ランニングおやじの野望!

50歳を目前に突然走り始めた鈍足おやじランナーのトレーニング雑記です。

『永遠のセラティ』

2007-02-26 23:52:11 | 本・漫画・映画など
ランニング文化誌『ランニングの世界』(山西哲郎編/明和出版刊) の連載で知ったオーストラリアの伝説的名コーチ・セラティ。

そのセラティから直接教えを受けた山西哲郎先生と高部雨市氏が、師のランニング哲学と実践を共著としてまとめた書。
セラティ自身の著書の邦訳『陸上競技 チャンピオンへの道」(ベースボル・マガジン社1963年) の絶版を惜しみ、その復刊を志したものの果たせず、師の自然主義ランニング思想が未来に永続していく願いを書名に込めて書かれた(と思う) のが『永遠のセラティ』(ランナーズ1989年)。

残念なことに、こちらの本もすでに入手難となってしまっており、どうしても読みたくてFコーチにお願いし、お手持ちの同書をご好意でお借りして読ませていただいた。

非常に深い内容で、一度くらい目を通して「読んだ」などとはとても言えぬ。
日常的・習慣的なランニングとは異次元の「自由で野性的で、かつ思考するランナー」となるための思想的実践の書であり、言葉の真の意味でラディカルな、根底的な鋭い問いかけに満ちている。
その書を簡略にダイジェストすることなど到底及びもつかないものの、すでに入手困難な本である以上、「自分で買って読んでください」とも残念ながら言えぬ。

大まかに紹介すると、3部構成になっている。
第1部にあたるのが<永遠のランニング編>。
第2部<自然流ランニング編>。
第3部<セラティのランニング哲学編>。

第1部は1969年、19歳の時にセラティの自宅を日本から訪ねた高部雨市氏の体験記。(実際は双子の兄・晴市氏と同行したらしいが1人称の手記として書かれている)
セラティの本に衝撃を受け、どうしても直接教えを受けたい一審で英会話がほとんどできないながらオーストラリアに飛んだ若者がセラティに会い、そのランニング思想の実際をじかに学び、魂を揺さぶられ、しかしやがて幻滅そして決別する日までを描いた青春のドキュメンタリーである。
読み進むうちに、たまらなく切なく、胸がしめつけられるよう。

第2部は自然流ランニングの箴言集ともいうべきもの。高部氏兄弟と、山西先生が3人で語り合った、セラティ哲学から見た現代のランナーへの問いかけを高部雨市氏がかなり刺激的にまとめている。

「果たしてランナーたちは自分で思考しているのか。ただ与えられたトレーニングメニューをこなしているだけではないのか。
自ら思考し、自らのトレーニング思想あるいは哲学を創りあげてこそ、はじめてランニングが芸術の域にまで到達するのではないのか」

「中年ランナーが、しゃかりきになって時計とニラメッコしても仕方のないことだ。その行為は、健康とか芸術とか人間らしさとはかけ離れた現代文明病そのものではないか。
老壮年ランナーが、苦行僧のように同じ道をグルグルと走る姿を見たくない。
残されたあなたの人生を気ままに楽しもうじゃありませんか」

第3部は、山西先生によるセラティのトレーニング法概論。
「セラティは、自然を自由に走る喜びのなかに真なるトレーニングと、チャンピオンへの道を見出した」と山西先生は強調し、セラティのトレーニング方式として2つの特性を指摘する。

①人間の動物性、あるいは自然性や感性を引き出すことがランナーとして必須だとして、そのようなトレーニングを求めた。「君は野獣だ! 豹になれ!」と。

②パワー重視。よりたくましい力強さを発揮する身体を創りあげることで、ランニングの技術水準を高める。パワーが蓄えられるからこそスタミナがつき、筋力が増せば身体の動きをコントロールできる範囲も広く大きくなる。

(その具体的内容は、いずれ『チャンピオンへの道』を紹介する際に詳述)

山西先生は10代でセラティの本(表紙が緑色) と出会い、1970年、75歳のセラティを訪ねた。(セラティはその5年後1975年に80歳で死去)

「その本をただ一つの頼りとして僕はオーストラリアのポートシーに向かった。
白い門の前で、白髪の老人から『君はなぜ、私を訪ねてきたのだ』と問われた時、英会話も満足にできなかった僕は、緑の本を取り出しながら一生懸命答えた。『この本の本当の人に会いたかったからです』」


それぞれにセラティの本と出会い、やがて遠い南半球に住む著者を訪ね、直接学んだ「弟子」たちが心の師に捧げた記念碑。

三浦しをんさんの『風が強く吹いている』は箱根駅伝を題材に、全然ランニングとは縁のなかった作家が優れた感性と丹念な取材と何よりも際立った筆力で見事にランニングの奥深い魅力を描いた傑作だが、『永遠のセラティ』はまさにランナーによる・ランナーのための・ランナーの本といえる名著である。
文庫化するなど、多くのランナーが手にとって読めることを切望する。なんとかならないものか!?

きょう、思いがけず、山西先生からお手持ちの貴重な『永遠のセラティ』をご恵贈いただいた。F-yskコーチ兼選手の恩師が山西先生というご縁による賜物。深く深く感謝申し上げる。


本日休養、体操のみ。
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