上海阿姐のgooブログ

FC2ブログ「全民娯楽時代の到来~上海からアジア娯楽日記」の続きのブログです。

2012年3月 福島市訪問記~西口広場の星のすみか

2012年03月27日 | 普通の日記
東日本大震災から1年が経った2012年3月、市場調査の仕事で福島市に数日間滞在した。震災後東北に行くのは初めてだ。早朝の東北新幹線で東京から福島に向かった。ちょうど休日だったので東京駅の新幹線乗り場はスキー客や観光ツアー客で思いのほか混み合っていた。仙台方面行きの東北新幹線は大宮から乗ってくる人が多く、始発駅の東京から乗ると自由席でも余裕で座れた。
【東北新幹線】東京→福島は約1時間45分、乗車券+特急券片道8190円。


午前9時頃福島駅に着くと駅構内は閑散としていたが、観光案内所が営業していた。


福島駅に着いて外に出ると暖かかったが小雨が降りかけていた。傘を差している人は少ない。マスクをしている人もあまりいない。福島駅は新幹線駅が西口に面しているが東口の方が賑やかだ。駅の東口で、一緒に行動するアジア人のタムさんと欧米人のロビンと合流した。彼らは福島県外ではあるが東北に住んでいるので、私よりもずっと東北のこと、地震のこと、津波のこと、放射能のことに詳しい。私も傘を持っていなかったが、2人とも傘を差していなかった。ロビンの金髪が雨に濡れるのが非常に気になって、コンビニに傘を買いに行こうとすると、「僕たちのことは気にしなくていいですよ。」とロビンが言った。2人が住んでいるところは福島第一原発から距離は離れているのに、放射線が比較的高い地域なのだと話してくれた。だから無頓着でも構わないというわけではないのだが・・・。3人でタムさんが運転する車で市内の目的地に向かった。

大震災から1年余りが経った福島市内の風景は、至って普通だった。
休日を休業日にしている店やサービス業がやや多いような気がするが、東京や大阪以外の地方都市であれば、むしろこれくらいが当たり前かもしれない。コンビニやラーメン屋など休日も営業している店は客が途切れない様子だった。大型スーパーの駐車場には車がいっぱいで、店内は整然として明るく活気があった。小さな子供を抱いた夫婦、中学生や高校生、20代のカップル・・・どこにでもある中堅都市の風景だった。駅前のデパートの食品売場には何でもあるし、音楽イベントやクラブイベントも行われているし、福島競馬も開催されている。夕方になると中高生の姿が目立ち、楽器を肩にかけた男の子と女の子のグループが笑いながら横断歩道を渡っている。

【福島駅前】




外国人は激減したと言われるが、全くいないわけではない。福島駅前のスターバックスには欧米人の姿があるし、学校や英会話スクールには欧米人の教師もいる。中国人、東南アジア人の留学生も在学している。ただし留学生については2012年度の新入生が激減しているので、今年は去年よりも少なくなるだろうと言っていた。

私たちは次々と訪問先を訪れた。カーナビに住所を入れ車を走らせ、目的地で降りて人を訪ね、また次の住所をナビに入力し・・・ということを1日中続けた。その過程で出会った地元の人々に色々なことを教えてもらい、予定外の訪問先も加えることができた。
福島の人は親切だと思った。アポのない訪問でもほとんどのところで快く迎えてくれた。東京だったら嫌がられて追い返されてもおかしくないと思う。
「福島の人は親切だね。大震災を経験したことも関係あるのかな?」と私が言うと、タムさんは「それもあるけど、東北の人はもともと温厚で優しいと思います。東京とちょっと違いますよ。」と言った。

震災の影響を思わせるものは表面的にはあまり見えないが、学校などのグラウンドではブルドーザーで地表を剥がす除染作業が行われていた。作業員の人が通りかかったので、「除染作業をやっているのですか?」と聞くと「そうですよ」と。「この除染作業は市か県が行っているのですか?」と尋ねると、「ええっと、よく分からないけど、多分そうなんじゃないですかねえ。」と言われた。その作業員の人は特別な防護服ではなく普通の作業服を着ていた。
【除染作業中のグラウンド】剥がした土は脇の方に積み上げられてビニールシートが被せられていた。


目に見える地震の影響は少ないが、放射線の値は東京に比べると高い。
タムさんが地元の人に「このあたりは放射線どれくらいなんですか。」と聞くと、「この通りは0.5マイクロシーベルトくらいですよ。」「へえ、そうなんですか。うちの方だと屋外で0.6マイクロシーベルトのところもありますよ。」「でもこの道路は除染しましたから。除染してないとこだと0.8くらいですよ。」と、淡々と会話をしている。
タムさんたちはどこでどういう測り方をすれば、値にどう変化があるのかを知っていた。室内でも換気扇の近くは値が高く、屋外では1メートル離れるだけで値が全然違うという。探知機の操作に熟練しても、その値が実際にどう影響するのか誰も分からないし、はっきりいって、放射能が健康に影響を及ぼすという実感が沸かなかった。0.5マイクロシーベルトというと東京や神奈川の約10倍だが、地元の人々にとっては「去年に比べれば格段に下がった」という感覚の方が強いのかもしれない。

