあまり大きくなく、百合子の家のインテリアを模していた。そちらのほうが6か月後で着工だから、建築途中で内部を見て、まねをしたのだろう。この件は割と重要だ。百合子は美術に造詣が深く、かつ、父も建築がすきなので、神奈川県下随一と思われる大工さんにお願いして、装坪数としては小さいものの、内部は、質もデザインもよいうちを建てていた。それと、庭というか、敷地が近所の二倍あったのも影響して『若いのに、どうしてあんなに恵まれているのかしら?』とは思われていた。
だから、ご近所から情報を集めた、山崎氏は、勘が狂ったのだ。嫉妬しているご近所は、百合子をけなす情報しか言わないから。
内部が百合子宅に似ていて、坪数はさらに小さかったあの、老後の夫婦二人だけが、静かに住むための20坪ていどの平屋で、割腹自殺があったら、その後始末は大変だろう。家族としては奥様だけだから特に。でも、葬儀屋の社員たちが、こんなにゆったりとかつのんびりと、構えているから、割腹自殺ではなかったのだと、百合子はひとまず、安心した。
後年、『おくりびと』という映画ができて、評判になった。あの中では遺体を棺におさめる前に、さまざまな死に化粧をほどこす。だから、葬儀屋が何の防衛心も示さないことから見ると、不審なところがないのだろうと、百合子は判断をした。と、いうことは自殺ではなくて、急病死か? それにしては前夜救急車等の出入りがなかった。このご近所は大変静かなところで、救急車がサイレンを鳴らさないで、来ても、その雰囲気はわかる。
あらゆる意味で百合子は、なぞを感じたが、死亡原因などは、鹿島泰三が、どうにでも処置できるのだから、一晩、奥様は騒がないようにと、彼から、忠告を受けていたのは、間違いないと考えた。
~~~~~~~~~~
しかし、あれから、30年を過ぎて、二度ほど、『これは、暗殺だな』と感じる危険な目にあった後では、解釈がまったく異なってきた。30年前のあの山崎夫人の急発進も、計画された暗殺だったと、考え直すようになった。つまり、夫もその親友鹿島泰三も、了承の上の、計画だったのだ。
「結果が怪我ていどなら、それでもOKだし、たとえ、相手が死んでも、奥様が、罪にならないように手配してあげます」と鹿島泰三が山崎氏に請合っていたと、今では考え直している。
しかし、奥様は見事にはずしてしまった。しかも百合子はすぐ、その運転の不自然さを感じ取り、殺意があったと弁護士さんに告げた。しかも弁護士さんの事務所が盗聴をされていたら、二度違った形でそれを知らせた百合子の頭のよさが、よりいっそう、相手方に、わかったはずなのだ。
山崎氏は、初めて、自分が容易ならざる巨魁を相手にしていることを感じ取ったであろう。そして、百合子が将来どのように動くかをも心配したはずだ。また、二人の弁護士がこの事実を知ってしまったことも、不安であったろう。特に殺意まで抱いたことを知ってしまったのも、大きな不安だったと思われる
その二人とも弁護士としては、最上級のレベルの人でもあった。
だから、山崎氏は妻の寝入った真夜中に起きて(または前夜から寝ないでいて)遺書を書き、鹿島泰三氏に後を託して、軍人用の自殺薬を飲んだと、考える。終戦時、ある程度以上のランクの将校は、みんな砒素を手に入れていたはずだ。甘粕大尉の自殺が有名だが、山崎氏にも、『ここが、死に時だ。それによって、自分の名誉も守られるし、親友の鹿島君にも迷惑をかけることはない』との判断があったと思われる。
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さて、その当時は、百合子は当然のごとく悩んだ。そして、その二十年後にそれを、『元参謀の陰謀』という未発表の小説にまとめて、一回文学界の新人賞に応募した。のに、そのころはライターとしての覚悟がまだ定まっておらず、引き上げてしまった。文芸春秋社に対するその「どうか、返してください」という電話連絡も、盗聴をされていたとすれば、鹿島泰三は、『あいつは、脅かせば、どうにでもなる』と思い込んだはずだ。で、百合子には、引き続いて、あらゆる意味で、嫌がらせとか、脅迫が行われている。
だけど、百合子側に損ばかりあるかというと、そうでもないのだ。百合子はある意味でぐいぐいというほど、強くなっている。それは、この攻撃を浴びていることもひとつの原因だ。そして、その個人的な攻撃を分析すればするほど、社会の諸相も連動して分析できるようになる。そして、今では、日本と、それを支配しようとする国際的軍産共同体との関係は、瞬間的といってよいほど、分析できる。
そして、『人間とは何だ』という設問に対しても深い分析ができるようになった。
