「っ馬鹿にしないで!!本気でやりなさいよ!!」
「私は本気でやってるのにっ!!」
思いもよらない事態に琥珀は動揺する。
確実に倒したと思った、そのはずだった。
だが彼女は目の前にいる。言葉通り、その眼は本気で自分に殴りかかろうとしていた。
いいや初めから彼女は本気だった。
そこでやっと気づいた。
彼は、無意識に緋音に対して手加減をしていたのだと。
本気でやりなさいよ。
(…っ、俺は、何を。まったくその通りだ。彼女はこんなにも真剣に。
なのに俺は、好きだから傷つけたくない、なんて身勝手な理由で手加減を…。)
緋音の腕を防御、そして先ほどの生ぬるい攻撃ではなく彼女に応えるよう魔法をうちつける。
ぐっと唸り今度こそ緋音は崩れる。今度こそ立ち上がる気配はない。
そして彼女の後ろにいたルーナに…
(…待て、今、俺はなんて…?)
コンマ数秒思考が止まる。
はっとして前を向くがそれだけでルーナには十分だった。
彼女はもういない。後ろから殺気がする。首元にひやりとした感触。
ナイフを押し当てられている。
負けた、完全に。
「…ボーとしてるからよ。駄目じゃない。」
「…っ。」
悔しいと思うも…。
あそこで止まりさえしなければ勝てるところだったのだがと今更後悔しても遅いのだが。
「ふふっ。…ねぇ緋音、大丈夫?」
ルーナはニコニコと琥珀に対して意味深に笑い、倒れた緋音を揺さぶる。
うぅ…と彼女は苦しそうに唸る。琥珀はそれを聞きやりすぎたのだろうかと焦って彼女の様子を伺う。
ぱっと目が開き、視線が合う。
「…っい、たい…。」
「大丈夫か?」
緋音はあまりに心配そうな目で見られたため思わず笑ってしまった。
体はまだ動かせそうになかったため寝転がったまま大丈夫よという。
琥珀は、彼女の体を支えながらゆっくり起こす。
「…悪かった。君の気持ちを考えず…手加減してしまって。」
ほっといたら泣くんじゃないだろうかと琥珀の目を見て緋音は思う。
確かに手加減されたのは腹が立っていたがそこまで責めるつもりはない。
もう、っと手を伸ばし琥珀の頬に触れる。
「もう気にしてないわ、最後に全力できてくれたんでしょ?…あぁーもう結局勝てなかったわね。」
私たちっといい、いつの間にか地面から起き上がっていたサンに視線を向ける。
サンはそうだなっと悔しそうに返事をする。
「はーい、じゃあこれでおしまいだね。怪我した人は治療してもらって動ける子らは、片付けー。」
相変わらず呑気な口調、依織の号令により皆がそれぞれ移動する。
ルーナは緋音を支え救護所へ。サンは大した怪我もなかったため琥珀とともに後片付けにまわる。
こうして彼らは、すべての日程を終えた。
*
「私はこっち。」
とルーナは指を指す。日は落ち、街灯が道を照らす。
軍地区と一般居住区の境目の門前で四人は並ぶ。
「…俺も、寄るとこあるしルーナと行くわ。」
そうと緋音は言う。
サンは帰り道とは逆方向を向き、ルーナはまたねと手を振り二人で歩いていく。
緋音は琥珀と残され、途中まで同じ方向だというので一緒に帰ることに。
*
「…気を使ってくれてありがとうねサン。」
ルーナは、感謝の言葉をのべる。何のことやらとすっとぼけたような表情でサンは、答える。
「なんでルーナが感謝するんだよ…。」
彼女は、胸元にあるロケットを握る。
癖だろうか、時々そうすることにサンは気づいていたが、深い事情があるのだろうと思い、
いまだに訊くことはできなかった。
黙ってしまい、静かな夜道二人の間にカチャっと金属の動く音が響く。
しばらくしてルーナが口を開く。
「貴方とはここでお別れね。じゃあまた休み明けに。」
「おう。じゃあな。気を付けて帰れよ。」
そうしてサンは来た道を戻り、ルーナは先へ自宅へ帰って行った。
*
「もう、調子は大丈夫か?」
琥珀は先ほどのことを気にしていた。
魔法、使い方を間違えれば簡単に人を殺せる。
電撃が人間の体に流れる。いかに恐ろしいことか。火だってそうだろう。本来なら軽く焼き殺せてしまう。
力を制御できるし、魔法使いは自分の体表に魔法の元となるエネルギーをまとっているため普通の人間と違い、
ある程度ダメージを軽減できる。
動揺していたため少しやりすぎた気もしなかった。
緋音は笑う。
「ふふ、もう平気だってば。ほら、私丈夫だし!」
「…そうか、ならいいんだが。」
緋音は両手に持つ荷物を軽くぶんぶんと振る。もう平気、そう見せるように。
