上海阿姐のgooブログ

FC2ブログ「全民娯楽時代の到来~上海からアジア娯楽日記」の続きのブログです。

外資との合作で復活する台湾ドラマ~Netflix台湾ドラマ『ふたりの私』

2022年12月01日 | エンタメの日記
台湾ドラマといえば元祖F4『流星花園』やジョセフ・チェンの『イタズラなキス』などいわゆるアイドルドラマ(台湾偶像劇)の印象が強いですが、近年は多くの良質な社会派推理ドラマを作り出しています。2000年代の台湾は"華流”中華芸能の中心的な存在でしたが、やがて中国大陸芸能が成長するに伴い台湾の人材は流出し、資金と人材はどんどん「中国ドラマ」に集中し、「台湾ドラマ」の存在感は薄れていきました。そんな状況が続いていた中、近年台湾ドラマ界が米国資本と合作することによって、流れが変わってきています。台湾ドラマに対する認識を変えたドラマの一つが、2019年3月に放送された『悪との距離』です。

台湾ドラマ『悪との距離』(原題:我們與惡的距離) 2019年3月初放送 全10話 監督:林君陽 脚本:呂蒔媛
出演:賈靜雯(アリッサ・チア)、吳慷仁(ウー・カンジェン)、温昇豪(ジェームス・ウー)、周采詩、曽沛慈


無差別大量殺人犯の加害者家族と被害者家族を双方の視点から描く社会派ヒューマンドラマ。中華圏で大ヒットし、台湾ドラマが再評価されるきっかけを作りました。
殺人犯の息子・兄を持つ家族の苦しみと葛藤、被害者家族の後悔と喪失感、SNSによる二次被害などの社会問題をリアルに描いています。このドラマの核心は「なぜ無差別大量殺人を犯したのか」という犯罪者の心理を弁護士を通じて追求することにあります。緊迫した前半に比べて、後半はややホームドラマの比重が高まります。

『悪との距離』は米HBOが出資した「HBO Asiaオリジナルドラマ」ですが、台湾のテレビ局「公共電視」(PTS)が監修し、台湾公共電視で初放送されています。その後、Netflixなど他社プラットフォームや世界各国のチャンネルで放送・配信されています。

HBOの出資により初めて制作された台湾ドラマは2017年の『通霊少女』(The Teenage Psychic)でした。『通霊少女』は短い話数でテンポよく展開するハイクオリティのドラマに仕上がり、その成功を経て、HBOは更に多くの資金を『悪との距離』に投入したと言われています。

『時をかける愛』(原題:『想見你』)2019年11月17日放送開始 全13話
主演:柯佳嬿(アリス・クー)、許光漢(グレッグ・ハン)、施柏宇(パトリック・シー)


カセットテープから流れる流行曲「Last Dance」に導かれ、主人公二人が1998年と2019年をタイムスリップするドラマで、米FOXとの合作により制作。
ぱっと見は、タイムスリップ+魂入れ替りもののファンタジー恋愛ドラマに見えるのですが、タイムスリップの設定がものすごく複雑で、高校時代に起きた事件の真相を解き明かすまでの過程が非常によくできており、中華圏全域で大ヒットしました。許光漢は本作により一気にメジャー俳優になりました。
ドラマのオリジナルキャストでの映画版も制作されており、現在公開待ちの状態です。映画版は中国大陸の映画会社「万達グループ」(ワンダ)の出資により制作されているため「中国映画」として公開される予定です。

Netflixも同時期に台湾ドラマ制作への出資を開始しています。
Netflix初のオリジナル台湾ドラマ『罪夢者』を2019年10月に配信スタートさせてから、『極道千金』(恋するマフィア娘)、『彼岸之嫁』(彼岸の花嫁)などを公開しています。しかし、これら初期の作品はいまひとつ評判が振るいませんでした。その理由は、Netflix側がドラマ制作面に参与したものの、文化的なギャップを埋められず、視聴者から見ると違和感のある作品になってしまったためと言われています。その反省を経て、その後のNetflix台湾ドラマでは、クリエイティブ面での権限を大幅に台湾制作チームに委譲するように方向転換したそうです。そこで制作されたのが『次の被害者』です。

『次の被害者』(原題『誰是被害者』 英語タイトル:The Victims' Game)
Netflixオリジナル台湾ドラマ。2020年4月30日配信開始、主演:張孝全、許瑋寧、王識賢、林心如 全8話


ホテルの一室で発見された身元不明の焼死体を調べる鑑識官は、捜査の過程で事件に行方不明の娘が関わっていることに気付く。焼死体の真相を追う中で、台湾社会の底辺と闇が緻密に描き出されるドラマで台湾で高く評価されました。よくできていますがかなり暗いドラマです。

さらに、2021年には『華燈初上 -夜を生きる女たち』がヒットしました。
Netflixオリジナル台湾ドラマ『華燈初上 -夜を生きる女たち』2021年11月26日配信スタート。現在第3シーズンまで制作され、主演の林心如(ルビー・リン)は制作にも携わっている。


1980年代の台北で活況を呈した「日式クラブ」街で働く女性たちを主人公とするドラマです。推理ドラマの要素もあります。
1980年代、日系企業の台湾進出など台湾と日本との往来が急増し、台北には日本人ビジネスマンを接待する「日式クラブ」が大量にありました。「日式クラブ」街は時代の流れとともに廃れていったものの、まだ台湾の人々の記憶の中にはっきりと残っているノスタルジックな存在です。

そして、2022年10月からNetflixで配信開始したのが『ふたりの私』です。
これまで観たことのあるNetflixオリジナル台湾ドラマの中で一番面白いと思いました。
台湾ドラマ『ふたりの私』原題『她和她的她』(彼女と彼女の彼女) 全10話 2022年10月28日配信開始 
主演:許瑋寧(ティファニー・スー)、李程彬、賈靜雯、吳慷仁


敏腕女性ヘッドハンターとして知られるヒロインは人々から崇められているが、誰からも距離を置き、恋人とも正面から向き合えずにいる。ライバルから汚い手段で陥れられたヒロインは交通事故を起こしてしまう。目覚めたときは、病院でも台北の高級マンションでもなく、田舎にある実家にいた。そしてそこには、もういないはずの家族がいた・・・。

パラレルワールドで失われた記憶をたどり、性的暴行の真相とそのトラウマを解いていくドラマです。パラレルワールド、記憶喪失、人物のすり替えといった非現実な展開が、実は心理面とすべてリンクしているという、見事な展開のドラマです。
ヒロインの恋人を演じる李程彬が一人二役で、まったくタイプの異なる男性像を演じています。現実世界ではスマートなビジネスマン、パラレルワールドでは地元に根付いた品位に欠ける刑事の役を演じています。李程彬は1987年生まれ、鍛えられた184cmの長身に小顔のイケメン俳優です。出てきたばかりの頃はエディ・ポンに似ていると言われていました。

『ふたりの私』は本当に洗練されているドラマで無駄が一切なく、台湾土着の要素をかなり排除しています。欧米人が見たら、舞台が台湾なのか韓国なのか日本なのか分からないかもしれません。
Netflixオリジナル台湾ドラマとして、2023年には宮部みゆき原作の『模倣犯』がドラマ化される予定です。全体的に推理・犯罪ドラマに偏っており、今後もこのジャンルに力を入れていくように思われます。Netflixとしてはいつか台湾との合作で『イカゲーム』のような世界的ヒット作を生み出すことを目指しているのかもしれません。ドラマとしてのクオリティは格段に上がったのですが、どの作品も同じような顔ぶれの俳優が主要キャストを担っている印象があります。
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「名探偵コナン劇場版 ハロウィンの花嫁」11月18日中国劇場公開~待望の「アバター2」の公開は

2022年11月17日 | エンタメの日記
映画「名探偵コナン劇場版 ハロウィンの花嫁」が11月18日に中国で劇場公開されます。アニメ「名探偵コナン」の人気と知名度は非常に高く、ここ数年は劇場版もコンスタントに中国公開が実現しています。
中国では2022年に入ってから深セン、上海などで大規模なロックダウンを実施し、厳しい外出規制が行われてきました。
都市単位、エリア単位での外出制限や映画館休業措置が断続的に行われたため、多くの新作映画が公開延期せざるをえず、2022年の中国映画界はとてつもないダメージを受けました。他の国と異なり、中国の場合は、2020年、2021年よりも2022年のほうがエンタメ関連が受けたダメージが大きいです。

本来は客入りピークであるはずの10月の国慶節連休も、めぼしい大作は主旋律映画「万里帰途」くらいしか公開されず、それなりにヒットしたものの、この作品以降はほとんど新作が公開されていません。
映画館はいちおう営業していても、新しい映画がまったくやっていないという状態が続いていました。
そんな中、11月18日に「名探偵コナン劇場版 ハロウィンの花嫁」が公開されます。

