スペインサラマンカ・あるばの日々

スペイン語留学の街、サラマンカより、地元情報とスペイン文化、歴史に関する笑えてためになるコラムをお届けしています。

年末になると出てくるあの人は誰だ?

2016-11-04 21:55:25 | スペインがお題のコラム

ハロウィン騒ぎにごまかされてたけど、もう年末はすぐそこ。
クリスマスグッズや菓子なんぞはとっくの昔に販売開始。

そして…来年用のシステム手帳や、カレンダー。
スマホの普及で随分少なくなったというけど、意外と根強く人気だそうで。

近所の古い文房具屋がさっそく売り始めた模様。

ジジババの多い、保守系の街らしく「イエスの言葉日めくりカレンダー」
「ローマ法王御姿カレンダー」などが定番で売ってる。
そして毎年みかける、このオレンジの暦本らしきもの…



これ。
表題 「サラゴサノ・カレンダー/天文暦/スペイン全土カバー2017年版」

http://www.discimadevilla.com/imagenes/9788493/978849387498.JPG

この時期になると本屋やキオスクでちらほら見かけるんだけど…誰だ?このおっさん?
更に違うバージョンまで出てる。↓ 壁掛け用

http://www.calendadistribuciones.com/images/upload/calendario_zaragozano_pared.jpg

↓生活暦+天文暦セットでお得(微妙に何がお得なのか知らんが…)

http://www.discimadevilla.com/imagenes/9788493/978849387497.JPG

まいっ年毎年、この古本屋から出てきたようなデザインの小冊子を見かける年末。
現地人に聞いても意外に“へ?”って感じで知らない人が多い。

で、結局何かというと、
この方↑はマリアノ・カスティージョ・オクシエロ氏というサラゴサのとある村出身の方。

http://www.calendariozaragozano.net/upload/mariano_castillo_ocsiero.jpg

すでに19の齢から気象学を学び、独自の研究、調査により、天気予報システムを開発。
これで一儲けできるかも?と1840年(天保11年)にこの予想を含めた天文暦の発売してみた。

それがなんと初版から農村間で爆発的に売れた

日本でいえば江戸後期。気象衛星もアメダスも、お天気お姉さん何もない時代。
その年の植付、収穫時期の決定に、農村の人々は頼るもの一切なし。せいぜい“村の古老の記憶”ぐらい。
そこに現れたこの小冊子。大変な信頼を受けたらしい。

“スペインのコペルニクス”なる、立派な紳士による天気予想。
日々の天文暦…日の入没の時間、星座、月の満ち欠けなど。
そして教会暦。日々の聖人名。(←どっぷりカトリックなこの国では重要)
スペイン全土における守護聖人聖女の日暦。
また全国で開かれる農作、畜産市のカレンダー。
ちょっとした諺や格言。

http://3.bp.blogspot.com/_-XmwcaRvP9c/TFnnaop5fTI/AAAAAAAABzs/HDUjUkCFl9g/s1600/ago10.jpg

まさに実用一筋、ためになる小冊子!
農村各家庭には、恐らく聖書の横に必ずや見かけられたものと思われる。
(以前も書いた通り、スペインの文盲率は1900年で45%だったのだが…)

…それが初版から170年以上経ち、
表紙のデザインはちっとも変わらず、
天気予想のシステムも変わらず(著者の子孫が受け継いでいる模様)、
なんと未だ年間発売部数16万部越え!! 日本のヘタなトレンド情報誌より売れてるし!
信仰に近い信用を得てるのか?この暦本。

なんか日本で年末年始にみかける高島暦を思い出すな…↓

http://suzuran-kigyo.co.jp/miyawaki/wp/wp-content/uploads/2012/09/IMG_0533.jpg

ま、それはおいといて。

現在では、このサラゴサノ・カレンダーなるもの、もちろん出版社のHPもあり、
詳しくのその歴史等を語っている。そして読者の方々とのエピソードも。

“ピレネー山脈にある小村より、毎年家族で街に買いに行きました…(90才の女性より)”

“ソリアの村々では毎年盲目のおこもさんが売りに来ており、道迷いをせぬようにとロバを貸したものでした(95才男性より)”

“自分の生まれ年の冊子を購入されたいというご希望を、多く承っております…”

などとなんとも牧歌的なしみじみな話を紹介している。
長年、スペインの農村の風景の中に溶け込んできた小冊子。ほぼ博物館行きながら未だ健在。

筆者、マリアノ氏はその生涯にてしっかりと成功を収め、若い婦人と三度も結婚し、54才にて逝去。
病床にあった最後の日に残した、大きな被害与える雹が降る…という遺言はしっかり当たったらしい。