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物怖じしない国際人を育てるヒント集

近現代史に触れつつ自分の生涯を追体験的に語ることによって環境、体験、教育がいかに一個人の自己形成に影響したか跡付ける。

ジョウビタキと「会話」/難聴者の孤独をいやされた

2025-03-28 | 小鳥のコトバ

「偽書を装った対支満蒙分離政策宣言 2021-10-31」の更新が完了しました。検索方法を再度掲示します。「田中上奏文」の真偽に関する前代未聞の新説です。是非、当ブログのカテゴリー内から「偽書を装った対支満蒙分離政策宣言」を選択、クリックして、一読してください。


去る年末年始に、子供たちの家族が集まってくれたが、難聴のために会話が聞き取れず、輪に入れない孤独感を痛感した。その体験から、思い切って補聴器(最も安いクラスの36万円)を買い求めた。効果は限定的で不満だが、前より一人で外出できるようになった。以前は診察で医者の話すことが聴きとれなかった。
年末のある日、鉢の土を広げていると、スズメほどの大きさの小鳥が手を伸ばせば届くほど近くに飛んできてとまった。前にオスを観ていたのでジョウビタキのメスだとすぐわかった。じいっと私を見つめていたが、一瞬の早業で、土の上でもぞもぞしていたミミズをくわえて飛び去った。こうしてモノ言わぬ小鳥との付き合いが始まった。
餌がほしいときは、チッと鳴いて体をお辞儀をするように上下に振る。ミミズをやろうにも雨不足の乾燥で、鉢をひっくり返してもミミズもダンゴムシも見当たらない。粟を買ってきて与えたが食べてくれない。
チッ・チッ(と名付けた)は、土をつついて何かをついばんでいる仕草をしだした。ミルワームを買ってきて与えると好んで食べた。土をつつく動作は「食べる」のパフォーマンスだったことを知った。ひとも、言葉が通じない外国に行ったとしたら、「食べる」を表現すために、スプーンで食べ物を掻い込む仕草をするはずだ。にわかにチッ・チッが愛おしくなった。
朝か夕方に1回たまに2回現れて、鳴いて餌をねだる。餌を入れた皿を手前に近づけて眺めていると一瞬の早業で餌をくわえて退く。更に近づけて辛抱強く馴らすなら、手乗りの写真が撮れるようになると思う。
2月の寒波が来る前々日から姿を見せなくなった。渡り鳥の習性で餌がとれる所にいち早く移動したのだろうか。
近所の猫に襲われたのではないか。大寒波が来る前に避難したのであればいいが、平地でも雪が降る天候が続いたから飢えで死んだのではないか、様々な想いが頭をよぎった。一日何度もルーティン以外に庭に出ることが多くなった。鳥観察マニアの息子が予見したとおり私はチッ・チッlossになった。
3月は啓蟄(虫が土中から現れる季節)だというのに、大阪では北風が強く小雨や霙を伴う寒い日が続いた。そんな中、雨に濡れたチッ・チッが夢に現れて、驚いて飛び起きた。
その翌日の20日、ようやく暖かくなった庭で、鉢の土を入れ替える作業中にチッ・チッが現れた。声をかけると寄ってきて近くの桑の木の枝にとまった。鳴かないでただ見つめるだけなので、別の鳥かも、と思った。郵便箱の上に餌を入れた皿を置くとすぐさま飛びついて食べた。スマホで捕食するところを数枚撮った。
次の日は、朝から餌をねだって鳴いていた。初めて一日三食させた。それ以来一度も飛来がないが、淋しく感じることはない。むしろ安心している。やはりジョウビタキには渡りが一番似合う。
暖かくなって食べ物に不自由しなくなったため、桜前線に先駆けて、チッ・チッは野性にかえったのだ。いや、営巣先に着くまで、移動の先々で、ヒトと交流していることも考えられる。



愛好家の研究によれば、本来は最大二千キロも移動する渡り鳥である。チベット、モンゴル、カザフスタンから秋に渡って来るそうだ。メスもオスも単独で縄張りを守り、春に営巣地に向かって旅発つ。
これからは想像だが、ジョウビタキはモフモフの羽毛をまとっている。それと食餌を考え合わせると、今年の観察から、20度以下でしかも積雪のない2度以上の気温を生活可能地帯として移動している、と考えられる。
夏も「冬服」、冬にも生餌、この条件に合うところは総じて日本にはない。世界でも、ユーラシアステップに限られるだろう。
ジョウビタキは、砂ずりがないのか、穀類を食べない。これが同科のスズメと異なる生態になった分岐点でありそうだ。メス、オスにかぎらず、単独で縄張りを張り合う。虫が十分でないのだ。人懐っこく用心深いのも同じ理由で説明がつく。
上記の低気温帯で、夏場にムシの群れが多い所として、真っ先にモンゴルのステップが考えられる。私は日本軍が大敗北をこうむったノモンハン事件(1939年、東蒙)に思い当たった。その探求過程で、日本軍がソ連の圧倒的な機械化部隊だけでなく鼻や耳にまで入りこむ蚊の大軍とも戦わねばならなかった、という記録にしばしば出合った。
ジョウビタキはステップ地帯で、短い夏を群れで過ごし、つがいで巣をつくり子育てをする。9月に始まる吹雪を見越して、その前に適温地に向かって旅立たねばならない。
我庭を旅先の一つに選んでくれたチッ・チッ、また来てくれ、家族で待っているよ。