『名探偵コナン劇場版 ハロウィンの花嫁』 中国語タイトル『名侦探柯南:万圣节的新娘』
日本公開日:2022年4月15日 中国公開日:2022年11月18日(金)18:00


中国の劇場で映画を上映するためには、政府当局(広電総局)のセンサーシップを受け、許可書(許可番号)を取得する必要があります。
①映画完成 ②センサーシップ審査の申請 ③センサーシップ審査に通過 ④公開日決定 ⑤劇場公開 というプロセスが必要になります。

センサーシップを通過できるか、通過までにどのくらいの時間がかかるかは不確定で、大きなハードルになっています。
さらに、いまはセンサーシップは通過したのに公開日が決まらないことも多く、大量の作品が公開待ちのまま停滞しています。
そんな状況の中、コナン劇場版「ハロウィンの花嫁」は公開にこぎつけただけでも大変なことで、喜ばしいことです。
「ハロウィンの花嫁」の中国公開日が正式に発表されたのは11月9日、唐突に発表されましたが、配給側からすれば「やっと決まった」と安堵したかもしれません。
新作映画の公開日がなかなか決まらない主な理由は、コロナ感染状況による映画館休館、外出制限などのリスクがあることで、制作コストが高い大作ほど公開時期の選定に慎重になります。

2022年11月17日に発表された中国各地のコロナウィルス蔓延状況は以下のような状況です。


11月16日(0~24時)の中国全土の新規陽性者は2328人、新規無症状者は20804人と発表されています。
人口母数が14億人とはいえ、これまでと比べると全国各地の新規陽性者数は高い水準にあります。
感染拡大地域は重慶、鄭州、広州、北京、フフホト(内モンゴル)などで、上海、成都、深センなど大多数の地域は小康状態にあります。
なお、石家庄(河北省)はゼロコロナ脱却試行中?として注目されています。

都市別にみると、現在最も厳しい封鎖が実施されているのが重慶です。また、河南省の鄭州も規制が厳しいです。
一方、広州と北京は感染者が増えている割には、封鎖措置は必要な範囲内に留める方向に動いています。
中国は「ゼロコロナ」をやめたわけではありませんが、やみくもに封鎖して社会活動を止めるのはよくないと正式に通達を出し、運用を改めていこうとしています。
鄭州、重慶では11月17日現在映画館はほぼ全館休館ですが、広州は感染集中区域である海珠区、荔湾区などは休館であるものの、都心部の天河区は映画館が営業しています。北京も原則として映画館は営業中です。
そんな一種の転換が行われようとしている中、「名探偵コナン劇場版 ハロウィンの花嫁」が中国劇場公開されます。「ハロウィンの花嫁」が公開されることで中国の映画館が久しぶりに活気づくと思います。

センサーシップに通ったとしても、なかなか公開日が決まらない状況にあるので、センサーシップが通るかどうかも分からない作品は、なおさら難しい局面に置かれています。
ハリウッド映画はここ数年、中国で公開できないケースが続いています。あれだけ中国で人気だったMARVEL作品も2019年の「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」以降は中国で劇場公開されていません。
中国側は民族をめぐる表現、LGBTの登場人物の描写などに敏感で、「多様性」を掲げる米国映画としては修正の施しようがないこともあります。
最近の作品ではDCの「ブラックアダム」(10月21日北米公開)、MARVELの「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」(11月11日北米公開)も、北米で公開されてしまったので、中国ではこのまま劇場公開されないのではと言われています。

いま注目が集まっているのは“アバター2”こと『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』です。
「2022年12月16日に世界同時公開」と発表されたので、中国でも12月16日または15日に公開されるのではと言われていますが、まだ正式な公開日は発表されていません。

映画「アバター」が公開されたのは2009年(中国では2010年公開)です。その後、2021年に中国で再上映されています。この再上映で興行収入17億元(約300億円)を上げ、これが上乗せされたことで「アバター」は再び世界興行収入歴代1位になったと言われています。
中国の映画館は基本的にすべてシネコンで、商業施設(ショッピングモール)に付帯しているため、商業施設の建設に比例してスクリーンが増えます。
「アバター」が公開された2010年当時はいまほど多くのスクリーンはなく、映画館で公開されるハリウッド映画も「トランスフォーマー」くらいしかありませんでした。
精緻な3D作品「アバター」は当時中国で大ヒットしました。ちょうどIMAXスクリーンが出始めた頃で、人々は3Dの「アバター」をIMAXで観るために早朝から劇場の外まで並ぶほどの熱狂ぶりでした。長期に渡り上映され、「アバター」を観ていない人はいないほどのブームでした。まだ娯楽がそれほど豊富ではなく、映画といえば友達同士で連れ立って観に行くものだったので、別の友だちと「アバター」を二回、三回観たという人もざらにいました。
「アバター」は多くの人にとって思い入れのある映画なので、その続編である『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の期待度も高く、中国の劇場側にとっても救世主になるはずです。
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鄭雲龍(郑云龙)主演「中国語版フランケンシュタイン」上海公演を9月に観ました

2022年11月08日 | エンタメの日記
9月の話になりますが、鄭雲龍主演の舞台「フランケンシュタイン」(上海公演)を観に行きました。鄭雲龍(郑云龙)は中国で最も有名なミュージカル俳優の一人です。

舞台「フランケンシュタイン」(中国語タイトル:弗兰肯斯坦/弗蘭肯斯坦)
会場:上海大劇院大劇場 公演期間:2022年9月16日~9月25日(全12公演)
脚本:ニック・ディア(Nick Dear)、監督(英国):ドミニク・ドルムグール(Dominic Dromgoole)
監督(中国):李任 振付・動作指導:王亜彬  チケット価格:1080元/680元/480元/380元(1元約20円)


舞台セットやライティングは全体的にシンプルです。


人造人間を生み出した男・ヴィクター・フランケンシュタインと彼に生み出された怪物(「人形の生物」)の二役を、4人の俳優が役替りで演じます。
主演俳優4人(袁弘、鄭雲龍、闫楠、王茂蕾)


この4人の中で圧倒的に人気があるのが鄭雲龍(郑云龙)です。鄭雲龍がキャスティングされている日程とそれ以外の日程で、チケットの取りにくさが全然違いました。

鄭雲龍(郑云龙/Zheng YunLong/ジェン・ユンロン)


1990年6月27日生まれ、山東省出身、身長187cm、名門国立芸術大学の一つ北京舞踏学院ミュージカル学科卒。
鄭雲龍は中国語版ミュージカル「ジキルとハイド」(中国語タイトル:変身怪医)など多くの舞台で活躍していましたが、2018年から2019年にかけて放送された声楽系サバイバル番組「声入人心」(SuperVocal)第一季に出演したことで一躍スターになりました。
「声入人心」は36名の男性歌手が歌で競い合い、最終的に6名のグループが選ばれるという湖南テレビ制作のサバイバルバラエティです。
湖南テレビはこの種のサバイバルバラエティを作るノウハウに非常に長けており、贅沢なステージと起伏に富んだバトル展開がおもしろく、番組として大当たりしました。
この番組をきっかけに、中国ミュージカル俳優の知名度が飛躍的にアップしました。
その中でも、ミュージカル俳優としては、阿云嘎(アユンガ)と郑云龙(ジェン・ユンロン)の二人が突出して売れました。二人は実力とルックスを兼ね揃え、キャリアもありましたが、一部のミュージカルファンの間だけで知られる存在でした。それが、「声入人心」に出たことをきっかけに、誰もが知るようなスターになったのです。

湖南テレビ「声入人心」。準決勝に入る前の重唱バトル(2019年1月)。宝塚でお馴染みのエリザベート「私だけに」を阿云嘎と郑云龙が熱唱。


鄭雲龍は「声入人心」に出る前から中国語版ミュージカル「ジキルとハイド」の主役を演じるなど舞台で活躍していました。
しかし、当時は中国人キャストによる中国語ミュージカル自体がいまひとつメジャーではありませんでした。
その理由の一つは、中国とくに上海では、海外ミュージカルの招聘がとても盛んで、ミュージカルが好きな人は、外国語原版を観ることができたからです。
上海では「上海文化広場」という劇場が海外ミュージカルの招聘に非常に力を入れており、ブロードウェイミュージカルだけではなく、フランスミュージカルなども頻繁に上演していました。
2012年から2020年の間に、「ロミオとジュリエット」(フランス語版)、「エリザベート」(ウィーン版)、「ノートルダム・ド・パリ」(英語版/フランス語版)、「モーツァルト!」(ドイツ語版)、「ロックオペラ モーツァルト」(フランス語版)などが上演されています。このほか、英語版のブロードウェイミュージカルも多数上海に来ており、いつでも海外ミュージカルが観られる状態でした。
上海文化広場公式サイト 上演作品の紹介 https://www.shcstheatre.com/news/article.aspx?SYS_ID=622


