2017年7月14日『東洋経済オンライン』
数年前に、スポーツ医学を教えていた時期に、『ストレッチ』や『アイシング』のEBMを調べて、驚愕しました。
何が驚愕したか?って、『自称・スポーツ専門家』のほとんどは、『ストレッチ』や『アイシング』や『コア・トレーニング』、『徒手療法』などのエビデンスをまったく知らずに、高額・有料セミナーをしている実態です(笑)。
スポーツ専門家が専門家として機能していないのは深刻です・・・。『静的ストレッチ(Static Stretching)は筋力を低下させ、有害無益』、『PNFはまったくエビデンスが無い』など、エビデンスに基づく見解を言うだけで白い目で見られるのはツラ過ぎるからです。
以下、引用。
『今では、ゆっくりと体の筋を伸ばすような「静的ストレッチ」には効果がないだけではなく、かえって筋力が低下することがわかっている。
テキサス工科大学で運動生理学を教え、『Fundamentals of Biomechanics(生体力学の基礎)』の著者でもあるデュエイン・ヌードソン教授は次にように語っている。「静的ストレッチをすると筋肉は存分に動きにくくなる。その結果、静的ストレッチを行った後の30分から1時間は運動能力が落ちる」。
ヌードソン教授は、もともと運動前の静的ストレッチに早い時期から疑問を投げかけていた研究者の1人であり、1998年に発表した論文が物議をかもしたことで知られている。この論文はあまりにも常識に反していたため、「筆者は誤解しているに違いない」と、多くの読者が編集者に苦情を伝えた。
だが、そうではなかった。
「あれから150本から200本の論文が発表され、おそらくその8割が、静的ストレッチは運動に逆効果になることを明確に示しています。そのうえ、あとの2割は良くも悪くもなんの効果もないことを示しています」と、ヌードソン教授は語っている。
同教授の論文が正しかったことを裏付けるその後の研究の中から、いつくかの例を紹介しよう。
2013年、『ジャーナル・オブ・ストレングス・アンド・コンディショニング・リサーチ』に発表された研究によれば、17人の運動選手にバーベルスクワットを行ってもらったところ、事前に静的ストレッチをした場合、最大反復回数は8%落ちたうえ、下半身の安定度が23%落ちた。
また、ザグレブ大学の研究者たちが100本以上の論文に目を通した結果、静的ストレッチは筋力を平均5.5%弱めることを発見した。さらには、「同じ姿勢を90秒間保つストレッチを行なうと、筋力が一層弱まる」こともわかった。
原因についてはまだ研究段階だが、静的ストレッチが筋力を下げるという紛れもない実験結果はある。一説によれば、静的ストレッチは関節可動域を広げるが、同時に関節を緩めてしまう。重い物を持ち上げようとするときに、ひざがしっかりロックされていないと持ち上がらないように、関節の「緩さ」は筋力を使う際には障害となる可能性があるのだ。また、静的ストレッチは筋肉の緊張を取る効果はあるが、その分、脱力してしまい、パフォーマンスにつながりにくいともいわれている。
とはいえ、もちろん、すべてのストレッチが良くないというわけではない。問題なのは、私たちが体育の授業で習ったような静的ストレッチだ。たとえば、立ったまま徐々に腰を曲げ、爪先に触れる前屈のようなものを含んだ、いわゆる準備運動として教えられたストレッチである。
「ごく普通の柔軟性を維持したいのなら、静的ストレッチは有効だ。しかし、運動前にストレッチをするなら、ウォームアップになるようなものが必要となる。温まった筋肉組織は強くなり、より多くのエネルギーを吸収する」と、ヌードソン教授は言う。
こうしたストレッチを「動的ストレッチ」と呼ぶ。ストレッチという言葉に反して、どこかの筋を伸ばすというものではなく、軽く走ったりジャンプしたりするような、心拍数を上げる軽い運動のことをいう。
だからジョギングに出掛けるのなら、最初はゆっくりと走り、徐々にスピードを上げていくといい。「15~20年ほど前から、一部の長距離ランナーの間では『ストレッチをすると脚の調子が悪い』という感想が広がっていた。そのため、彼らは徐々にランニングの強度を上げていくことにした」とヌードソン教授。結果、こちらのほうがパフォーマンスが高まることがわかったという。』
以上、引用終わり。
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『静的ストレッチ(Static Stretching)』は運動後筋肉痛をまったく減少させないし、むしろパフォーマンスを低下させます。
からだを温めるためにサッカー選手がやっているスポーツ前の高負荷ダイナミック・エクササイズのウォームアップは、やったほうが良いです。
べつにストレッチ全否定ではなく、むしろ個人的には、トリガーポイントの考えから、『トリガーポイント・ストレッチ』を疼痛緩和のために、治療に用いています。ストレッチは疼痛緩和には有効だと考えています。また、バレリーナなどが関節可動域を拡げるには有効です。
これらの多様なストレッチに関して、きちんと論点整理をして書かれた日本語文献を読んだことが無いです。いまの日本のスポーツ医学関係者の実力が反映されていると思います。
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2015年2月『ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・スポーツ・メディスン(BJSM)』
「上半身のウォームアップにおけるパフォーマンスとスポーツ障害への効果のシステマティックレビュー」
A systematic review of the effects of upper body warm-up on performance and injury
McCrary JM et al.
Br J Sports Med. 2015 Jul;49(14):935-42.
Epub 2015 Feb 18.
2011年コクラン・システマティック・レビュー
「運動後の筋肉痛を防止・減少するためのストレッチング」
Stretching to prevent or reduce muscle soreness after exercise.
Herbert RD et al.
Cochrane Database Syst Rev. 2011 Jul 6;(7):CD004577.