Moments musicaux

ピアニスト・指揮者、内藤 晃の最新情報です。日々、楽興の時(Moments musicaux)を生きてます。

音楽の不整脈

2012年04月27日 | オピニオン
音楽が基本的に偶数小節ずつ進んでいくということは、皆さん無意識的に感じてらっしゃると思います。そして、多くの場合、4小節で小さなフレーズを、これがセットとなり4×2=8小節で大きなフレーズを形成します。
小節の中には強拍・弱拍があってビート感を形成していますが、その上のヒエラルキーとして、小節としての強弱があります(強小節・弱小節)。4小節フレーズには1小節を1拍とした、大きな4拍子のようなニュアンスがあり、偶数小節目よりも奇数小節目が、さらにはそのうちの1小節目がもっとも強いビート感をもつことになります。この、フレーズの中のビート感が、音楽のパルス(脈拍)を形成していきます。
規則的に4小節ずつ進行する音楽は、パルス(脈拍)が一定なので、とても心地よく流れていきますが、作品の中では、当然そうなっていない部分があります。下に挙げるのは、ちょうど最近生徒さんがレッスンに持ってきた例ですが、ショパンのバラード1番、17小節目~25小節目までのフレーズは、(2+2)+(3+2) = 4+5 = 9小節フレーズとなっていて、21小節目~23小節目までの3小節のところで、パルスのズレが発生しています。つまり、1小節1拍の大きなヒエラルキーにおける変拍子のようなもので、作曲家が音楽に不整脈を起こしていることになります。




このような不整脈を把握しておくことはきわめて大切なことです。この場合は、1小節拡大されることで、「字余り」のようなニュアンスになり、じらすような効果が生じています。逆に、「字足らず」の場合は、急くような効果が生まれます。これらは、作曲家が意識的にやっていることなのです。
経験上、譜面を前にして漫然と弾いていると、どうしても無意識のうちに4小節単位で捉えてしまいがちです。その結果、このような「字余り」「字足らず」のところで、正しい音符を弾いていても誤ったフレージングに突入してしまうという事故に陥りがちです。これは、意味のまとまりが伝わってこないカタコトの英語のようなものです。英語を習い始めたとき、長い文では、意味のまとまりごとにスラッシュを引いて、読みやすくするというような作業をしていた方も多いと思いますが、音楽の読譜においても、作曲家の思考回路に寄り添うプロセスとして、その作業がとても有効なのです。

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