ところが、2020年コロナ禍以降、海外招聘ミュージカルは途絶えました。
ミュージカルだけでなく、あらゆるジャンルで、あれほどたくさん来ていた海外アーティストがぱったりと上海に来なくなったのです。
結果的に、コロナ以降は中国人キャストによる演劇・ミュージカル、舞踏劇の存在感が高まったといえます。

とにかく鄭雲龍の舞台が観てみたくて「フランケンシュタイン」を観に行きました。
大きな勘違いだったのですが、公演が始まるまでてっきりミュージカルだと思っていました。
いつまでたっても歌が始まらないので、おかしいと思ってタイトルを見直すと、「ミュージカル」(音楽劇)とはどこにも書かれていません。
作品紹介にはちゃんと「英国ナショナルシアター版フランケンシュタインの中国語版」と書かれており、自分もそのことは知っていました。
にもかかわらず、「鄭雲龍が出る以上、歌うはずだ」と思い込んでいたのです。
それくらい、鄭雲龍といえばミュージカルというイメージが強かったのです。
鄭雲龍の歌が聴けなかったのは残念でしたが、演技はびっくりするほど上手かったです。スタイル抜群で身体能力が非常に高いです。
鄭雲龍があまりにもメジャーで、派手なルックスをしているので、無意識にアイドル視していましたが、鄭雲龍は完全にプロの舞台役者でした。

「フランケンシュタイン」カーテンコール 左:鄭雲龍・人形の生物 右:袁弘・ヴィクター。袁弘は「宮廷女官 若曦」で第十三皇子を演じるなど有名なドラマ俳優。


鄭雲龍は役替りで「ヴィクター」と「人形の生物」の二役を演じていますが、鄭雲龍を見たいなら「人形の生物」の方が見応えがあると思います。

英国ナショナルシアター版(NT版)「フランケンシュタイン」を観たことがある人の感想によると、基本的にはNT版に忠実に中国語化しているそうです。
どの俳優の演技も素晴らしかったのですが、個人的には後味の良くないお芝居だと思いました。
コロナ規制の影響でリハーサル不足だったのでしょうか、モブの動きにまとまりが欠ける感じがしました。
中国版「フランケンシュタイン」のオリジナル演出として、原作小説の作者であるメアリー・シェリーが妊婦の姿で終始舞台上に存在しているのですが、この演出の意図がよく分かりませんでした。

コロナ以前、つまり2019年まで、上海には本当にしょっちゅう海外ミュージカルが来ていました。
海外ミュージカルの招聘に大きく貢献したのは、2011年に再建された劇場「上海文化広場」です。「上海文化広場」は約2000席の3階建シアターで、市内中心地のいわゆる「旧フランス租界」エリアにあります。
上海文化広場が再建されたのは、時間的にいうと上海万博(2010年)の時期です。
「ベターシティ、ベターライフ」(《城市,让生活更美好》)という公式スローガンを掲げて開催された上海万博とともに、上海の都市機能・インフラ整備が急速に進められました。上海文化広場の再建も、その一環だったと記憶しています。

比較的初期に招聘されたフランス語版「ロミオとジュリエット」(2012年12月上演)、ウィーン版「エリザベート」(2014年12月~2015年1月上演)などは滅多に観れるものではないと思って観に行きました。その後も、多数の有名な海外ミュージカルが上演されましたが、だんだん観に行かなくなりました。いつでも観れると思っていたからです。この作品を観なくても、来月、来年はまた違うミュージカルが次々とやって来ると信じて疑わなかったので、いま観なくてもいいと思ったのです。
それが、新型コロナウィルス蔓延により状況が一変しました。コロナ規制だけではなく、中国では政治的緊迫感、政治の社会干渉も強まる一方なので、2019年以前の豊かな時代は遥か昔のことのように感じます。
あのとき観ておけばよかった、と後悔することもありますが、エンタメは食いだめできるものではないので、いまあるものを楽しみ、これから生まれるものを受け止めたいと思います。
上海文化広場 上海市黄浦区復興中路597号
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Netflix配信中国映画『星明かりを見上げれば』(原題『人生大事』)~朱一龍主演のヒューマンドラマ

2022年11月06日 | エンタメの日記
2022年6月に中国公開された朱一龍主演の映画『人生大事』がNetflixで配信されています。Netflixでの日本語タイトルは『星明かりを見上げれば』で好評を得ています。
この映画は中国で2022年6月24日に公開され、興行収入17.12億元(約340億円)を記録しており、2022年度の興行収入ランキング4位につけています。
映画『星明かりを見上げれば』(原題『人生大事』
主演:朱一龍、楊恩又(子役)、王戈、劉陸、羅京民
監督・脚本:劉江江、監修:韓延 時間:112分 公開日:2022年6月24日


あらすじ
葬儀屋の息子・莫三妹は稼業を毛嫌いしている。しかし服役歴のある莫三妹が戻る場所は実家の葬儀屋しかなく、やむなく仕事、つまり葬儀を請け負う。仕事先で老婆の遺体の手入れしていると、突然タンスから幼い少女が飛び出してくる。「おばあちゃんを返せ!」と。死んだ老婆は少女の祖母で、少女の親代わりだった。老婆の葬式が済んでも、火の粉を散らしたような気性の少女を親戚たちは持て余している。葬儀屋の莫三妹は押し付けられるように少女を預かることになるが、やがて不思議な情が芽生えて、莫三妹、少女、仕事仲間2人を合わせた4人で家族のように暮らし始める・・・。


主演俳優 朱一龍(チュー・イーロン) 葬儀屋の息子・莫三妹役
朱一龍はプロフィールによると、1988年4月16日生まれ、身長180cm、体重62kg、出身地は武漢、北京電影学院卒です。
2006年に名門・北京電影学院演劇科に入学、2010年に卒業、在学中から多数のドラマやウェブシネマに出演していますが、俳優としてブレイクしたのは2018年にウェブドラマ「鎮魂」が配信されてからです。
「鎮魂」はブロマンス・ファンタジードラマで、この作品をきっかけに、朱一龍は爆発的に売れました。演じた役は大学教授で、ドラマ公開時、朱一龍はすでに30歳になっていました。中国芸能では、長い間脇役が多かった俳優が、30歳前後になって突然ブレイクするケースが少なくありませんが、朱一龍はまさにその代表例です。「鎮魂」のヒット以来、朱一龍は主役クラスの俳優として活躍しています。
過去記事:中国配信ドラマ「鎮魂」が大ヒット~BL・耽美から“兄弟情”へ
ルックスのイメージから、温和で繊細な美形役を演じることが多かったですが、『星明かりを見上げれば』では従来のイメージとまったく異なる、粗暴な社会のはみ出し者を演じています。


映画『星明かりを見上げれば』の舞台は武漢です。
朱一龍が演じる莫三妹と莫三妹の父親の会話は、北京語(普通話)ではなく武漢方言で語られています。
朱一龍は武漢出身なので、自ら武漢方言を話しています。
一方、少女・小文(シャオウェン)は劇中で四川方言を話しています。小文の亡くなってしまった祖母も四川方言を話しています。
設定としては、四川から武漢に出てきた祖母に育てられているため、孫娘の小文も日常的に四川方言を話している、ということかと思います。
武漢は内陸の大都市なので、様々な出身の人が住んでいてもおかしくありません。
小文(シャオウェン)を演じた子役の楊恩又が四川省成都出身で、もともと四川方言を話せたため、そのような設定になったのかもしれません。

小文(シャオウェン)役を演じた楊恩又
プロフィールによると楊恩又は2013年10月16日生まれ、四川省成都出身。2018年に社会実録番組の再現ドラマから芸能活動をスタート。広告モデルやショートフィルムの出演歴がある。『星明かりを見上げれば』の名演で一躍注目を浴びましたが、本格的な演技は本作が初めてと言われています。現在9歳で、逆算すると撮影当時満7歳だったことになります。


『星明かりを見上げれば』のクランクインは2021年5月27日、クランクアップは2022年8月1日と発表されています。
本来、この映画は2022年4月2日に公開される予定でした。ところが、3月以降、深センや上海などの大都市がロックダウンに入り、各地のコロナ規制が厳しくなったため公開が延期されました。延期を経て、改めて設定された公開日が2022年6月24日です。
なお、上海は当時まだロックダウンの影響が残っており、映画館は全面休業状態にありました。上海の映画館が再開したのは7月8日です。
当初のポスター。2022年4月2日に公開予定でしたが、公開直前に公開を延期しました。


