台湾ドラマといえば元祖F4『流星花園』やジョセフ・チェンの『イタズラなキス』などいわゆるアイドルドラマ(台湾偶像劇)の印象が強いですが、近年は多くの良質な社会派推理ドラマを作り出しています。2000年代の台湾は"華流”中華芸能の中心的な存在でしたが、やがて中国大陸芸能が成長するに伴い台湾の人材は流出し、資金と人材はどんどん「中国ドラマ」に集中し、「台湾ドラマ」の存在感は薄れていきました。そんな状況が続いていた中、近年台湾ドラマ界が米国資本と合作することによって、流れが変わってきています。台湾ドラマに対する認識を変えたドラマの一つが、2019年3月に放送された『悪との距離』です。
台湾ドラマ『悪との距離』(原題:我們與惡的距離) 2019年3月初放送 全10話 監督:林君陽 脚本:呂蒔媛
出演:賈靜雯(アリッサ・チア)、吳慷仁(ウー・カンジェン)、温昇豪(ジェームス・ウー)、周采詩、曽沛慈
無差別大量殺人犯の加害者家族と被害者家族を双方の視点から描く社会派ヒューマンドラマ。中華圏で大ヒットし、台湾ドラマが再評価されるきっかけを作りました。
殺人犯の息子・兄を持つ家族の苦しみと葛藤、被害者家族の後悔と喪失感、SNSによる二次被害などの社会問題をリアルに描いています。このドラマの核心は「なぜ無差別大量殺人を犯したのか」という犯罪者の心理を弁護士を通じて追求することにあります。緊迫した前半に比べて、後半はややホームドラマの比重が高まります。
『悪との距離』は米HBOが出資した「HBO Asiaオリジナルドラマ」ですが、台湾のテレビ局「公共電視」(PTS)が監修し、台湾公共電視で初放送されています。その後、Netflixなど他社プラットフォームや世界各国のチャンネルで放送・配信されています。
HBOの出資により初めて制作された台湾ドラマは2017年の『通霊少女』(The Teenage Psychic)でした。『通霊少女』は短い話数でテンポよく展開するハイクオリティのドラマに仕上がり、その成功を経て、HBOは更に多くの資金を『悪との距離』に投入したと言われています。
『時をかける愛』(原題:『想見你』)2019年11月17日放送開始 全13話
主演:柯佳嬿(アリス・クー)、許光漢(グレッグ・ハン)、施柏宇(パトリック・シー)
カセットテープから流れる流行曲「Last Dance」に導かれ、主人公二人が1998年と2019年をタイムスリップするドラマで、米FOXとの合作により制作。
ぱっと見は、タイムスリップ+魂入れ替りもののファンタジー恋愛ドラマに見えるのですが、タイムスリップの設定がものすごく複雑で、高校時代に起きた事件の真相を解き明かすまでの過程が非常によくできており、中華圏全域で大ヒットしました。許光漢は本作により一気にメジャー俳優になりました。
ドラマのオリジナルキャストでの映画版も制作されており、現在公開待ちの状態です。映画版は中国大陸の映画会社「万達グループ」(ワンダ)の出資により制作されているため「中国映画」として公開される予定です。
Netflixも同時期に台湾ドラマ制作への出資を開始しています。
Netflix初のオリジナル台湾ドラマ『罪夢者』を2019年10月に配信スタートさせてから、『極道千金』(恋するマフィア娘)、『彼岸之嫁』(彼岸の花嫁)などを公開しています。しかし、これら初期の作品はいまひとつ評判が振るいませんでした。その理由は、Netflix側がドラマ制作面に参与したものの、文化的なギャップを埋められず、視聴者から見ると違和感のある作品になってしまったためと言われています。その反省を経て、その後のNetflix台湾ドラマでは、クリエイティブ面での権限を大幅に台湾制作チームに委譲するように方向転換したそうです。そこで制作されたのが『次の被害者』です。
『次の被害者』(原題『誰是被害者』 英語タイトル:The Victims' Game)
Netflixオリジナル台湾ドラマ。2020年4月30日配信開始、主演:張孝全、許瑋寧、王識賢、林心如 全8話
ホテルの一室で発見された身元不明の焼死体を調べる鑑識官は、捜査の過程で事件に行方不明の娘が関わっていることに気付く。焼死体の真相を追う中で、台湾社会の底辺と闇が緻密に描き出されるドラマで台湾で高く評価されました。よくできていますがかなり暗いドラマです。
さらに、2021年には『華燈初上 -夜を生きる女たち』がヒットしました。
Netflixオリジナル台湾ドラマ『華燈初上 -夜を生きる女たち』2021年11月26日配信スタート。現在第3シーズンまで制作され、主演の林心如(ルビー・リン)は制作にも携わっている。
