雨に挟まれた羊。

ファンタジー 注意:鬱、死ネタあり〼 カテゴリートップに詳細。

2(5)海沿いの街2

2018年09月10日 00時30分26秒 | side:black
「大きい魚ね…生きてるし…。」
「そりゃな…こんなでかい海にいるんだから大きくもなるだろ。」

緋音とサンの二人は港近くの市場に姿を見せていた。一メートルほどの木桶に入った魚を緋音は凝視する。三十センチほどの大きさのそれは、青みがかった銀の体表には黒いシミのような模様が規則的に並んでいた。
狭い木桶に十数匹がぶつかったりしながら泳ぐ姿は窮屈そうでならなかった。

「どんな味なのかしら…。」
「お嬢さんたち…知らないってことは山奥から来たのかい?」
「ええ、川にはこんな魚いないわ。」

薄汚れたエプロンをした恰幅のいい中年の女性は、物珍しそうに彼らを見る。緋音は、軍の仕事でここまで来たのだと軽く経緯を話す。女性は、わざわざありがとうね。っと朗らかに笑いかけそう伝える。
そしておもむろに木桶に手を入れる。そして、しっぽの付け根を掴み持ち上げる。
魚は突然のことに驚き体をよじらせる。その勢いで水が周りに飛び散って屈んでみていた緋音は、わっと声を上げ飛びのく。
女性は、その様子に驚かせてごめんよっといたずらに笑う。

「こいつはねサバっていうんだよ。元気がいいだろう。この辺りじゃよくとれる魚でね。」
「サバ…。サバ!これがそうなのね、私、食べたことあるわよおば様。」
「缶詰のあれか。」

二人は切り身と水のはいった青色の缶詰を思い浮かべる。そうあの切り身の正体がこれだ。海の魚、加工品は輸入されるので食べたことはあるのだ。
しかし、切り身になっていたり、マグロという魚で言えばもはや骨もなくただのフレークになっていて原形をとどめていない。
一番原形に近いものは干物だろう。といっても干物も形はわかるものの色味などは変わっていて実際の魚がどういう色なのか皆目見当がつかなかった。
緋音は、それから他の桶に入った魚を興味深そうに見つめ訪ねて歩いた。
子供の様に興味の対象がころころ変わる緋音をサンは目を離すことな後ろをついて行く。一瞬でも視界から消えると元居た場所から数メートル先に緋音の姿があり、まるで瞬間移動でもしているかのようだった。
サンからしてみれば全く迷惑なものだ。
彼は一瞬友人の琥珀を思い浮かべる。あまり出かける事が得意ではない琥珀だが、緋音の調子について行けるのだろうか?と。体力はあるだろう琥珀の事だからついて行けるのだろうが何故だろう、街中で振り回されてバテているだろう姿がつい頭をよぎった。

「…またお前勝手に行くなよ。」
「ねぇ…海。せっかく来たのに行かないなんてもったいないわよね。」
「元気だな…さっきまで嫌いだって言ってたくせにな。」

緋音は、太陽の日を纏わせたかのように煌めく髪を揺らし振り返る。
黙って大人しくいていれば本当に綺麗なんだけどな…なんてサンは一瞬考える。
赤いルビーの瞳が何を言っているの?とでも言わんばかりにこちらを見ていた。

「そんなこと言ったかしら?」
「…あ?お前さっき言っただろう…暑くてべたべたするーって。」

全然似ていない緋音の真似をしながらサンは呆れ交じりにため息をつく。
ああと、緋音は自分で言った言葉を思い返す。確かにあの時点ではそう思っていたが適応力のある彼女はこの数時間で環境に慣れてしまったのだ。それと興味深いモノが多くそちらに気を取られていることもあって暑さも気にならなくなってしまっていた。彼女自身この適応力は自慢できることだと思っているが、あまりにも切り替えが早いため混乱させているなっと思う時もある。(まさに今の状況がそうなのだが。)

「うーんそうね…そうだったわね。まぁいいじゃないそんなこと。」
「はー…まぁ、それで。行ってみるか?」
「ええ。」

そういうと二人は港沿いに海岸へ向かっていく。
広大な海がどこかの屋敷で見たシャンデリアの輝きの様で眩しい。
青色。川の水もそうだが、透明なはずの水がこれだけ集まるとなぜ色が付くのだろう。
微生物の色なのだろうか、昔訊いた話だと空の色を反射しているとも聞いた。
緋音は、個人的にそのような理由だとしたらロマンティックで素敵なのにな…っと思う。
暑いと思っていたが時折海風が体を冷やす。夏の中心である時期は少し過ぎてしまったのだと先ほどの女性から聞いた。それと海水浴をするには少々時期が遅かったとも。
足だけなら問題はないようだがそれ以上先には、今の時期は毒性のある生き物が出現するという。
仕方のないことだが、緋音はそれを聞いて目に見えて肩を落としていた。