本作のような大作とは言いがたいヒューマンドラマが興行収入17.12億元(約340億円)を上げるのは快挙です。
しかも、コロナ規制の影響を相当受けています。一方で、コロナ規制があったために、他に目ぼしい新作映画が上映されなかったので、興行収入が伸びたという見方もあります。

葬儀業の男性が主人公という設定から「中国版おくりびと」と言われることもありますが、人物関係の設定が「うさぎドロップ」に似ており、ポスターも類似性が見られるという指摘もあります。
非常によくできた映画ですが、家族ドラマ、ヒューマンドラマとしては、ストーリーがものすごく斬新というわではありません。
ただ、葬儀屋という仕事の主人公を通じて、市井の人々の暮らし、商店と住居が一体化した雑然とした路地、中国独特の風習などを美しい映像でテンポよく描き出しており、映像に説得力があります。
一貫して庶民を描きながらも、映像の作りが異様に洗練されているのは、昨今の中国映画ならではです。

ただし、ストーリーとしては、ひっかかるところがあります。具体的にいうとラストの展開が妙に安直に感じられました。
しかしそれは、中国の法律が関係しているものと思います。中国では2020年に民法各法をとりまとめた「民法典」が正式に施行されました。「民法典」には親が子どもを扶養する義務だけではなく、子どもも親を扶養する義務があることが明確に定められています。
つまり、子どもは、将来的に実の親を扶養する義務があり、法律上の継父継母がいてもその義務は変わりません。この映画は、2022年の中国ファミリードラマとして、中国の法律、道徳観と矛盾しないようなラストになっています。
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イマーシブ式ミュージカル中国版「スリル・ミー」(危険遊戯)2022年9月上海公演

2022年09月11日 | エンタメの日記
オフブロードウェイからはじまり韓国、日本でも長年に渡り上演されているミュージカル「スリル・ミー」。アジア三か国目となる中国版「スリル・ミー」が初めて上海で上演されたのは2016年です。上海初演から6年が経ちますが、現在上海には二種類の「スリル・ミー」があります。一つは中型の劇場で上演する通常の「スリル・ミー」で、もう一つは常設専用劇場で上演する「イマーシブ式スリル・ミー」です。

イマーシブ式ミュージカル中国版「スリル・ミー」(中国語タイトル:環境式駐演音楽劇『危険遊戯』)
劇場:星空間66号・Salute小劇場(上海「大世界」4階) 座席数約140席 公演時間約120分。運営:上海致敬文化伝播有限公司
2021年9月20日から2022年9月現在まで長期上演中。2022年3月中旬からロックダウンの影響で休演、7月から公演再開。


キャスト:2022年9月現在、リチャード(彼)、ネイサン(私)ともに7名ずつキャスティングされており日替わりキャストとなっています。但し二人芝居なので、組合せはある程度固定されています。
主な組合せ:リチャード(彼)×ネイサン(私)
鍾嘉誠×毛二、鍾嘉誠×夏陽、楊皓晨×毛二、蔡淇×瞿芸、徐昊×李蘇霖、白翰祥×張旭晨など。
  

上海イマーシブ式「スリル・ミー」は舞台の周囲を座席がぐるりと取り囲むような配置で、舞台上に二つの大きな柱があります。客席の通路や入口を劇中で使うなど劇場の環境を活かした演出があり、本来の「スリル・ミー」よりも長い約120分の公演となっています。
チケット価格:赤:399元(約8000円)、青:299元(約6000円)、黄色:199元(約4000円) アプリでチケットを購入する際に、座席を選ぶことができます。


上海イマーシブ式「スリル・ミー」のキャストは若いです。
古株キャストでも27歳、28歳で、新人キャストの場合、大学を卒業したばかりの22歳の俳優が演じています。
キャストの多くは上海戯劇学院、上海音楽学院などの有名芸術大学で声楽や演劇、ミュージカルを学んでいます。この種の芸術大学に入学すること自体が非常に難しく、厳しい審査をくぐり抜けているため、歌唱力、発声、滑舌、演技などの基本レベルが高く、ビジュアル、スタイルもよいです。
「スリル・ミー」の主人公2人は、物語の中では19歳の大学生です。上海版「スリル・ミー」は俳優が若いので普通に大学生に見えます

観客はリピーターが多く、しかも客席から舞台が非常に近いので、ほんの少しのミスやアクシデントでも観客が即反応し、生温かい笑いが漏れてしまうこともありました。日本版「スリル・ミー」の宣伝で言われるような「息をもつかせぬ究極の100分間」という雰囲気ではないのですが、総体的にいうと観客のマナーは悪くありません。上海には上海の作法がある、といえると思います。

リチャード(彼):鐘嘉誠×ネイサン(私):夏陽の組み合わせを観ました。
鐘嘉誠(1997年7月20日生まれ)は「スリル・ミー」古株キャストで、はっきりした顔立ちの美形です。鐘嘉誠が出演する回はチケットがよく売れています。ネイサンを演じた夏陽は2000年9月29日生まれ、もうすぐ22歳の若手ですが、歌と芝居に芯があって非常によかったです。

アンコールは撮影可能ですが、アンコールの時間はやや短く2~3分しかありません。




夜公演は19:30開演で、21:30に終わりました。終演後、多くの観客が出待ちをしていました。上海イマーシブ式「スリル・ミー」の常設劇場である「星空間66号・Salute小劇場」は「大世界」という1917年に建設された歴史ある建物の4階にあります。「大世界」は大型室内遊戯場として開園しましたが、改造、休業を経て、現在では複数のステージ・劇場が入居する独特の施設となっています。
「大世界」上海市黄浦区西蔵南路と延安路の交差点


「大世界」の内部は吹き抜けになっており、ステージ付きのビアガーデンのようになっています。


現在「大世界」の4階には8つの常設劇場が設置されています。「スリル・ミー」(危険遊戯)の常設劇場は一番奥にあります。


「大世界」は非常に大きな建物です。舞台終演後、出演者は「大世界」の裏口から出てきます。裏口の周りには出待ちをするファンが50名ほど集まっていました。


「スリル・ミー」の出演者の2人が出てきたのは終演から約30分後、22時頃でした。2人が一緒に裏口から出てきて、裏口から少し離れた壁際に移動します。壁際に立つ2人を取り囲むような状態で、屋外ファンミーティングのようなことが始まりました。


俳優2人は壁際に並んで立ち、マスクはつけていますが撮られてもいいようなおしゃれな私服を着ています。ここから15分弱の「歓談タイム」が始まります。主に俳優2人が話していますが、ファンが質問のような言葉を投げかけると、それに俳優が答えています。歓談の途中でファンから笑い声が上がりますが、いいポジションをゲットしないと、具体的に何を話しているかまでは聞こえません。


歓談が終わると、2人の俳優がばらけます。そして、ファンがチケットの半券を差し出すと、俳優がチケットにサインをしてくれます。基本的に希望者(10〜20名くらいいました)には全員サインをしていました。その後、手紙やお菓子、プレゼントを渡しているファンもいました。

俳優2人が個別に対応する時間が10分弱あり、それがひと段落すると、俳優2人が一緒に帰っていきました。「大世界」がある区画を越えて、大通りに2人が出たら、そこからは先はもう俳優に近付いたり、追いかけたり、写真を撮ったりしてはいけないという暗黙のルールがあるようです。

「スリル・ミー」はアンコールの撮影可能タイムが短いこと、「大世界」の敷地が広く建物沿いにファンが溜まる十分なスペースがあるため、終演後にこのようなファンサービスが行われているものと思われます。俳優2人はかなり仲が良さそうでした。

私が「スリル・ミー」を初めて観たのは2012年銀河劇場で韓国キャスト版を観ました。
その後、2016年7月に上海で「スリル・ミー」中国版の初演を観ています。しかし、そのときあまり良い印象を持ちませんでした。観客のマナーがあまりよくなかったのです。また、当時は作品や出演者に関する情報が少なく、単に芝居を観て帰るだけでした。
現在上海で上演されている「イマーシブ式スリル・ミー」は、公式がSNS(Weibo)に頻繁に情報をアップし、キャスト紹介、舞台裏、練習風景、キャストVlogなど様々な動画を流しています。また、定期的に新キャストを投入し、誕生日公演、特典付き公演などファンが通いたくなるイベントを公式が企画しています。公式がファンダムの形成に配慮した運営をしており、舞台の演出にもある程度反映されています。そのため、2016年に観た「スリル・ミー」とはまったく印象が異なる舞台になっています。2016年から2022年までの6年を経て、上海の商業ミュージカルは俳優の数やクオリティが上がっただけではなく、運営やサービスの面でも成長したといえます。
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明るくポジティブな台湾LGBTドラマ「帥T空姐」(ハンサム・スチュワーデス)