1980年代の台北で活況を呈した「日式クラブ」街で働く女性たちを主人公とするドラマです。推理ドラマの要素もあります。
1980年代、日系企業の台湾進出など台湾と日本との往来が急増し、台北には日本人ビジネスマンを接待する「日式クラブ」が大量にありました。「日式クラブ」街は時代の流れとともに廃れていったものの、まだ台湾の人々の記憶の中にはっきりと残っているノスタルジックな存在です。
そして、2022年10月からNetflixで配信開始したのが『ふたりの私』です。
これまで観たことのあるNetflixオリジナル台湾ドラマの中で一番面白いと思いました。
台湾ドラマ『ふたりの私』原題『她和她的她』(彼女と彼女の彼女) 全10話 2022年10月28日配信開始
主演:許瑋寧(ティファニー・スー)、李程彬、賈靜雯、吳慷仁
敏腕女性ヘッドハンターとして知られるヒロインは人々から崇められているが、誰からも距離を置き、恋人とも正面から向き合えずにいる。ライバルから汚い手段で陥れられたヒロインは交通事故を起こしてしまう。目覚めたときは、病院でも台北の高級マンションでもなく、田舎にある実家にいた。そしてそこには、もういないはずの家族がいた・・・。
パラレルワールドで失われた記憶をたどり、性的暴行の真相とそのトラウマを解いていくドラマです。パラレルワールド、記憶喪失、人物のすり替えといった非現実な展開が、実は心理面とすべてリンクしているという、見事な展開のドラマです。
ヒロインの恋人を演じる李程彬が一人二役で、まったくタイプの異なる男性像を演じています。現実世界ではスマートなビジネスマン、パラレルワールドでは地元に根付いた品位に欠ける刑事の役を演じています。李程彬は1987年生まれ、鍛えられた184cmの長身に小顔のイケメン俳優です。出てきたばかりの頃はエディ・ポンに似ていると言われていました。
『ふたりの私』は本当に洗練されているドラマで無駄が一切なく、台湾土着の要素をかなり排除しています。欧米人が見たら、舞台が台湾なのか韓国なのか日本なのか分からないかもしれません。
Netflixオリジナル台湾ドラマとして、2023年には宮部みゆき原作の『模倣犯』がドラマ化される予定です。全体的に推理・犯罪ドラマに偏っており、今後もこのジャンルに力を入れていくように思われます。Netflixとしてはいつか台湾との合作で『イカゲーム』のような世界的ヒット作を生み出すことを目指しているのかもしれません。ドラマとしてのクオリティは格段に上がったのですが、どの作品も同じような顔ぶれの俳優が主要キャストを担っている印象があります。
台湾ドラマ『悪との距離』(原題:我們與惡的距離) 2019年3月初放送 全10話 監督:林君陽 脚本:呂蒔媛
出演:賈靜雯(アリッサ・チア)、吳慷仁(ウー・カンジェン)、温昇豪(ジェームス・ウー)、周采詩、曽沛慈
無差別大量殺人犯の加害者家族と被害者家族を双方の視点から描く社会派ヒューマンドラマ。中華圏で大ヒットし、台湾ドラマが再評価されるきっかけを作りました。
殺人犯の息子・兄を持つ家族の苦しみと葛藤、被害者家族の後悔と喪失感、SNSによる二次被害などの社会問題をリアルに描いています。このドラマの核心は「なぜ無差別大量殺人を犯したのか」という犯罪者の心理を弁護士を通じて追求することにあります。緊迫した前半に比べて、後半はややホームドラマの比重が高まります。
『悪との距離』は米HBOが出資した「HBO Asiaオリジナルドラマ」ですが、台湾のテレビ局「公共電視」(PTS)が監修し、台湾公共電視で初放送されています。その後、Netflixなど他社プラットフォームや世界各国のチャンネルで放送・配信されています。
HBOの出資により初めて制作された台湾ドラマは2017年の『通霊少女』(The Teenage Psychic)でした。『通霊少女』は短い話数でテンポよく展開するハイクオリティのドラマに仕上がり、その成功を経て、HBOは更に多くの資金を『悪との距離』に投入したと言われています。
『時をかける愛』(原題:『想見你』)2019年11月17日放送開始 全13話
主演:柯佳嬿(アリス・クー)、許光漢(グレッグ・ハン)、施柏宇(パトリック・シー)
カセットテープから流れる流行曲「Last Dance」に導かれ、主人公二人が1998年と2019年をタイムスリップするドラマで、米FOXとの合作により制作。
ぱっと見は、タイムスリップ+魂入れ替りもののファンタジー恋愛ドラマに見えるのですが、タイムスリップの設定がものすごく複雑で、高校時代に起きた事件の真相を解き明かすまでの過程が非常によくできており、中華圏全域で大ヒットしました。許光漢は本作により一気にメジャー俳優になりました。