ここで、この上の地籍変更届に関する詐欺の件で、はっきりわかっていることは、盗聴とは、ある意味で勝つための手段であるのだけれど、それによって自らの首をも絞めるということだ。山崎氏の死は、百合子が弁護士に、二つの電話で、おくさんの殺意を告げたことで起因したのは疑いがない。その前にも、大騒ぎはなんどもあって、百合子は彼にものすごい勢いで怒鳴られたりしていた。だけど、まったく、恐ろしくないので、堂々としていた日もあった。そういう日とか、内容証明が法務局に届いた日の方が、客観的にみれば、より意味の深い決定的なポイントでもあるのだ。
だけど、彼が自死、もしくはショック死に至ったのは、*1人を殺そうとして、しかも*2それが失敗して、*3相手に、その事実を握られたということを、*4彼が知った日だったという順序を踏んでいる。そして、*4が決定的な引き金だったと思われる。ということは、盗聴というものの、悪魔的な作業の悪魔的な結果に他ならない。
山崎氏は、ひそかにおとなしく生活していた、夫婦でもあった。あの二人だけの力では、盗聴までは、できないし、手をそめなかったであろう。それなりに、品があり、道徳観もあったはずである。だけど、鹿島泰三という、現在も情報活動の最先端にいる、人物が親友だったということがこういう結果を引き起こした。
今日の文章はここで、終わりたい。最後の結論を、解説する必要もないと思うから。
本日は、午前1,00、午後、15時、に一本ずつアップしてあり、これは三本目です。ちょっと、送りすぎるようですが、それはどうかご容赦いただきたいと思っております。
主人公が殺されるか、どうかという瀬戸際で、それを、計画した方が死んだというある意味で劇的なエピソードだったので、最後まで書き抜くほかはなかったのです。
では、2010年7月9日 雨宮 舜
第一部、タイムズスクエアーの家、
第12章『親友は時として、大敵となる』
・・・[前号までのあらすじ]、NYで1999年に不動産を探している百合子は、15年前に日本で経験した詐欺事件を思い出す。そのとき危うく殺されそうになったが・・・
盗聴の結果は、当然のこと、山崎氏宅に届くシステムになっていただろう。で、もしかしたら、弁護士事務所さえ盗聴の対象になっていたかもしれない。鹿島泰三と、それと連動している組織のやり方を、後年熟知してきた百合子から見ると、この事件の際には、すでに、そこまでの高度な盗聴は、あったとも思われる。
で、山崎氏は、二重に、おくさんの狂人ぶりを聞かせられることとなった。
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ここから先の解釈は、非常に難しいのだが、お人よしの百合子が願っている解釈をまず一番のものとして、先に述べよう、あの殺意が、奥様の出来心だったという案で、ご主人がその事実を知って驚愕をしたという案だ。
ご主人が、『ああ。そこまで、愛する家内を追い詰めてしまったのか。自分の人生は失敗だった』と考えて、用意の短刀で割腹自殺をしたという案だ。もし、武家の出なら、この程度の結末はありえる。特に奥様が外出中に、簡単な遺書を書いて、事を行った。
もし、懐剣を戦後の、苦しい時期に売ってしまったとしたら、首吊り自殺だったかもしれない。特に次の日に、葬儀屋が来ていて、社員たちは、平服だったが、ぴんと来た百合子は彼らをとらえて、「山崎さんで、誰か亡くなった」と聞いたら、「ええ、」と答えたので、割腹自殺ではないと思われる。
山崎邸はあまり大きくなく、百合子の家のインテリアを模していた。そちらのほうが6か月後で着工だから、建築途中で内部を見て、まねをしたのだろう。この件は割と重要だ。百合子は美術に造詣が深く、かつ、父も建築がすきなので、神奈川県下随一と思われる大工さんにお願いして、装坪数としては小さいものの、内部は、質もデザインもよいうちを建てていた。それと、庭というか、敷地が近所の二倍あったのも影響して『若いのに、どうしてあんなに恵まれているのかしら?』とは思われていた。
だから、ご近所から情報を集めた、山崎氏は、勘が狂ったのだ。嫉妬しているご近所は、百合子をけなす情報しか言わないから。
内部が百合子宅に似ていて、坪数はさらに小さかったあの、老後の夫婦二人だけが、静かに住むための20坪ていどの平屋で、割腹自殺があったら、その後始末は大変だろう。家族としては奥様だけだから特に。でも、葬儀屋の社員たちが、こんなにゆったりとかつのんびりと、構えているから、割腹自殺ではなかったのだと、百合子はひとまず、安心した。
後年、『おくりびと』という映画ができて、評判になった。あの中では遺体を棺におさめる前に、さまざまな死に化粧をほどこす。だから、葬儀屋が何の防衛心も示さないことから見ると、不審なところがないのだろうと、百合子は判断をした。と、いうことは自殺ではなくて、急病死か? それにしては前夜救急車等の出入りがなかった。このご近所は大変静かなところで、救急車がサイレンを鳴らさないで、来ても、その雰囲気はわかる。