2022年09月07日 | エンタメの日記
最近台湾ウェブドラマ「帥T空姐」(ハンサム・スチュワーデス)を観ました。このドラマは台湾のLGBTドラマ・映画プラットフォーム「GagaOOLala」で独占配信されているドラマです。

ウェブドラマ「帥T空姐」(英語名:ハンサム・スチュワーデス) 2019年10月25日配信開始 全6話(1話約22分) 
監督:周美玲(Zero Chou)  主演:黃姵嘉(Peijia Huang)、王承嫣(Suan Wang)、岱毅(Dai Yi)
台湾LGBTドラマ・映画プラットフォーム「GagaOOLala」(https://www.gagaoolala.com/sc/home)で配信。現在第1、2話が無料公開、第3話以降は有料配信。1ヶ月のVIP会員料は6.99USドル。

なぜ2019年に公開されたドラマを最近になって観たかというと、部屋を片付けていたら2019年の台北LGBTパレードでもらった冊子が出てきて、その冊子の中でこのドラマのことが紹介されていたからです。


ウェブドラマ「帥T空姐」(ハンサム・スチュワーデス)のあらすじ
シンガポールから来た空手選手の孟蓮(モン・リエン)とバーテンダーとして働く台湾人のホリーはバーでお互い一目惚れの恋に落ちる。
空手のシンガポール代表チームの選手である孟蓮は、なかなかシンガポールを離れることができない。そこでホリーは、友人のアイディアにより、孟蓮と会う機会を増やすためキャビンアテンダントに転職することを決める。
しかし、キャビンアテンダントになるために、ホリーは“スチュワーデス”として、女性らしいメイクをし、制服はミニ丈のタイトスカート、ハイヒールで働くことを求められる。ゲイの仲間から「ニューハーフみたいだ」と笑われながらも、ホリーは試験をクリアしてついに実戦デビューする。
“スチュワーデス”としてのキャリアをスタートさせたホリーは、酒に酔った乗客から嫌がらせを受ける同僚を助けたことをきっかけに、“スチュワーデス”の制服を脱ぎ、男性客室乗務員の制服で仕事をすることになる。ホリーは本来の自分を取り戻し、“ハンサム・スチュワーデス”として本領を発揮し、その界隈で有名な存在となる。やがてホリー狙いでビジネスクラスに乗り込む女性客も現れ、ある女性実業家からアプローチされるようになる。
ホリーが“ハンサム・スチュワーデス”として多忙な毎日を送る一方、孟蓮は練習中の怪我が原因で思うように空手ができなくなる。失意の中にある孟蓮のもとに、ホリーが女性実業家と親密な関係にあるとの情報が伝わり、二人の間にすれ違いが生まれる・・・。

といったストーリーです。

Youtube「帥T空姐」 予告編 1分間バージョン


コメディドラマなのでやや誇張された表現もありますが、同性間の恋愛と職場におけるジェンダー問題がコミカルかつテンポよく描かれます。
孟蓮とホリーはドラマの冒頭からカップルとして成立し、第1話からキスシーンが2回くらいずつあります。

このドラマが公開された2019年は台湾で同性間の結婚が合法化された年です。
周美玲監督はインタビューの中で、「2019年は台湾のLGBTにとってマイルストーンとなる一年だけれど、まだ多くの課題がある。」と語っています。
その一つが、2019年の法制化当時は国際結婚にハードルがあり、ドラマの中でも台湾人のホリーとシンガポール人の孟蓮は台湾でも結婚できないということが語られています。

周美玲監督監督は同性パートナーがいることを公表している女性監督です。
“ハンサム・スチュワーデス”を演じた王承嫣(Suan Wang)は元台湾アイドルグループ「黒Girl」のメンバー・小蠻で、実生活では2020年に結婚し女の子を1人出産しています。空手選手の孟蓮を演じた黃姵嘉(Peijia Huang)は多数の映画・ドラマに出演しており、金馬賞、金鐘賞などで受賞・ノミネートされたことがあります。主演の二人はLGBTというわけではないです。

「帥T空姐」は明るく楽しいLGBTドラマです。
主人公のホリーは同性愛者であることを隠しておらず、親や友達みんなに受け入れられており、女の子たちからもモテる人気者です。台湾アイドルドラマのテイストがする漫画チックでポジティブなドラマです。

ドラマタイトル「帥T空姐」にある「T」は、中国語圏では女性同性愛者の中で男性的な側に立つ方を指す俗語です。「帥T」はイケてる“T”、ハンサムな“T”という意味です。「T」の対照となるのが「P」ですが、「P」よりも「T」の方が言葉として使用頻度が高く、「鉄T」「奶T」「台T」といった単語があります。

「空姐」は中国語でスチュワーデスを意味します。男性CAは「空少」です。
中国の航空会社は男性客室乗務員(空少/コンシャオ)の比率がかなり高いです。
例えば、中国国内線の場合、客室乗務員が4人いるとすると、必ず1人は男性です。男性客室乗務員が2人以上いるときもあり、座席によっては男性客室乗務員しか視界に入らないときもあります。
中国系の航空会社に男性客室乗務員が多いのは、乗客とのトラブルや犯罪が発生したときに男性乗務員の方が便利という発想からきているもので、必ずしも職種の男女平等に配慮したわけではありません。
実際、機内持込み荷物の上げ下ろしなど男性のほうが向いている作業もあり、中国では男性客室乗務員が広く浸透しています。

また、上海のデパートの化粧品売場にはよく男性の美容部員が配置されています。
特にDiorなど欧米系のメーカーはその傾向が強く、メーカーの方針で必ず1人は男性の美容部員を配置する決まりになっているのかな?と思うほどです。
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ミュージカル「アポロニア」(ミア・ファミリア中国版)~Kミュージカルの中国進出

2022年08月29日 | エンタメの日記
ミュージカル「アポロニア」の上海8月公演を観てきました。この作品は韓国ミュージカル「ミア・ファミリア」の中国版で、2020年8月に上海初演が上演されて以来、現在に至るまでロングランを続けています。


ミュージカル「アポロニア」(中国語タイトル:阿波羅尼亜/阿波罗尼亚)韓国ミュージカル「ミア・ファミリア」の中国版。
原作脚本:Lee Hee-joon  音楽:Park HyunSuk  出品:Hong Company
上演時間:約120分(途中休憩なし)
上海常設劇場:上海星空間1号・一台好戯小劇場(住所:上海市漢口路650号亜州ビル4階。人民広場駅から徒歩3分)


チケット価格:カウンター席(ドリンク付):380元、コーナー席:380元(ドリンク付)、酒箱席前列:280元、酒箱席後列:200元
日本円換算:380元→7000円 280元→5200円  200元→3700円
現在の為替レートで円換算すると高めに出ますが、上海のエンタメ市場の相場からすると高い値段ではなく、リピーターが通える値段設定です。席数は100席強。


韓国ミュージカル(Kミュージカル)は2016年前後から少しずつ中国に輸入されていますが、2020年頃から演目ごとに常設劇場を設置するという手法が定着したことにより、上海ではちょっとしたブームになっています。
数ある演目の中で商業的に最も成功しているのがこの「アポロニア」(ミア・ファミリア中国版)だと思います。
「アポロニア」の常設劇場は、上海の中心地・人民広場エリアにある商業ビルの4階にあります。同じビルの1階、2階、5階、7階、11階も劇場になっており、「劇場マンション」と化しています。
作品の舞台が「アポロニア」という名前のバーなので、観客は作品世界の一部にいるような感覚で鑑賞できます。






Kミュージカルは作品の舞台が欧米など韓国以外であるものが多いので、歌詞やセリフが中国語化されていれば、観客は原版が韓国ミュージカルであるということをほとんど意識せずに作品を観ることができます。

「アポロニア」の舞台設定とあらすじ:
1930年代大恐慌下のニューヨークのバー・アポロニア。禁酒法のもとマフィアが横行し、アポロニアもマフィアの手に渡ろうとしている。アポロニアの役者・リチャードは観客との約束を果たすため、最後まで舞台をやり抜こうとするが、同僚のオスカーは結婚に逃げようとしている。アポロニア最後の日が近づく中、マフィアの一味・スティーブが店に現れる。スティーブは自ら持参した脚本をリチャードらに演じさせようとする。演者の数が足りずスティーブも巻き込んで3人で舞台を作ることになる・・・。
リチャードの舞台に対する執着、オスカーとのすれ違いと友情をベースに、よそ者・スティーブを加えた3人で、さまざまな劇中劇が展開されます。劇中劇はマフィアに関するストーリーで、女装がやたらに多いです。