「…あっ海岸見えたわよ!」

緋音は駆け出す。山での訓練もしていることから足場の悪いところでの運動も慣れてはいたが、砂浜とは勝手が違った。柔らかく足に砂が取られ走りにくい。
波打ち際までついたところでサンに靴脱いだ方がいいだろ?と指摘される。
それもそうだ。
緋音は、少し後退し靴とソックスを脱ぐ。せっかちな彼女にとって、こういう時、靴の紐がしっかり結ばれていることがもどかしい。

「サンは?」
「俺はいいよ。」
「そう?私が子供みたいじゃない。」
「そうだろ?」
「もうっ。」

そんな風に言いながらも浅瀬に向かい走る。足が浸かった瞬間冷たい、ただ冷たいという感覚が足を伝い全身を走る。
それでももう少し深く…と先に進むと海上に透明な物体が浮かんでいたのを見た。
それもかなりの数だ。

「あれが、さっき言っていた生き物かしら?」
「なんだって?」
「なんか透明な変なものが浮いてるのよ…。」
「気になるからって近づくなよ…。早く上がってこい。」
「分かったわよ…。すぐ怒るんだから。」

怒ってるわけじゃないっとサンは言うが彼女には届かなかった。
しぶきをワザとあげながら緋音は、砂浜へ。濡れた足に砂がまとわりつく。あまり心地の良い感覚ではない…手で砂をはらっていたところサンが何処からかタオルを差し出す。

「ありがとう。」
「普通持ってくるだろ?」
「えへへ、忘れてたっ。」
「さすがです。」

どういう意味よっと緋音はにらみつけながら腰を下ろし足を綺麗に拭う。
なかなか頑固だ。あらかた綺麗になっただろうと緋音は靴を履く。
ふとサンは後ろに気配を感じ振り返る。
十歳ほどの赤毛の少女が長髪を風に靡かせこちらを見ていた。

「誰だろう…?」
「何?サン、どうかしたの?」
「うにゃ?あそこに女の子が。」

サンの指さす方へ緋音は視線を向けると確かに少女がこちらを見ていた。
緋音は何げなく笑いかけ手を振る。少女はその様子を見て二人のもとへ駆け寄ってきた。
水色の瞳は浅瀬の海と同じ煌めきを放つ。同色のワンピースがとても似合っていた。

「おねーさんたち何してるの?海は危ないよ…?」
「うん、心配してくれてありがとう。お嬢さんはここで何してるの?」
「一人か?」
「うん。」

少女の名前は、アナスタシアというらしい。軽く自己紹介をすませ、アナ(アナスタシアがそう呼んでくれて構わないという事で遠慮なく二人はそう呼ぶことにした。)に水中にあった透明な物体について教えてもらった。
クラゲ、奇妙に伸びた細い触手に毒があるそうで、毒性はそれほど高くないが、水中で刺されれば最悪動けなくなり溺れ死ぬこともあるという。
それを聞いて緋音はありがとう、と彼女に伝える。何ともなかったからよかったわと微笑む。
アナは、緋音の微笑みに少々照れたのか頬を赤くした。

「ねぇ…それはなに?」

緋音はふと彼女の胸にある小さな宝石に目を止めた。
赤色に光るそれは奇妙な輝きを放つ。

「これ?ママが作ってくれたガラス細工だよ。」

アナは、緋音の目の前に自慢げに持ち上げる。
よくガラスの中は見ると中にまるで空を閉じ込めたかのような様子を見せていた。

「なに…?空があるわ。」
「は?どうした?ついにボケたか?」
「うるさいわね、ほら見てちょうだい。」

サンは、そんなわけないだろうとそれを覗く。
確かにそこには空…雲や星のような模様があった。赤い空。

「凄いでしょっ!ママは職人さんなんだよぉっ。」

アナは、二人の反応にそれは嬉しそうに自分の事かのように話す。
そして、ぜひ二人にもっと知ってほしい…と提案を持ち掛ける。
二人は顔を合わせ、まだ時間には余裕がある、とアナを家に送るついでと思い彼女の提案を飲むことにした。
やった。とアナは飛び跳ねる。
早速行こうと彼女は砂浜を走って行く。二人は彼女の背を追う。子供にしてはなかなかのスピードだったが緋音と違い度々振り返り二人の様子をうかがう。
サンは、緋音も見習うべきだな…っと思ったがごちゃごちゃ言われるのも目に見えていたので口をつぐんだ。

ジャンル:
小説
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