福島市ホームページ「放射能の各種測定結果」:http://www.city.fukushima.fukushima.jp/life/16/91/

訪問先で留学生と知り合いになった。中国人の女の子は「友達がたくさん帰国してしまったし、大きい余震もある。」と言っていた。「友達が帰ってしまって寂しくない?」と聞くと、「ううん、寂しくないよ」と笑って答えた。男子留学生は「自分にとっては、学校があって、住むところが確保できて、生活を維持するためのバイト先があればそれで十分。どこかに遊びに行きたいとか、そういうことはあまり考えないから室内にいることが多い。」
福島市内のアパートは原発近隣市町村からの避難者の入居が増え、物件が見つかりにくくなっており家賃も安くないと言っていた。そのため市外にアパートを探す学生もいるという。

その日は1日中あちこち回って疲れた。夜になるとゆっくり美味しいものが食べたいという気分になる。お店が並ぶ「文化通り」の周辺には屋台風の居酒屋やスナックがたくさんある。ちょっと懐かしい雰囲気のスナックには、中国人やフィリピン人のママも多い。
近くに温泉があるので、温泉旅館に泊ろうかという話になったが、最終チェックイン時間に間に合わなかったのでやむなく諦めた。結局駅近くのビジネスホテルに泊った。
まだ1日しか過ごしていないが、福島の食べ物、水、空気が心配という気持ちがどこかにいってしまった。夜喉が乾いたが、コンビニで飲み物を買っておくのを忘れた。ホテルの部屋の湯沸しポットでお湯でも沸かして飲もうかなと思ったが、ふと思い出したように、水道水は大丈夫なのだろうかとポットに伸ばす手を止めた。だが、飲み水が危ないとしたら、シャワーやお風呂で水を使うのもまずいのではないだろうか?お風呂にはとっくに入ってしまった。住んでいるかぎり、放射能を気にしながら暮らすということはむしろ不可能なのではと思った。

平日に活動してみると、週末よりも平日の方が街に活気が感じられた。
駅前のビジネスホテルが入っているビルの中に「復興庁福島復興局」があった。今年の2月に開設されたばかりだ。何でこんなところに復興庁があるんだろう?隣が保育園で上がビジネスホテルだ。「復興局は県庁や市役所と連携する必要があるんじゃないですか?どうしてこんなところに事務所を置いたのでしょうか。」とタムさんが言った。福島市役所は震災の少し前に新庁舎をオープンさせたばかりで、大きくて立派な庁舎を持っている。ただし福島市がホームページ上で公開している「各支所の環境放射能測定値」によると、各支所の中でも新庁舎東棟は高い数値を示している。地元の人に「何であんなところに復興庁があるんでしょうね。」と尋ねると、「さあ、どうしてなんでしょうね。」とゆっくりとした返事が返ってきた。そう答えるほか仕方がないのは分かるが、その優しさは度が過ぎた従順さであるようにも時折り感じた。

【復興庁 福島復興局】
 

ハローワークも訪れたがとても混んでいた。検索端末を利用するための順番待ちの人がたくさんソファに座っていた。利用者は若い人もいるし、中高年の人もいるがどちらかというと若い人が目立った。ギスギスした雰囲気はなく、順番待ちの人も利用者もマナーが良く東京などよりもずっと落ち着いていた。
ハローワークの近くに仮設住宅があった。ここは仮設住宅としては非常に小規模なもの。福島市内の仮設住宅は原発付近から避難してきた入居者が多いという。
【仮設住宅】


この日も1日車で街中を回った。
駅西口にあるイトーヨーカドーで買い物をした後、西口に車を停めたまま歩いて東口に向かった。西口と東口は長い地下通路で結ばれている。駅前広場でロビンが「かがーやーき続ける光った星から~かがやき続け~光ったあの空から~♪」と歌っているのが聞こえた。私が「それTIGER&BUNNYの曲?」と聞くと、ロビンがびっくりして「TIGER&BUNNYを知ってるの?!」と言った。私が「知ってるよ。去年の人気アニメだもん。ロビンも見たことあるの?」と答えると、ロビンは近所の中学生に薦められて「TIGER&BUNNY」を見たのだと語り始めた。西口から東口までの地下通路は5分弱歩くことになるのだが、その間ロビンはずっと日本のアニメの素晴らしさについて語り続けた。
「日本のアニメやゲームのデザインは素晴らしい、絵は緻密で美しいし声優も上手い、音楽も素晴らしい。「TIGER&BUNNY」の曲(『星のすみか』by藍坊主)の歌詞がすごくいいから自分で英語に訳してみたんだけど、英語にすると更に感動的で・・・それと僕はヨーコ・カンノ(菅野よう子)の音楽が大好き・・・」と流暢な日本語で話した。  ※うたまっぷ 藍坊主『星のすみか』歌詞
その間タムさんは話に加わらず、イトーヨーカドーで買ったダイエット効果のあるお茶を飲みながらせっせと歩いていた。