中国人キャストは歌、芝居、ダンス、ルックスともに申し分ない実力です。特に、リチャードを演じたミュージカル俳優は若く美形で細身のスタイルで、女装がものすごくきれいでした
中国に輸入されるKミュージカルの多くは、基本的に演者が男性のみ、2名または3名など少人数の演者で構成されており、一つの役に複数のキャストが用意されており、毎日キャストが変わります。
劇場入口に掲示される「今日のキャスト」


リチャード役のキャスト  オスカー役のキャスト
  

つまり、女性リピーター客を取り込むことを想定しており、キャスト目当てで通うリピーターをどれだけ掴めるかが成功の鍵になります。
俳優と観客の距離は非常に近く、カウンター席に座れば、その距離はわずか1メートルほどです。
私が観た回も、カウンター席で観ているお客さんの大半はリピーターのようでした。フィナーレには撮影可能タイムが設けられており、あれだけ近距離にいるのに一眼レフカメラを構えて撮影している女性客が多かったです。


現在、多くのKミュージカルが中国に上陸しており、一種のブームになっています。しかし、すべての演目が興行的に大成功するとは限りません。
現在上海で上演中のKミュージカルは以下の演目がありますが、長期公演で平日でも満席にできる演目は多くはありません。
「ミオ・フラテッロ」(中国版タイトル:「サンタルチア」)
「天使について~堕落天使編~」(中国版タイトル:「堕落天使」)
「銀河鉄道の夜」(韓国版)(中国版タイトル:「銀河鉄道之夜」)
「ザ・フィクション」(中国版タイトル:「小説」)
「ブラックメリーポピンズ」(中国版タイトル:「水曜日」)※10月から成都。

このようなモデルの公演では、お客さんはキャスト目当で通うはずです。
そうなると、出待ちなどのときにキャストにプレゼントを渡したり、連絡先を交換し合っているのではと想像していたのですが、意外とそんなことはなく、秩序が取れた健全な現場でした。
公演終了後、約15分ほどでキャストが正門から出てきます。
出待ちをしているお客さんはかなりいましたが、遠巻きに見送るだけで、キャストに近づいたり、追いかけたりするファンはおらず、独特の雰囲気の中でマナーが守られていました。
キャストの1人は電動バイクで通勤しているようで、もらったお花を電動バイクに乗せてすぐに帰っていきました。
もう一人のキャストには、すごくスタイルの良い目立つ女の子がテイクアウトしたドリンクのようなものを渡して、やや親し気に話をしていました。
一瞬彼女かな?と思いました。まさか、堂々と彼女と一緒に帰るのか?と思いましたが、さすがにそうではなく、キャストは一人で帰っていきました。
正直、出待ちなどの場でキャストがもっとファンサービスをしているものと思っていました。
もちろん、2020年の初演から2年も経っているので、いまのような秩序ある状態になるまでには紆余曲折があったかもしれません。
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台湾オーディション番組「原子少年」決勝戦を終え「天王星」のデビューが決定

2022年07月25日 | エンタメの日記
4月17日に放送スタートした台湾ボーイズグループオーディション番組「原子少年」(ATOM BOYZ)が決勝戦を終え、デビューグループが決定しました。決勝ステージで1位となり、デビューグループを果たしたのは「天王星」(URANUS)です。


「原子少年」は80名の男子がグループデビューをかけてパフォーマンスを競う台湾のオーディション番組です。
 (詳細は過去記事をどうぞ:台湾ボーイズアイドルオーディション番組「原子少年」(ATOM BOYZ)放送スタート
いわゆる「PRODUCE 101」フォーマットとは異なり、最初から参加者が8つのグループに分けられており、グループ単位で競い合います。
80名の参加者は、太陽系の惑星である水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の8グループに振り分けられ、初期段階では各グループに10名のメンバーがいます。
それぞれのグループに特徴・コンセプトがあります。最初はコンセプトに合わせたパフォーマンスが展開されていましたが、準決勝以降は「純KPOP」といっていいスタイルになっていました。

●番組の流れ
番組の本編は「原子少年ATOM BOYZ」公式YouTubeチャンネルで視聴できます。
https://www.youtube.com/channel/UCQarhowx2x0qbeB8d4AeUZQ

EP1/EP2:8つの惑星のお披露目パフォーマンス(過去記事
EP3/EP4/EP5:8つの惑星+台湾の先輩アイドルとコラボパフォーマンス(過去記事
EP6/EP7:8つの惑星が2グループずつの組になり、ダンスとボーカルに分けたパフォーマンスで競い合う。天王星+地球、火星+土星、木星+海王星、金星+水星が組みになる。最下位になった木星と海王星が敗退し解体される。残りの惑星は6つなので、木星から3人、海王星から3人が選ばれ、他の惑星に移籍する。
EP8/EP9:残った6つの惑星が本来のコンセプトとは異なるスタイルでパフォーマンスを披露。土星が敗けて解体される。4名の審査員に救済された4名が土星から別の惑星に移籍する。
EP10/EP11:準決勝。地球、水星、金星、火星、天王星の5グループが参戦し、点数が最下位だった火星が敗退。
EP12(7月17日放送)決勝:地球、水星、金星、天王星の4グループが決勝に進出。天王星が地球に僅差で勝ってグループデビューする。

●「原子少年」の特徴
・パフォーマンスで使われる曲を番組の音楽スタッフがオリジナル制作している。KPOP調の楽曲が多いですが、全体的に曲がいいです。
・コロナの影響により番組の進行が大幅に遅れた。2020年12月には参加者80名が確定しており、制作発表会も開かれたが、コロナの影響で撮影が1年近く延期された。正式に放送がスタートしたのは2022年4月17日。番組が始まるまでの1年余りの間に予備活動が行われており、オーディション番組の定番である「全員参加テーマ曲」のパフォーマンスは、正式に放送がスタートする前にYoutubeで公開された。
・番組がやっとスタートしたと思ったら、オミクロン株の大流行を受け、参加者から陽性者が大量発生。番組収録が一時中止され、番組後半は参加者がマスクをしたままのシーンが目立った。
決勝戦が生放送ではなかった。決勝戦は7月17日に放送されたが、収録されたのは6月10日。

決勝戦が生放送ではなかったため、視聴者一般投票の影響は相対的に小さいです。
決勝では、水星、地球、金星、天王星の4グループが競い合い、番組審査員、トレーナー、現場観客などの投票により優勝グループが決まりました。順位はグループ単位で争われ、個人の順位は出ません
決勝戦でトップの点数を出し、デビューグループとなったのは「天王星」です。
天王星デビューメンバー:高胥崴、小孩、蔡承祐、高有翔、吳昱廷、金雲(木星から移籍)、唐立傑(土星から移籍)の7名。

※上の写真は天王星の初期メンバー。

天王星は「ヒップホップアイドル」をコンセプトにスタートしたグループですが、天王星をデビューに導いたのは小孩(シャオハイ)です。
小孩(KID) 本名:何世華 170㎝/55kg 2002年4月10日生まれ


番組スタート時、天王星の人気は最下位でした。ところが、パフォーマンスを重ねるごとに、小孩(シャオハイ)の人気が上がり、最終的には圧倒的な支持を集めて天王星をデビューに導きました。小孩は小柄ですが、表情の作り方がうまくて舞台度胸もあり、「台湾にこんな子がいるんだ」と見る者を驚かせる存在でした。声質にも特徴があり、やや高めのトーンのラップは聞き取りやすくトレーナーから高く評価されていました。
天王星のメンバーの一人、高胥崴(ガオ・シューウェイ)は1998年生まれ(現在24歳)、179cm/66kg、社会人として保険会社に勤務しながら番組に参加していました。本人もまさかデビューできるとは思っていなかったようですが、努力家で、1回目の公演から最後の公演まですべてメンバーに選ばれる実力派です。

決勝戦の点数は、天王星と地球が僅差で、番組側としては本当は地球を勝たせたかったのかなという気がします。
「地球」の決勝進出メンバー:林佳辰、周祖安、周子翔、傅俊傑、陳廷軒、林煥鈞、黄文廷