ドラマのオリジナルキャストでの映画版も制作されており、現在公開待ちの状態です。映画版は中国大陸の映画会社「万達グループ」(ワンダ)の出資により制作されているため「中国映画」として公開される予定です。
Netflixも同時期に台湾ドラマ制作への出資を開始しています。
Netflix初のオリジナル台湾ドラマ『罪夢者』を2019年10月に配信スタートさせてから、『極道千金』(恋するマフィア娘)、『彼岸之嫁』(彼岸の花嫁)などを公開しています。しかし、これら初期の作品はいまひとつ評判が振るいませんでした。その理由は、Netflix側がドラマ制作面に参与したものの、文化的なギャップを埋められず、視聴者から見ると違和感のある作品になってしまったためと言われています。その反省を経て、その後のNetflix台湾ドラマでは、クリエイティブ面での権限を大幅に台湾制作チームに委譲するように方向転換したそうです。そこで制作されたのが『次の被害者』です。
『次の被害者』(原題『誰是被害者』 英語タイトル:The Victims' Game)
Netflixオリジナル台湾ドラマ。2020年4月30日配信開始、主演:張孝全、許瑋寧、王識賢、林心如 全8話
ホテルの一室で発見された身元不明の焼死体を調べる鑑識官は、捜査の過程で事件に行方不明の娘が関わっていることに気付く。焼死体の真相を追う中で、台湾社会の底辺と闇が緻密に描き出されるドラマで台湾で高く評価されました。よくできていますがかなり暗いドラマです。
さらに、2021年には『華燈初上 -夜を生きる女たち』がヒットしました。
Netflixオリジナル台湾ドラマ『華燈初上 -夜を生きる女たち』2021年11月26日配信スタート。現在第3シーズンまで制作され、主演の林心如(ルビー・リン)は制作にも携わっている。
1980年代の台北で活況を呈した「日式クラブ」街で働く女性たちを主人公とするドラマです。推理ドラマの要素もあります。
1980年代、日系企業の台湾進出など台湾と日本との往来が急増し、台北には日本人ビジネスマンを接待する「日式クラブ」が大量にありました。「日式クラブ」街は時代の流れとともに廃れていったものの、まだ台湾の人々の記憶の中にはっきりと残っているノスタルジックな存在です。
そして、2022年10月からNetflixで配信開始したのが『ふたりの私』です。
これまで観たことのあるNetflixオリジナル台湾ドラマの中で一番面白いと思いました。
台湾ドラマ『ふたりの私』原題『她和她的她』(彼女と彼女の彼女) 全10話 2022年10月28日配信開始
主演:許瑋寧(ティファニー・スー)、李程彬、賈靜雯、吳慷仁
敏腕女性ヘッドハンターとして知られるヒロインは人々から崇められているが、誰からも距離を置き、恋人とも正面から向き合えずにいる。ライバルから汚い手段で陥れられたヒロインは交通事故を起こしてしまう。目覚めたときは、病院でも台北の高級マンションでもなく、田舎にある実家にいた。そしてそこには、もういないはずの家族がいた・・・。
パラレルワールドで失われた記憶をたどり、性的暴行の真相とそのトラウマを解いていくドラマです。パラレルワールド、記憶喪失、人物のすり替えといった非現実な展開が、実は心理面とすべてリンクしているという、見事な展開のドラマです。
ヒロインの恋人を演じる李程彬が一人二役で、まったくタイプの異なる男性像を演じています。現実世界ではスマートなビジネスマン、パラレルワールドでは地元に根付いた品位に欠ける刑事の役を演じています。李程彬は1987年生まれ、鍛えられた184cmの長身に小顔のイケメン俳優です。出てきたばかりの頃はエディ・ポンに似ていると言われていました。
『ふたりの私』は本当に洗練されているドラマで無駄が一切なく、台湾土着の要素をかなり排除しています。欧米人が見たら、舞台が台湾なのか韓国なのか日本なのか分からないかもしれません。
Netflixオリジナル台湾ドラマとして、2023年には宮部みゆき原作の『模倣犯』がドラマ化される予定です。全体的に推理・犯罪ドラマに偏っており、今後もこのジャンルに力を入れていくように思われます。Netflixとしてはいつか台湾との合作で『イカゲーム』のような世界的ヒット作を生み出すことを目指しているのかもしれません。ドラマとしてのクオリティは格段に上がったのですが、どの作品も同じような顔ぶれの俳優が主要キャストを担っている印象があります。