足早に前を歩きくるりと回転。琥珀を見つめる。
丁度街灯の下、彼女を照らすように灯がともる。
街灯の灯に照らされた彼女の瞳は、初めて見たあの日と同じくルビー色に光る。
「ありがとう、琥珀。」
彼女の目に見惚れる。気恥ずかしくなり視線をそらす。
ずっと抱えてた苦しみ、なぜ苦しいのかはいまだにわからないが。
それでも、理由…今、彼女を見てそれは明確になった。
「…何のことだ?」
彼女は、にっと笑う。とにかくありがとうっと言う。
「琥珀、私のこと嫌いなのかと思ってたわ。」
まさかっとつい体が前のめりなりそうな勢いで答える。
「だって、私にだけあたり強かったじゃない。」
もうっとふてくされる。
琥珀は、そう思われてもしょうがない…と考え、過去の自分を恨む。
「別に、そうじゃない。…ただ、君が真剣だったから…その、」
真面目に指導したほうがいいと思ったのだ。っと本心とは違う答えをする。
彼女は、嬉しそうにそうだったのっと笑う。
「…そう言ってくれればいいのに。」
彼女はくるりと回転し先ほどの方向へ、帰り道へ歩いていく。
琥珀は、そのあとをついていくように歩み、横へ並ぶ。
十字路、緋音はこっち、と指を指し、琥珀はあっちだと示す。
「じゃあここでお別れね。また休み明けに!」
満面の笑みが夜なのにまぶしい、いや夜だからか?
もう少し、話していたい…そんな気がするが夜も遅いし二人とも家で家族が待っている。
「ああ、じゃあまた。」
手を振り別れる。ふと後ろを振り返る。緋音も同じタイミングで振り返る。
距離は離れたが彼女はこちらに手を振る。琥珀は立ち止まり手を振りかえす。
そして彼女が見えなくなるまでしばらく見送ることに。
というより自然と立ち止まっていただけなのだが。
「また…」
ルーナには謝らなければいけないだろうっと考えるが…いや、彼女はもう知っているだろうとその思いを否定する。
気づいた…なのに、苦しいことには変わりはない。伝えてしまえば楽になるのだろうか。
ただ、伝えて、それでどうしたらいいのだろうか。そもそも拒否されたら?
一人帰り道、琥珀は自問自答を繰り返す。
結局なにも答えは見えないし別の苦しみが生まれたような気もする。
ひと月だったがもっと長い時間過ごした気がしていた。
生まれの両親を知らない、自分の年齢が正しいかは分からないがおおよそ19年の中で一番長いひと月だった。
懐かしい我が家は、琥珀を迎えるかのように灯が漏れている。
門を抜け、戸を叩く。俺だ、っと言うと鍵が開く音がする。
「兄貴、お帰り。」
2つ下の弟が満面の笑みで迎える。とりあえずさっきの悩みはとりあえず後回しにしよう。
*
別れて一人歩く。長いひと月が終わった。
ずっと仲間といた、帰りの夜道が寂しい気がする。
初日の不安はなんだったのだろうというほど心が満たされた。よき友ができたっと。
遠くから実家の灯が見える。そのおかげで少し落ちた気分は完全に戻った。
なんて単純なんだっと彼女は思う。
戸を叩きゆっくりあける。ただいま…っと言いかけたところで、
「姉さん!」
紫希が駆け寄り抱きつく。
風呂上りだろうか懐かしいシャンプーの香りがする。
「おっと、紫希。」
ちょっとよろけるが彼女を抱き返しほら、無事に帰ってきたでしょうと笑う。
「大丈夫?怪我は?」
荷物を置き、手を広げくるりと一周。
「大丈夫だってば、ねぇご飯は?…あぁ、先にお風呂!お母さんにその間に用意しといてって。」
「うん、言ってくるね。お帰りなさい。」
「ただいま、紫希。」
「私は本気でやってるのにっ!!」
思いもよらない事態に琥珀は動揺する。
確実に倒したと思った、そのはずだった。
だが彼女は目の前にいる。言葉通り、その眼は本気で自分に殴りかかろうとしていた。
いいや初めから彼女は本気だった。
そこでやっと気づいた。
彼は、無意識に緋音に対して手加減をしていたのだと。
本気でやりなさいよ。
(…っ、俺は、何を。まったくその通りだ。彼女はこんなにも真剣に。
なのに俺は、好きだから傷つけたくない、なんて身勝手な理由で手加減を…。)
緋音の腕を防御、そして先ほどの生ぬるい攻撃ではなく彼女に応えるよう魔法をうちつける。
ぐっと唸り今度こそ緋音は崩れる。今度こそ立ち上がる気配はない。
そして彼女の後ろにいたルーナに…
(…待て、今、俺はなんて…?)