地球には番組側が一番推していた林佳辰(リン・ジャーチェン)がいます。
林佳辰(リン・ジャーチェン) 180cm/64kg 2000年6月5日生まれ 


林佳辰はアイドルらしい華やかな顔立ちで、身長が高くスタイルもいいです。歌・ダンスともに一定以上の実力があり、目立った短所はありません。誰が見てもアイドルの素質十分なのですが、パフォーマンスの中でものすごく目を引く瞬間があったかというと、自分を出しきれていないようなところがありました。他の参加者が体当たりで挑んでいたこともあり、パフォーマンスでのインパクトが若干弱かったです。
さらに「地球」には、練習生歴が長く安定した実力を持つ林煥鈞が途中から移籍したことにより、番組側は「地球」をデビューさせたいんだろうなと思っていました。

金星:中性美をコンセプトとする金星。実力のバランスとコンセプト表現力はダントツでした。「原子少年」を面白くした最大の功労者は金星だと思います。


「金星」の決勝進出メンバー:藍弟、巴比(Bobby)、鄭明德、Nelson、許孟維、廖學文、蔡朕
プロのダンス講師でもある実力者・藍弟(ランディ)を中心として、ダンス、ボーカルの実力者が揃っており、パフォーマンス度胸が最強でした。
巴比、廖學文、Nelsonの歌唱力に、蔡朕(ツァイ・ジェン)の個性的でセクシーなダンス、他のグループとは一線を画す表現力を見せつけていました。

その他には、海王星から地球に移籍し「色気の教科書」と呼ばれた周子翔、まだ高校生ながらダンスの実力者・水星の林毓家李秉諭、182cmのモデル体型でワイルドなパフォーマンスをする火星の夏浦洋など、各グループに実力、個性のある参加者がたくさんいました。

「原子少年」からは2つのグループがデビューします。
1つは決勝戦で優勝した「天王星」です。もう1つは現在行われているネット人気投票の結果により決まる、5人組のグループです。
投票期間は2022年7月18日12:00から8月10日23:59までです。人気からすると、林佳辰と林煥鈞が入るのは確実と思われます。5位はかなりの接戦になると予想されます。
2022年7月24日時点の投票結果。投票締切まであと17日。「原子少年」投票公式サイト:https://atomboyz.beanfun.com/
「地球」のメインメンバーであった林佳辰、黄文廷、周祖安、林煥鈞、周子翔の5人が現在人気投票上位に入っており、ファンは「地球」をデビューさせようとしているのかもしれません。
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ロックダウン後の劇場再開 上海バレエ団「椿姫」〜男性ダンサー呉虎生を中心とするバレエ団

2022年07月17日 | エンタメの日記
2022年4月から2ヶ月に渡って続いた上海市のロックダウンが解除され、7月8日より映画館、劇場、娯楽施設の営業が再開されました。
しかし、娯楽施設が営業再開した途端にカラオケスナックからクラスタが発生したこともあり、娯楽、エンタメ関連の復活の足取りは鈍いです。映画館も一応再開されていはいますが、一部の区、エリアではまだ休業が続いています。
そんな中、7月8日からさっそく公演を再開したのが上海バレエ団でした。
上海バレエ団は7月8日、9日の2日間、全席80元(日本円約1500円)という破格のチケット価格でバレエ「椿姫」を上演しました。チケットは7月1日に発売され、発売開始から5分で全席完売しました。

上海バレエ団(上海芭蕾舞団)オリジナルバレエ「椿姫」(中国語:茶花女) 公演日:2022年7月8日、9日
監督:デレク・ディーン 音楽:カール・デイヴィス  チケット価格:全席80元(日本円約1500円)ロックダウン解除特別価格
配役:アルマン:呉虎生、マルグリット:戚氷雪
会場:上海文化広場  上演時間:約100分 19:30~21:30(途中10分休憩2回)




上海バレエ団は1979年に設立されたバレエ団で、現在70名ほどのダンサーが所属しています。
中国には現在10を超えるバレエ団がありますが、創設時期が比較的早い五つのバレエ団が「中国五大バレエ団」と呼ばれています。北京を拠点とする中国中央バレエ団、上海バレエ団、遼寧バレエ団、広州バレエ団、天津バレエ団が含まれます。
1959年に設立された「中国中央バレエ団」(中国中央芭蕾舞団)が最も古く、中国で唯一の国立バレエ団です。上海バレエ団を含むその他のバレエ団は、地元市政府からのバックアップを受けており、一種の「公立」バレエ団といえます。
2000年以降、中国各地に次々と新しいバレエ団が設立され、蘇州バレエ団、ハルビンバレエ団、重慶バレエ団、蘭州バレエ団等が生まれ、現在中国全土には10余りのバレエ団が存在します。

上海バレエ団には、2名の「ファースト・プリンシパル」が在籍しています。
女性ダンサーの範暁楓( ファン・シャオフォン/FAN Xiaofeng)と男性ダンサーの呉虎生(ウー・フーシュン/WU Husheng)です。
範暁楓は長年上海バレエ団のトップダンサーとして活躍してきたバレリーナで年齢は現在40代前半、2017年頃に大きな怪我をしたこともあり、主役からは退き「名誉プリンシパル」的な存在となっています。

現在、実質的に上海バレエ団のトップとしてバレエ団を牽引しているのが男性ダンサーの呉虎生です。
呉虎生は1986年生まれ、今年36歳、具体的な身長は諸説ありますが186㎝または184㎝と言われています。
舞台に呉虎生が出てくると、誰が見ても一見して「背が高い」と分かる身長です。初めて見たとき、「え、こんな背が高くて足が細い人がバレエをやるの」と思いました。エキゾチックな顔立ちで、手足、特に腕が非常に長く、小顔です。「椿姫」の貴族アルマン役では黒いスーツの衣装が多かったですが、黒スーツで踊る姿は昨今のKPOPアイドルのようでした。遠くからみるとTOMORROW X TOGETHERのヨンジュンみたいなかんじでびっくりしました。

呉虎生の相手役として、現在ほとんどの作品で主役を務めているバレリーナが戚氷雪(チー・ビンシュエ/QI Bingxue)です。戚氷雪は1996年生まれ、上海バレエ団の最も若いプリンシパルです。
公式サイトの団員紹介によると、範暁楓と呉虎生2名の「ファースト・プリンシパル」のほか、10名のプリンシパル、9名のソリスト、42名のアーティスト、7名のキャラクター・アーティストという、約70名で構成されています。
公式サイト団員紹介 http://www.shanghaiballet.com/shblwt/n7/n15/index.html

上海バレエ団の最近の演目は基本的に呉虎生と戚氷雪のコンビが主役を努めており、「役替り」を設けることはありません。
呉虎生と戚氷雪。20歳差のコンビ。二人とも上海バレエ団付属の舞踏学校出身。


48羽の白鳥の群舞が見どころの上海版「白鳥の湖」 2022年7月15日、16日上海大劇院で上演。カーテンコールは撮影可。白鳥の群舞には日本人バレリーナも参加しているようです。


中国のバレエ団の特徴 舞踏学校
上海バレエ団には付属の舞踏学校があります。もともと中国のバレエ団は舞踏学校とセットで設立されています。
舞踏学校は7年制の教育機関で、10歳または11歳で入学し、17歳または18歳で卒業します。義務教育年齢の子どもが通うため、学校教育機関としては7年制の「中等専門学校」に分類されます。
中国のバレエ団は創設当時、旧ソ連から指導者を迎えていたことからソ連式の影響を受けており、付属舞踏学校も旧ソ連、ヨーロッパのいわゆる「バレエ学校」に倣って作られたものと思われます。

舞踏学校で指導者が生徒を選ぶ基準は、まずは身体的な条件を満たしているかだと言われています。
手、足、首が長く、頭が小さいこと」(「三長一小」)の条件を満たしていなければならず、いま主役として舞台に立っている呉虎生と戚氷雪も、とにかく手足と首が長く、頭が小さいです。
特にプリマの戚氷雪は顔立ちも美人で可愛らしく、上半身がものすごく細く、身長も高く168cmくらいあるかもしれません。主役の男女二人の背が高いので、身体的な優位性を生かしたリフトは視覚的に非常に美しいです。

男性トップダンサー呉虎生(ウー・フーシュン)の後継者は?
呉虎生は今年36歳です。長年トップダンサーとして活躍していますが、いずれはダンサーとして引退する日が来ます。
いまでも多くの作品で振付に携わっており、将来的には指導者、振付家という立場でバレエ団を支えていくと思われます。
今のところ、あまりにも呉虎生を中心とした舞台構成となっているため、呉虎生の後継者をどうするつもりなのか気になってしまいます。
上海バレエ団には現在男性プリンシパルが7名、男性ソリストが2名いますが、22歳のソリスト許靖昆(シュー・ジンクン)が後継者として期待されているのかな・・・?と思います。許靖昆は180㎝超えの身長に、まっすぐに伸びた足と長い腕、整った顔立ちをしており身体的な条件は充分です。
ただし、上海バレエ団には付属の舞踏学校があり、ほとんどの団員は付属舞踏学校から入団します。そのため、もし10代の学生の中に有望なダンサーがいるならば、その学生が卒業するのを待って、いきなり主役にしてしまう可能性もあるのでは・・・と思います。

