細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

「今後の山口システムに期待すること」

2018-04-02 07:08:31 | 研究のこと

山口県で田村隆弘先生を会長に実施されている、コンクリートよろず研究会の二期目のとりまとめの時期に入っており、報告書へ私も寄稿するように依頼を受けました。表題のタイトルで、以下の寄稿をしました。

「山口システムとは何か。最近は,通称で「山口システム」と呼ばれることも多くなってきた。通称であるから,人によってこの言葉からイメージすることは異なるであろう。ここでは,私の思う山口システムと,今後に期待することを述べる。

私が最初に山口システムに出会ってから9年が経過した。2009年3月3日のことであった。本質的な取組みをされていることに衝撃を受け,その後何度も山口に通った。途中から仲間を連れて通うようになり,山口システムのとりこになっていった。山口県の方々が思っている以上に深い本質もあることに私は気づき,表層品質の向上も定量的に証明し,皆で勉強を深めていった。ひび割れ抑制から品質確保へと展開していった。その過程で東日本大震災があり,復興道路の建設に応用され,耐久性確保へとさらに展開していった。この動きは本物である,と多くの方が感じ,群馬県でも3年間の試行を経てシステムの正式運用が間近であるし,他の自治体や,全国の地方整備局等での試行工事も始まっている。

その山口システムとは何か。橋台やカルバート等のコンクリート構造物の有害なひび割れを防止し,施工時の品質を確保することを目的とするシステムである。現場に運搬される確かな品質のコンクリート,施工が適切になされるための施工状況把握チェックシート,施工者の適切な施工計画と段取り,品質にこだわりをもつ監督員による施工状況把握,施工記録のデータベース,発注者と受注者による適切な協議,設計段階での適切な配慮,等々,その目的を達成するための手段は枚挙にいとまがない。

山口システムとは,上記の目的や手段のみの話であるか。そうではない。毎年開催されるオールプレーヤー参加での講習会,施工状況把握が形骸化していることを受けてのシステム巻き直しの過程で生まれたコンクリート品質確保推進委員の仕組み,研修に使われる目視評価,土木学会の重点研究課題でチャレンジした施工記録と維持管理の接続,東北システムへのひび割れ抑制システムの導入,群馬システム設立への貢献と相互交流,などなど,上記の目的を達成するためのありとあらゆる手段,工夫,人の交流とその結果の成長等,すべてを含むものが山口システムと私は捉えている。別の言い方をすれば,山口哲学,といって差し支えない。

山口哲学とは何か。シンプルである。正しい目的のために,正しいやり方で努力を重ねること,である。善く生きること,である。正しい目的とは,私の理解では,我が国が持続的に発展すること,である。持続的な発展,とは人によって解釈が異なるかと思われるが,私は持続的な発展のためには,良質なインフラもさることながら,人が適切に育つことが不可欠であると思っている。知性,良識,教養のある人が育たならなければならない。そのために必要なやり方を適切に選択して活用していく,それが山口哲学であると私は理解している。

さあ,目的はシンプルであるが壮大である。手段もどう変わるか分からない。手段が大切なのではなく,とにかく目的を達成すれば手段はどうでもよい。この目的のためには,新設のコンクリート構造物の品質・耐久性確保が重要なのは当然であるが,既設のインフラの維持管理も当然に重要であり,そこに関わるプレーヤーが適切に育っていくことが当然に求められる。

山口システムに関わる方々には,まずは我が国の社会システムがどうあるべきなのか,どうなっていくのか,を踏まえた上で,自分たちの活動の目的,日々の行為の位置付けを考えていただければと思う。一人で考えるのは難しいので,皆で勉強しながら理解を深めていけばよいと思う。人手不足による生産性向上の必要性が叫ばれているが,もっと大きな制約条件として資源の枯渇が襲ってくる。私は,資源の問題は,現代の人類が直面する最大級の問題であると思っている。他にも自然災害や人災など,極めて厳しいリスクが懸念される。その中で,我が国がどう進むべきか,どう変わるべきか。哲学を語りながら,日々の現場に真摯に向かい合う必要がある。

山口システムの具体においては,どのようなチャレンジがあるだろうか。本書の主題である混和材料については,様々に勉強して克服すべき課題があるだろうし,それが本書に書かれているはずである。これまで築いてきた山口システムで本当にメインテナンスフリーの構造物が構築できているであろうか?メインテナンスフリーとは,放ったらかしでいつまでも長持ちする構造物,という意味ではない。適切に維持管理段階で配慮すればメインテナンスフリーになる,という意味と捉えたい。これを達成するための課題は山ほどあると言って過言ではない。既設のインフラをどのように持続可能に維持管理していくかは,各所で闘いが始まっているがそれこそ課題だらけである。

課題があるのは当たり前である。人が,社会が,生き続ける限り,課題があるのは当たり前であり,一歩一歩課題を克服しながら歩んでいくことがマネジメントである。これまでの山口システムがそうであったように,大きな視座を持ちながら誠実に課題と向き合っていく山口システムで今後もあってほしい。私もその一員として今後もともに歩んでいく所存である。」


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