コンマ数秒思考が止まる。
はっとして前を向くがそれだけでルーナには十分だった。
彼女はもういない。後ろから殺気がする。首元にひやりとした感触。
ナイフを押し当てられている。
負けた、完全に。
「…ボーとしてるからよ。駄目じゃない。」
「…っ。」
悔しいと思うも…。
あそこで止まりさえしなければ勝てるところだったのだがと今更後悔しても遅いのだが。
「ふふっ。…ねぇ緋音、大丈夫?」
ルーナはニコニコと琥珀に対して意味深に笑い、倒れた緋音を揺さぶる。
うぅ…と彼女は苦しそうに唸る。琥珀はそれを聞きやりすぎたのだろうかと焦って彼女の様子を伺う。
ぱっと目が開き、視線が合う。
「…っい、たい…。」
「大丈夫か?」
緋音はあまりに心配そうな目で見られたため思わず笑ってしまった。
体はまだ動かせそうになかったため寝転がったまま大丈夫よという。
琥珀は、彼女の体を支えながらゆっくり起こす。
「…悪かった。君の気持ちを考えず…手加減してしまって。」
ほっといたら泣くんじゃないだろうかと琥珀の目を見て緋音は思う。
確かに手加減されたのは腹が立っていたがそこまで責めるつもりはない。
もう、っと手を伸ばし琥珀の頬に触れる。
「もう気にしてないわ、最後に全力できてくれたんでしょ?…あぁーもう結局勝てなかったわね。」
私たちっといい、いつの間にか地面から起き上がっていたサンに視線を向ける。
サンはそうだなっと悔しそうに返事をする。
「はーい、じゃあこれでおしまいだね。怪我した人は治療してもらって動ける子らは、片付けー。」
相変わらず呑気な口調、依織の号令により皆がそれぞれ移動する。
ルーナは緋音を支え救護所へ。サンは大した怪我もなかったため琥珀とともに後片付けにまわる。
こうして彼らは、すべての日程を終えた。
*
「私はこっち。」
とルーナは指を指す。日は落ち、街灯が道を照らす。
軍地区と一般居住区の境目の門前で四人は並ぶ。
「…俺も、寄るとこあるしルーナと行くわ。」
そうと緋音は言う。
サンは帰り道とは逆方向を向き、ルーナはまたねと手を振り二人で歩いていく。
緋音は琥珀と残され、途中まで同じ方向だというので一緒に帰ることに。
*
「…気を使ってくれてありがとうねサン。」
ルーナは、感謝の言葉をのべる。何のことやらとすっとぼけたような表情でサンは、答える。
「なんでルーナが感謝するんだよ…。」
彼女は、胸元にあるロケットを握る。
癖だろうか、時々そうすることにサンは気づいていたが、深い事情があるのだろうと思い、
いまだに訊くことはできなかった。
黙ってしまい、静かな夜道二人の間にカチャっと金属の動く音が響く。
しばらくしてルーナが口を開く。
「貴方とはここでお別れね。じゃあまた休み明けに。」
「おう。じゃあな。気を付けて帰れよ。」
そうしてサンは来た道を戻り、ルーナは先へ自宅へ帰って行った。
*
「もう、調子は大丈夫か?」
琥珀は先ほどのことを気にしていた。
魔法、使い方を間違えれば簡単に人を殺せる。
電撃が人間の体に流れる。いかに恐ろしいことか。火だってそうだろう。本来なら軽く焼き殺せてしまう。
力を制御できるし、魔法使いは自分の体表に魔法の元となるエネルギーをまとっているため普通の人間と違い、
ある程度ダメージを軽減できる。
動揺していたため少しやりすぎた気もしなかった。
緋音は笑う。
「ふふ、もう平気だってば。ほら、私丈夫だし!」
「…そうか、ならいいんだが。」
緋音は両手に持つ荷物を軽くぶんぶんと振る。もう平気、そう見せるように。