中国における「バレエ」の位置付け
中国にはバレエ団とは別に、中国舞踊をメインとする「歌舞団」というものが存在します。歌舞団は「ダンス・ドラマ」(舞劇)というジャンルのパフォーマンスを行っており、西洋生まれの芸術として「型」の縛りがあるバレエよりも、民族的要素の強い演目を作れる「歌舞団」の方が中国では露出する機会が多いかもしれません。
上海バレエ団は、支持母体となっている上海市政府にお金がある(と一般的に思われている)ので、衣装や舞台装置は豪華で、全国巡演なども定期的に行われています。
しかし、上海と並んで「中国五大バレエ団」に属する天津バレエ団などは、天津市政府からの支援が弱いため、コロナ流行以降あまり思うような公演活動ができていないと言われています。

中国のバレエ団の個々のダンサーの実力というのは、正直よくわかりません。
国際的なバレエコンクールで入賞する中国人バレエダンサーも少なくありませんが、現在中国のバレエ団に在籍しているダンサーは大半が付属舞踏学校の出身者で、17歳か18歳で付属舞踏学校を卒業し、優秀者はそのままバレエ団に入団します。つまり、かなり閉鎖的な環境にあると思われます。
中国のバレエ団は国立または地元市政府から支援を受ける「公立」のような位置づけなので、バレエ団が集客・経営のために自ら商業的な工夫をする必要は基本的にはなく、バレエダンサー自身がメディアに出てアピールすることも多くありません。そのため、バレエダンサーのキャラクターが表に出ることはなく、ルックス以外の個性は分かりにくいです。役柄の感情表現よりも、群舞やダンサーの形の美しさに目が惹かれます。
あまり多くはありませんが、商業コラボもあります。シューズメーカー「紅蜻蜓」(Red Dragonfly)のCMに出演する上海バレエ団の呉虎生と戚氷雪。


上海バレエ団の演目
上海バレエ団は白鳥の湖、ジゼル、くるみ割り人形といったクラシック演目のほか、オリジナルバレエも上演しています。その中には、中国民族的要素、革命をモチーフとした演目もあります。最近上演された「椿姫」、「白鳥の湖」などの監督・振付は英国のデレク・ディーンが担っています。オリジナル演目の場合は110分から120分とやや短めに作られています。
中仏合作オリジナルバレエ「花様年華」(A sigh of love)1930~40年代の上海を舞台とする既婚者同士の恋愛を描くオリジナルバレエ。
「閃閃的紅星」1930年代の紅軍を背景とした有名な映画をバレエ舞台化した作品。地主からの搾取に反発し革命軍に加わる少年の成長を描くストーリー。
  
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2022年上半期大ヒットドラマ「夢華録」~圧倒的映像美の中国女性ドラマ

2022年07月06日 | エンタメの日記
7月に入り今年も前半が終わってしまいました。中国では2022年上半期のドラマ人気ランキングが発表されています。
ランキングは、視聴数、メディアでの話題性などのデータから統計されますが、ドラマの場合は配信メインで放送されたか、テレビメインか、若しくはテレビと配信のミックスかによって視聴数の計算方法が異なってくるので、絶対的な順位をつけるものではありません。また、作品ジャンルや放送形態に分けて、複数のランキング結果が発表されます。2022年上半期のヒットドラマといって間違いないのは、劉亦菲(リウ・イーフェイ)主演の古装歴史ドラマ「夢華録」です。

中国ドラマ「夢華録」(梦华录) 全40話(1話約45分) 2022年6月2日放送開始  配信媒体:テンセントビデオ(独占配信)、Netflix配信予定
主演:劉亦菲(リウ・イーフェイ)、陳暁、柳岩、林允  撮影期間:2021年2月~7月


~あらすじ~
舞台は北宋の時代の開封、杭州。ヒロイン・趙盼兒は幼い頃、官職にあった父が犯した罪により良民としての身分を奪われ、芸妓の身分に落とされる。ヒロインはやがて芸妓の身分から抜け出すことに成功するが、親兄弟もおらず、自分の力で生きていくほかない。美貌と聡明さ、自立心を併せ持つヒロインは、茶楼を開き店を成功させる。24歳になったヒロインは、結婚を約束した男性がついに科挙に合格したとの知らせを受ける。ヒロインは確かな身分と心安らぐ家庭を築くことを夢見ていたのに、人づてに結婚の約束を反故されたことを告げられる。

劉亦菲(リウ・イーフェイ)が演じるヒロイン・趙盼兒。自立心が強いが情が深く、聡明で行動力がある。


ヒロインと、実の姉妹以上の絆で結ばれた親友の三娘、幼少期からヒロインとともに過ごし、今も芸妓の身分であることに苦しむ妹分の宋引章という三人の女性が苦難に見舞われながらも、負けずに人生を切り開いていくストーリーがドラマのベースにあります。

柳岩(リウ・イェン)が演じる三娘。女性に対する社会的差別と夫からの軽視に苦しむ。直情的だががむしゃらでタフなキャラクター。


琵琶の名手・芸妓の宋引章を演じるのは多くのドラマでヒロインを演じる人気女優の林允(リン・ユン)。


舞台は北宋ですが、登場人物、特に女性キャラクターの性格や価値観は完全に現代人のものです。
女性の自立と努力、女性同士が手を取り支え合う、という現代の女性が持つべき強さがこのドラマの要点になっています。

これに加えて、ハイスペックなスキルと美貌を持つ朝廷特務機関の男が登場し、ヒロインとの命がけの恋愛が進行します。
陳暁(チェン・シャオ)が演じる特務機関の指揮官・顧千帆。顧千帆は蒔絵「夜宴図」を手に入れるという任務もあり、絵には皇后の秘密が隠されているというミステリー的な展開もある。


「夢華録」の映像は徹底的に美しいです。ですが、映像が徹底的に美しいということは、中国ではドラマがヒットするための最低条件です。
ヒットさせるためには、過去のあらゆる作品を超えるほどの美しい映像を作らなければなりません。
「夢華録」は舞台が北宋の開封、杭州であることを明確に表しています。
しかし、歴史好きの視聴者からすると、「こんなことが北宋で起きるはずがない」とかなりの違和感があるようです。
例えば、「夢華録」ではヒロインが女手一つで商売を興して成功させますが、北宋の時代に女性が自由に経済・商業活動に従事するというのは考えにくいと言われています。また、身分差別についても、実際にはドラマで描かれるよりも遥かに苛酷なものであったと言われています。

ヒロインを演じる劉亦菲(リウ・イーフェイ)は非常に有名な中国人女優です。ディズニー実写版「ムーラン」で主役のムーランを演じています。
リウ・イーフェイ(劉亦菲)1987年8月25日武漢生まれ 身長170㎝ 中学まで米国で過ごし米国籍を持つ。


ヒロインは24歳の設定ですが、34歳のリウ・イーフェイが演じています。
リウ・イーフェイは15歳でドラマデビューし「夢華録」放送中にデビュー20周年を迎えました。15歳で初出演したドラマでも中高生の役を演じていたわけではなく、結婚適齢期の名門の令嬢役でした。若い頃から大人っぽい容貌で、20年経ってもあまり変わっていません。
デビュー作 2003年放送のドラマ「金粉世家」。中華民国期の名門の令嬢・白秀珠役。いまも語り継がれる伝説の縦ロール。


主人公・顧千帆を演じる俳優陳暁(チェン・シャオ)も、リウ・イーフェイと同じく1987年生まれです。陳暁はすごく若く見えます。キャリアの長い俳優で多くの映画・ドラマに出演しています。実生活では、2016年にドラマで共演した台湾女優ミシェル・チェンと結婚しています。

2022年上半期に放送された中国ドラマの中でランキング上位に上がっているのは、「夢華録」以外に以下があります。
「且試天下」:楊洋(ヤンヤン)と趙露思の古装ラブストーリー(ファンタジー時代劇)。
「重生之門」(BE REBORN):TFBOYS王俊凱主演のミステリー刑事ドラマ。過去記事
「開端」(リセット):趙今麦と白敬亭主演のバス爆発を巡る超現象推理ドラマ。過去記事
「余生、請多指教」:肖戦(シャオジャン)と楊紫主演の現代ものラブストーリー。肖戦が医師役を演じる。


コメント (4)
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