中国ネット金融

中国のソーシャルレンディング(P2Pネット金融)、キャシューレス、金融イノベーションに関する情報を時々発信します。

中国ネット企業に関する規制の最新情報

2020-11-12 16:36:20 | 中国ネット企業に関する規制

 いつものように全く前触れもなく中国のネット界隈では日進月歩的に変化している。下記の2つのできことは小生が特に関心を持っていたものである。メモ代わりで申し訳ない。

 

消え去る中国のソーシャルレンディング

 『中国証券報』の報道によれば10月22日2020金融街論壇年会の席上に、中国銀行保険管理監督委員会の副主席梁涛氏は、中国のネット金融における金融リスクがかなり取り除かれ、全国のソーシャルレンディング(P2Pネット金融)のプラットフォームの数が全盛期の5000社から9月末に6社まで減少し、貸出総額も貸し手・借り手の人数も27ヶ月連続して減少してきたと発言した。この調子で行けば年末にはP2Pネット金融は中国から本当に姿が消えることになると思う。中国規制当局の執行力に感嘆するしかないが、なぜ規制がここまで遅れていたことについての疑問が依然残るだろう。

 手元に資料が欠けていて、来年の年初に資料が集められたら今年の中国ソーシャルレンディングを纏めたい。

 

大手プラットフォームに関する規制

 11月10日に国家市場管理監督総局は「関於平台経済領域的反垄断指南(征求意見稿)(経済領域プラットフォームの独占禁止に関する指針、意見収集バージョン)」を交付した。

 ここの経済領域プラットフォームはアリババやテンセントを代表する中国の大手ネット企業を指す。

 日本ではGAFAやBATのような大手ネットプラットフォーム企業が誕生できなかったことに悩んでいるが、アメリカと中国のほうが今むしろこれらの実質の独占企業の潜在パワーに危惧している。先月試行に邁進したデジタル人民元はアリペイやウィチャットペイに対抗するのが一つ重要な目的であったように、これから中国の規制当局はいかにしてこれらのプラットフォーム企業の良い面を引き出し、マイナス面を抑えることに腐心するだろう。しかし、アメリカがアマゾンやグーグルを規制することがなかなか良い結果を齎せなかったように、中国も大手プラットフォーム企業に対する規制はまさにこれからであろう。


アント・グールプの上場延期の理由

2020-11-05 12:07:53 | 雑想

 昨日大きなニュースが飛び込んできた。アント・グールプが上場直前に延期されてしまったという普段じゃ考えられないものだった。もちろん、中国でも初めてのケースだった。

 

「アリペイ」、上場計画延期 当局が慎重姿勢に転換か 中国

https://news.yahoo.co.jp/articles/23b15bfc8269e10a01b74c1c6b0acd691811dfbb

 

 上場を決定し、抽選当確まで発表した後、中央銀行(中国人民銀行)、中国銀行保険管理監督委員会、中国証券管理監督委員会、国家外貨管理理局という4つ金融規制部門が一斉にアント・グールプの実際の所有者馬曇、会長井賢棟、社長胡暁明を招集し、話し合った結果、上場を延期することに決まった(実際決定を発表したのが上場先の上海証券取引所、香港証券市場に上場するH株に関してはアント・グールプが自主的に延期を要請した)。アントといえば、世界最大のユニコーン企業、キャッシュレスの流れを作り出した企業、世界最大かつアメリカ以外で実現するIPO、などなど、中国のIT企業のなかでも宇宙人だった。

 上場延期の理由については多くの識者が語られていたが、個人的な意見をちょっと述べたい。結論からいうと、中国の金融規制当局が金融全体のシステムティック・リスクを恐れていたではないかと思われる。

  アント上場にストップをかけたと同時に、銀行保険管理監督委員会と人民銀行が連名で『網絡小貸業務暫定管理方法(ネット金融少額貸金業暫定管理方法)』を公布した。暫定条例とはいえ、一ヶ月後12月2日に執行予定で、これは明らかにアントのためのものである。新しい規制の中に最も重要なところはネット金融少額貸金業の資本金が30%以上でなければいけないということである。アントの貸業務部門が立ち上がった当初、30億元の資本金と60億元の銀行借り入れをもとに少額貸金業を行った。獲得した債権を証券化(ABS)し、得られた資金がさらに貸し出しを行う。それを繰り返しして、業務を拡大していた。最大の時、40回証券化し、3600億元の貸し出しを行い、120倍のレバレッジを行った計算になる。このために2017年に規制当局に指摘され、急きょ300億元まで資本金を増強した節があった。今もそうであるが、貸金業の規制の中に証券化の回数に関するものがなかった。

 しかし、2020年現在、アントの貸し出しがすでに1.8兆元になったが、資本金がまだ300億元ままで、単純に計算すると60倍のレバレッジである。仮に10倍のレバレッジ比率に戻すためにはさらに1500億元の増資が必要になるが、今のアントにとってはお金を集めるのがそれほど問題ではないが、問題は利益率である。2017年300億元に増資すると、純利益率が2017年16.7%から3.6%までに急落し、2020年上半期の純利益が33.7%、増資すれば半分の17%まで下落することがありうる。そうすればアントがハイテクなネット金融企業から一瞬に普通の消費者金融会社に変身してしまうではないかと危惧されている。そうすると、今上場の際、50倍のPERというIPO発行価格が合理的であるかどうかという問題が出てきた。

 アントといえば「アリペイ」というキャッシュレスというイメージが強いが、実際は利益の半分がネットショッピングタウバウによる消費金融によるものである。半分キャッシュレス、半分カードローンの会社と思えばわかりやすい。

 100倍どころか、60倍のレバレッジ比率は今の中国の規制当局には認めることがまずないだろう。なんだかの理由でアントが傾いた場合、60倍のレバレッジ比率では中国の金融システムにシステマティック・リスクをもたらすことにちがいない。アントの上場は延期であって取り消すことはないが、半年ぐらい遅れるのが大方の予想である。アント上場延期はまさに金融セクターが規制に大きく左右されるということの克明な実例である。