足早に前を歩きくるりと回転。琥珀を見つめる。
丁度街灯の下、彼女を照らすように灯がともる。
街灯の灯に照らされた彼女の瞳は、初めて見たあの日と同じくルビー色に光る。
「ありがとう、琥珀。」
彼女の目に見惚れる。気恥ずかしくなり視線をそらす。
ずっと抱えてた苦しみ、なぜ苦しいのかはいまだにわからないが。
それでも、理由…今、彼女を見てそれは明確になった。
「…何のことだ?」
彼女は、にっと笑う。とにかくありがとうっと言う。
「琥珀、私のこと嫌いなのかと思ってたわ。」
まさかっとつい体が前のめりなりそうな勢いで答える。
「だって、私にだけあたり強かったじゃない。」
もうっとふてくされる。
琥珀は、そう思われてもしょうがない…と考え、過去の自分を恨む。
「別に、そうじゃない。…ただ、君が真剣だったから…その、」
真面目に指導したほうがいいと思ったのだ。っと本心とは違う答えをする。
彼女は、嬉しそうにそうだったのっと笑う。
「…そう言ってくれればいいのに。」
彼女はくるりと回転し先ほどの方向へ、帰り道へ歩いていく。
琥珀は、そのあとをついていくように歩み、横へ並ぶ。
十字路、緋音はこっち、と指を指し、琥珀はあっちだと示す。
「じゃあここでお別れね。また休み明けに!」
満面の笑みが夜なのにまぶしい、いや夜だからか?
もう少し、話していたい…そんな気がするが夜も遅いし二人とも家で家族が待っている。
「ああ、じゃあまた。」
手を振り別れる。ふと後ろを振り返る。緋音も同じタイミングで振り返る。
距離は離れたが彼女はこちらに手を振る。琥珀は立ち止まり手を振りかえす。
そして彼女が見えなくなるまでしばらく見送ることに。
というより自然と立ち止まっていただけなのだが。
「また…」
ルーナには謝らなければいけないだろうっと考えるが…いや、彼女はもう知っているだろうとその思いを否定する。
気づいた…なのに、苦しいことには変わりはない。伝えてしまえば楽になるのだろうか。
ただ、伝えて、それでどうしたらいいのだろうか。そもそも拒否されたら?
一人帰り道、琥珀は自問自答を繰り返す。
結局なにも答えは見えないし別の苦しみが生まれたような気もする。
ひと月だったがもっと長い時間過ごした気がしていた。
生まれの両親を知らない、自分の年齢が正しいかは分からないがおおよそ19年の中で一番長いひと月だった。
懐かしい我が家は、琥珀を迎えるかのように灯が漏れている。
門を抜け、戸を叩く。俺だ、っと言うと鍵が開く音がする。
「兄貴、お帰り。」
2つ下の弟が満面の笑みで迎える。とりあえずさっきの悩みはとりあえず後回しにしよう。
*
別れて一人歩く。長いひと月が終わった。
ずっと仲間といた、帰りの夜道が寂しい気がする。
初日の不安はなんだったのだろうというほど心が満たされた。よき友ができたっと。
遠くから実家の灯が見える。そのおかげで少し落ちた気分は完全に戻った。
なんて単純なんだっと彼女は思う。
戸を叩きゆっくりあける。ただいま…っと言いかけたところで、
「姉さん!」
紫希が駆け寄り抱きつく。
風呂上りだろうか懐かしいシャンプーの香りがする。
「おっと、紫希。」
ちょっとよろけるが彼女を抱き返しほら、無事に帰ってきたでしょうと笑う。
「大丈夫?怪我は?」
荷物を置き、手を広げくるりと一周。
「大丈夫だってば、ねぇご飯は?…あぁ、先にお風呂!お母さんにその間に用意しといてって。」
「うん、言ってくるね。お帰りなさい。」
「ただいま、紫希。」










