開幕から1カ月が経った。両リーグの打撃成績を見ると、打率トップにはともに今シーズンからチームに加わった新外国人が座っている。セ・リーグは打率.388で中日のヘクター・ルナ。パ・リーグは.403で楽天のケイシー・マギーだ(成績は4月26日終了時点)。また、打率だけでなく打点でもトップ争いを演じるなど、中軸の役割をしっかり果たしている。一体、シーズン前に彼らの活躍を予想できた人はどれだけいただろうか。
今シーズン、来日した新外国人で注目を集めていたのが、楽天のアンドリュー・ジョーンズ、ソフトバンクのブライアン・ラヘア、巨人のホセ・ロペスといった選手たちだ。ジョーンズはメジャー通算434本塁打の超大物だし、ラヘアは昨シーズンのオールスターに選出。ロペスも2006年にオールスター出場を果たし、マリナーズ在籍時(2004~2010年)はイチローとともにチームの中心選手として活躍した。しかし、現在打率トップのふたりはこれらの大物に比べると評価はそれほど高くなかった。
昨シーズン、ルナはフィリーズで28試合に出場したが打率.226と低迷し、8月末にチームを解雇されている。マギーはブルワーズ時代の2010年に104打点を記録したが、その後は大きく調子を崩し、昨年もパイレーツ、ヤンキースで114試合の出場を果たしたが、打率.217に終わっている。ともにメジャー経験はあるが、ジョーンズ、ラヘアに比べれば、実績でだいぶ見劣りする。
そうでなくても外国人選手は、日本の投手の配球やストライクゾーンに適応できず、苦労することが多いのに、ルナ、マギーのふたりは開幕から安打を重ね、打線を牽引している。いきなり日本野球に適応したふたりの特長はどこにあるのか、専門家に聞いてみた。
まずはルナ。野球評論家の金村義明氏が注目したのは、柔らかさと強さを兼ね備えた身体能力の高さだった。
「どの球種、コースにも対応できる器用さがあって、しかも強い打球を打てる。スイングはいわゆるインサイドアウトで、広角に打てるからこれだけの打率を残せている」
対戦相手のヤクルト・伊藤智仁コーチは読みのうまさを挙げた。
「同じ攻めが通用しないんです。一度打ち取った配球で勝負しても、次には必ず対応してくる。おそらく配球を読んで、どんな球で勝負してくるのかがわかっているような感じがします。変化球にも崩れないし、右方向にうまく打てるのも強みですね」
また、技術的な点だけでなく、野球に取り組む姿勢も素晴らしいという。再び金村氏が言う。
「練習の時からいろんなコースを設定して打っている。それに試合中も欠かさずメモを取っていて、非常に研究熱心な選手です。当然、相手も研究してくるだろうけど、今の姿勢を持ち続けていれば、最後まで首位打者争いをすると思います」
一方、マギーについてはどうか。昨年まで日本ハムの投手コーチを務め、メジャーにも詳しい吉井理人氏は選球眼の良さを挙げた。
「来日1年目の外国人は、たいてい日本の投手の変化球攻めに対応できず苦労するんですが、マギーにはそうしたところがまったくありません。体が突っ込まず、しっかりボールを見極めることができている。これはルナにも共通しています。もうひとつ気がついたことは、無理に打ちにいかないこと。これまでの外国人選手は、契約に本塁打数や安打数が盛り込まれていたのか、強引に打ちにいく選手が多かったのですが、マギーはそうした強引さがない。打てる球だけをしっかり打っているから、高打率を残せているんでしょうね」
当たれば大きいが、三振も多いというのが従来の外国人選手のイメージだったが、彼らはそうしたタイプに当てはまらない。それについて吉井氏はメジャーの野球の変化を挙げた。
「ステロイドの取り締まりが厳しくなって、ボールも以前ほど飛ばなくなった。それによってホームランを狙う選手が極端に減り、代わりにミート中心の選手が増えた。ふたりともそうしたメジャーの変化を受けて成長してきた選手。だから、日本の野球にもうまく適応することができたんじゃないでしょうか」
吉井氏が言うように、メジャーの野球の変化が日本野球への適応につながっているとすれば面白い。ただ、日本ですぐに活躍するには、精神面、ハートの面の充実も関係してくる。金村氏は言う。
「ルナにしてもマギーにしてもバリバリのメジャーリーガーではなかっただけに変なプライドがなく謙虚な姿勢で野球に取り組んでいる。個人プレイに走らず、チームプレイに徹する覚悟がある。それから他の外国人の影響も見逃せない。マギーとともに楽天でプレイしているジョーンズは、実績だけでなく人柄も素晴らしい。技術面やチームプレイの重要さについて、いろいろとアドバイスを送っていると聞きました。そうした選手と一緒にやることで、多くのことを学んだのだと思います」
来日1年目からハイレベルな順応性を見せた両選手。首位打者獲得も夢ではない。ちなみに、セ・パ両リーグで外国人選手が首位打者を獲得したのは、1989年のクロマティ(巨人)とブーマー(オリックス)まで遡(さかのぼ)らなければならない。果たして24年ぶりの快挙なるか。ルナ、マギーのふたりからしばらく目が離せそうにない。
阿部珠樹●文 textbyAbeTamaki