街の中心地「パセオ通り」のおしゃれなカフェ風の手打ち蕎麦の店で遅い昼食を取った。3人とも「野菜天ぷらとお蕎麦のセット」を注文した。美味しかった。700円台でこの味、この量、この環境。特にロビンは店の雰囲気が気に入って「僕が福島に住んでいたら絶対この店に通う。」と言っていた。
美味しいものをもっと食べたかったが、あまり時間がなくて結局ラーメンばかり食べていた。

【文化通り裏のスナック街。小さな店が多いが、夜は20時頃から営業が始まり常連客が訪れる】【福島市に隣接する伊達市にある聖光学院高校が春の選抜甲子園に出場】
 

最終日の前日、真夜中の駐車場でタムさんとロビンと別れた。
翌日私は一人で新幹線に乗って東京を経由して上海に戻った。福島駅前では東北復興の特産品が販売されていた。どちらかというと地元の人が買っているようだった。


福島に数日滞在して、放射能の問題、補償の問題、どう復興していくべきかといった日本が面している大きな問題について、自分の中で考えても多くの人の賛同が得られるものにはとても到達できない。自分はほんの一端に触れたにすぎないし、復興を支援するどころか私の方が仕事を助けてもらっていた。
だが、タムさんとロビンと一緒に過ごし、福島の多くの人々に助けられた数日間は私の人生でかけがえのない思い出となった。福島の人々は、福島を離れた人も離れていない人も、私の何十倍も何百倍も、かけがえのないものを福島に持っているのだということだけが分かった。

コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 初音ミク 「ミクの日大感謝祭... | トップ | もうすぐSuperShow4上海公演... »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (らら)
2012-03-28 22:46:43
阿姐さん、福島レポありがとうございます。

去年、山形ドキュメンタリー映画祭に行った時に
新幹線の車窓から福島の街並みを見て、
放射能汚染の影響は心配だとしても
人の営みは簡単に変えられない…としみじみ思いました。

日本の今のシステムが激変することはないでしょうが、
これから私たち一人一人の選択が
大きく未来を変えていくんだな、と感じています。
返信する
ららさん (上海阿姐)
2012-03-29 02:39:27
こんにちは!コメントありがとうございます

東北に行ったのはものすごく久しぶりでした。雪を被った奥羽山脈がすごくきれいでした。
福島市内にいくつか温泉があるのですが、市街地(特に東部)よりも西側山間部の温泉地の方が線量はずっと低いみたいです。山間部の方が高そうに思いますが、必ずしもそうではないようで、「風評被害」というのは本当にあるのだと思いました。
同じ県内でも会津の方は全然状況が違ったりして、地域に合った対策が必要だと思いました。

夜の繁華街の写真を撮っていなかったのですが、色んなお店があって面白かったです。初めて行ったので他の時期と比較はできませんが、飲食店は割りとどこも賑やかで温かい雰囲気でした。
返信する
Unknown (Rei)
2012-03-29 22:31:57
婀姐さん福島に行かれたのですね
お疲れさまでした
娘の回りでも高校を卒業したこの春休みに
福島にボランティアに行く学生も多いです
現地では大部屋に作業員の男性数名と同じ部屋に寝起きする様な環境もあったりで子供達はカルチャーショックを受け引率役の大人は心配でおちおち眠る事も出来なかったそうです
災害直後に比べるとボランティアの数も相当減っているとの事
まだまだ問題は山積みの今、私達の関心が薄れない様にしていく事も大切なんだと改めて思いました。
返信する
Reiさん (上海阿姐)
2012-03-30 01:57:20
こんにちは!3月も終わり・・・卒業&入学の季節ですね!!
仮設住宅の入居はお年寄りが多く、一人で入居している方も多いので、炊き出しをしたり買い物を手伝うボランティアの方もいるようですが、数は大分減っているみたいです。

普通に営業しているように見えても、本来月曜日~金曜日営業のところを、月曜日も休みにしていたり、営業を縮小しているところもあります。表面的な数字に表れないところで、色々な影響が出ているのだと思います。
ニュースになるのは悪い出来事が多く、良いこと・普通のことはあまり伝わってこないので、どうしても一面的な認識になってしまいがちなような気がします。

もうすぐ桜の季節で観光地のポスターやチラシなどを見ましたが、行ったみたいなと思うところが結構ありました。車がないとどうにもならないですが・・・・。。
返信する

コメントを投稿

普通の日記」カテゴリの最新記事