米投資会社サーベラスによる西武ホールディングス(HD)への敵対的株式公開買い付け(TOB)は、2度の期間延長にもかかわらず、取得上限の44・67%を大きく下回る結果となった。サーベラスの西武HDの経営に対する影響力は限定的にとどまり、25日に予定される西武HDの株主総会で委任状争奪戦に発展しても、取締役選任に必要な出席者の過半数の賛成を得ることは難しい状況。
【表で見る】 西武HDとサーベラスをめぐるこれまでの経緯
ただ両者とも再上場という目標は同じで、「落としどころ」を探る協議が水面下で進みそうだ。
両者の対立は、再上場時の株式の売り出し価格をめぐる思惑の違いから始まった。早期の再上場を目指す西武HDに対し、約1千億円を出資したサーベラスはより高い利益を得るため、「内部管理体制と企業価値の向上が再上場の前提」などと主張していた。
サーベラスは対立の過程で、「十分な意思疎通がなかった」などとして、西武HDの内部管理体制を批判した。ただサーベラスが新任取締役候補の一人に推薦した五味広文氏は、西武HDが上場廃止になった際の金融庁長官。現役官僚からも「監督側にいた人が経営陣に入るのは筋が通らない」との声が出ている。
元産業再生機構最高執行責任者(COO)の冨山和彦氏は「サーベラスが推薦した取締役候補には、日本の企業経営や鉄道事業に詳しい人は見当たらない」と手厳しい。
一方、企業価値の向上に欠かせない西武HDの主力事業に、改善の余地がないとはいえない。プリンスホテルを中心とするホテル事業は東日本大震災後の低迷からの回復途上で、外資系高級ホテルの開業が相次ぐ中、差別化が急務だ。
鉄道事業でも、「公共交通機関として沿線住民の利便性を考えた運営が必要」(私鉄幹部)との声が根強いが、「不採算路線はバス便などによる代替輸送も検討課題」(証券アナリスト)との指摘もある。
TOBの結果について、野村総合研究所の大崎貞和・主席研究員は「多くの株主がサーベラスの主張に共感したとはいえない」とみる。再上場を審査する東京証券取引所は「大株主とのもめ事を解決した後でなければ、投資家は安心して投資できないので、再上場は認められない」(関係者)との立場だ。
株主総会における経営の主導権争いの火種はまだ残るが、すでに両者は打開に向けた代理人同士の協議を始めた。
今後は一般株主や従業員、鉄道利用者、球団ファンなど、関係者全ての利益につながる最善策を模索する必要がある。(藤沢志穂子)