Moments musicaux

ピアニスト・指揮者、内藤 晃の最新情報です。日々、楽興の時(Moments musicaux)を生きてます。

ピアノの構造と奏法(1)

2012年02月27日 | オピニオン
 ピアノの奏法は、ピアノという楽器が音を発するメカニズムと不可分なもので、奏法と音色との関係は、すべて、ピアノの構造から見て音響学的に説明できるものです。その根拠の部分抜きに、手や指の形のみが「奏法」として独り歩きしていることには、いささか違和感を覚えます。

 先日、長野の講座でトライアングルを使用したところ、参加された先生方や、調律師のSさんからも、「わかりやすい」と大変な好評をいただきましたので、ピアノの構造と奏法の関係について、私が考えていることを何回かに分けて書いてまいりたいと思います。



 まずは、脱力についてのお話をします。

 昨今、ピアノ教育界で脱力というキーワードが声高に唱えられています。しかし、ただ脱力・脱力と言われても、雲をつかむような話で、うまく感覚がつかめずに苦労している方が沢山おられるのではないでしょうか。まず何よりも、「何のための脱力か」を認識することが大切です。

 ピアノは、鍵盤の先についたハンマーが弦を振動させ、その振動が金属のフレームや響板を伝って木のボディ全体に伝播し、音作りをしています。脱力の目的は、ひとえに、ピアノの木のボディの振動を開放して、ピアノをより豊かに響かせるためなのです。



 トライアングルを思い浮かべてみてください。トライアングルを叩くとき、棒を瞬時に離すことで、トライアングルがよく振動し、「カーン」といういい音が響きます。ところが、棒をトライアングルに押し付けたままだと、「カッ」という感じで振動が止まり、音が響きません。

 ピアノもこれとまったく同じです。鍵盤はシーソーのような構造になっており、一方に指が乗ることで、他方のハンマーが上向きに打弦します。このとき、打弦後も指がぎゅっと乗ったままですと、ピアノのボディがうまく振動せず、伸びのない苦しそうな音色になってしまいます。そこで、手の甲を上に動かして下向きにぎゅっと乗っていた力を上向きにすっと抜いてあげる(このタッチの状態は、リバウンド、Bounce Back、ハーフ・タッチなどさまざまな呼び方がされています)ことで、振動を開放し、楽器を歌わせるのです。



 ピアノの弦にはダンパー(黒い止音装置)がついています。鍵盤に指が乗るとダンパーが浮いて弦の振動が開放され、指が離れるとダンパーが元に戻って音が止まる仕組みになっています。そのとき、打弦後に最大限ピアノを豊かに歌わせるためには、鍵盤を押さえるのではなく、かろうじて鍵盤にふわっと乗っかった状態で、ダンパーが浮いた状態を保つと良いことが分かります。

 ダンパーペダル(右ペダル)を踏むと、このダンパーがすべて浮き上がり、弦の振動が開放されます。ですから、この状態で弾くときは、トライアングルと同様、打弦と同時に、瞬間的にポーンと手を離すことで、豊かな響きが得られます。旋律を浮き立たせる際、ダンパーペダルをうまく活用して、指で繋がずに、トライアングルのようにポーン、ポーンと離しながら紡いでゆくこともあります。

 慣れてくると、ピアノの振動が身体で感じられるようになってくるものです。ピアノという楽器は振動体であるという原点に立ち返り、振動をいかに開放するかを考えることが、奏法を考えるうえで最も重要なことだと思います。

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