あらゆる意味で百合子は、なぞを感じたが、死亡原因などは、鹿島泰三が、どうにでも処置できるのだから、一晩、奥様は騒がないようにと、彼から、忠告を受けていたのは、間違いないと考えた。
~~~~~~~~~~
しかし、あれから、30年を過ぎて、二度ほど、『これは、暗殺だな』と感じる危険な目にあった後では、解釈がまったく異なってきた。30年前のあの山崎夫人の急発進も、計画された暗殺だったと、考え直すようになった。つまり、夫もその親友鹿島泰三も、了承の上の、計画だったのだ。
「結果が怪我ていどなら、それでもOKだし、たとえ、相手が死んでも、奥様が、罪にならないように手配してあげます」と鹿島泰三が山崎氏に請合っていたと、今では考え直している。
しかし、奥様は見事にはずしてしまった。しかも百合子はすぐ、その運転の不自然さを感じ取り、殺意があったと弁護士さんに告げた。しかも弁護士さんの事務所が盗聴をされていたら、二度違った形でそれを知らせた百合子の頭のよさが、よりいっそう、相手方に、わかったはずなのだ。
山崎氏は、初めて、自分が容易ならざる巨魁を相手にしていることを感じ取ったであろう。そして、百合子が将来どのように動くかをも心配したはずだ。また、二人の弁護士がこの事実を知ってしまったことも、不安であったろう。特に殺意まで抱いたことを知ってしまったのも、大きな不安だったと思われる
その二人とも弁護士としては、最上級のレベルの人でもあった。
だから、山崎氏は妻の寝入った真夜中に起きて(または前夜から寝ないでいて)遺書を書き、鹿島泰三氏に後を託して、軍人用の自殺薬を飲んだと、考える。終戦時、ある程度以上のランクの将校は、みんな砒素を手に入れていたはずだ。甘粕大尉の自殺が有名だが、山崎氏にも、『ここが、死に時だ。それによって、自分の名誉も守られるし、親友の鹿島君にも迷惑をかけることはない』との判断があったと思われる。
~~~~~~~~~~
さて、その当時は、百合子は当然のごとく悩んだ。そして、その二十年後にそれを、『元参謀の陰謀』という未発表の小説にまとめて、一回文学界の新人賞に応募した。のに、そのころはライターとしての覚悟がまだ定まっておらず、引き上げてしまった。文芸春秋社に対するその「どうか、返してください」という電話連絡も、盗聴をされていたとすれば、鹿島泰三は、『あいつは、脅かせば、どうにでもなる』と思い込んだはずだ。で、百合子には、引き続いて、あらゆる意味で、嫌がらせとか、脅迫が行われている。
だけど、百合子側に損ばかりあるかというと、そうでもないのだ。百合子はある意味でぐいぐいというほど、強くなっている。それは、この攻撃を浴びていることもひとつの原因だ。そして、その個人的な攻撃を分析すればするほど、社会の諸相も連動して分析できるようになる。そして、今では、日本と、それを支配しようとする国際的軍産共同体との関係は、瞬間的といってよいほど、分析できる。
そして、『人間とは何だ』という設問に対しても深い分析ができるようになった。
ここで、この上の地籍変更届に関する詐欺の件で、はっきりわかっていることは、盗聴とは、ある意味で勝つための手段であるのだけれど、それによって自らの首をも絞めるということだ。山崎氏の死は、百合子が弁護士に、二つの電話で、おくさんの殺意を告げたことで起因したのは疑いがない。その前にも、大騒ぎはなんどもあって、百合子は彼にものすごい勢いで怒鳴られたりしていた。だけど、まったく、恐ろしくないので、堂々としていた日もあった。そういう日とか、内容証明が法務局に届いた日の方が、客観的にみれば、より意味の深い決定的なポイントでもあるのだ。
だけど、彼が自死、もしくはショック死に至ったのは、*1人を殺そうとして、しかも*2それが失敗して、*3相手に、その事実を握られたということを、*4彼が知った日だったという順序を踏んでいる。そして、*4が決定的な引き金だったと思われる。ということは、盗聴というものの、悪魔的な作業の悪魔的な結果に他ならない。
山崎氏は、ひそかにおとなしく生活していた、夫婦でもあった。あの二人だけの力では、盗聴までは、できないし、手をそめなかったであろう。それなりに、品があり、道徳観もあったはずである。だけど、鹿島泰三という、現在も情報活動の最先端にいる、人物が親友だったということがこういう結果を引き起こした。
今日の文章はここで、終わりたい。最後の結論を、解説する必要もないと思うから。
本日は、午前1,00、午後、15時、に一本ずつアップしてあり、これは三本目です。ちょっと、送りすぎるようですが、それはどうかご容赦いただきたいと思っております。
主人公が殺されるか、どうかという瀬戸際で、それを、計画した方が死んだというある意味で劇的なエピソードだったので、最後まで書き抜くほかはなかったのです。
では、2010年7月9日 雨宮 舜