通告はコミー氏本人にとっても寝耳に水だった。CNNテレビなどによると、この日、ロサンゼルスでFBI職員らに訓示している最中に、テレビのニュース速報で「コミー長官解任」を知った。凍り付いたであろうその場の空気をジョークで和ませる余裕を見せつつ、すぐに確認を指示。間もなく通知が届いたという。コミー氏は、オバマ前政権下の2013年に長官に就任。任期は23年までの10年だった。

 政権は解任理由について、昨年の大統領選で民主党候補だったクリントン氏の私用メール問題でコミー氏が訴追を見送り、捜査結果を公表するなど手法に問題があったと説明。司法省高官らの進言で解任を決めたトランプ氏は、コミー氏への書簡で「新たなリーダーを見つけ、FBIの信頼を回復する必要がある」としている。

 だが、既に半年が経過したメール問題の扱いを解任理由とする政権の説明は「筋が通らない」とする意見が大勢だ。コミー氏がロシアによる米大統領選干渉疑惑を巡る捜査の指揮を執っていた最中だけに、捜査をトランプ政権に有利な方向に誘導するのが狙いとの見方が浮上している。

 野党民主党のワイデン上院議員は、干渉疑惑に関する公正な捜査を妨げる行為だとして「容認できない」と批判。CNNは、ウォーターゲート事件を捜査していた特別検査官を1973年に解任したニクソン大統領を引き合いに出し「米国史に残る権力の乱用」と伝えた。

 10日になってトランプ氏はコミー氏の解任について、ツイッターに「共和、民主どちらの党からも信頼を失った。事態が収拾すれば、彼らは私に感謝することになる」と投稿。「民主党こそコミー氏について“解任するべき”などと最悪なことを言ってきた。今は悲しむふりをしている」などと皮肉った。