福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

「海道東征」コンサート 作品の美が呼んだ涙

2019-11-10 23:03:20 | コンサート

「海道東征」コンサート、無事終了することができました。まずは、ザ・シンフォニーホールの客席を埋め尽くし、あたたかな拍手をくださった聴衆の皆様に御礼を申し上げます。初めの頃は、「海道東征」が演奏されると言うだけでニュースとなったものですが、いまや、大阪、東京のみならず、全国各地で上演されるスタンダードなレパートリーとなりつつあり、純粋に音楽を楽しみにいらっしゃるお客様が大半となり、それは「海道東征」という作品にとって幸せなことではないでしょうか?

海道東征コンサート 壮大・華麗な交声曲に聴衆魅了 産経west https://www.sankei.com/west/news/191108/wst1911080044-n1.html

前半のシューベルト「未完成」交響曲は、最終的に予告通りのスローテンポとはならず、かつての長大なブルックナー8番(愛知祝祭管)の再現を期待されたお客様には肩透かしのような格好になりましたが、けっして妥協とではなく、オーケストラとの練習を通して行き着いたテンポであり、むしろ、新たな表現の材料を頂戴することができたと、前向きに考えております。いずれにせよ、わたしの音楽に変わりありません。いつか、当初のプランを振り通すために、もっともっと、指揮の技量やら胆力を高めていきたいと心に誓っているところであります。

メインの信時潔「海道東征」では、ソリスト陣、コーラス、オーケストラが渾然一体となり、ステージの上で大きな花を咲かせることができたのではないか? と自負しております。

ソプラノⅠの幸田浩子さんとは、過去3回の「海道東征」コンサートでもご一緒しましたが、今回もこの作品への理解と愛情の深さをその清廉かつ優美な歌唱で示してくださいました。ソプラノⅡの清野友香莉さん、アルトの石井藍さんも作品にマッチした声と表現、そして、三者によるアンサンブルも桃源郷のような美に満ちていました。独唱のうち、「海道東征」でもっとも重たい役を担うのは、バリトン歌手でありましょう。原田圭さんは、その豊かな声と表現、明晰な日本語ディクションによって、今回の演奏の頼れる推進役となりました。テノールの小原啓楼さんとは、以前共演をお約束しながら、諸般の事情からお預けになった経緯があり、偶然にも、大阪の地で念願が叶ったことをお互いに歓んだところです。輝かしく力強いい声こそ、この神話に基づく音楽のの求めるところであり、さらには第7曲「白肩津上陸」では、原田さんとのアクロバット的な二重唱を見事に決めてくれました!

初回から、ご一緒と言えば、大阪すみよし少年少女合唱団も同じです。この度は、オケ合わせ前に2回ほどレッスンに伺いましたが、団員のマナーの良さは気持ちよく、さらに助言への飲み込みと消化の速さには舌を巻くほど。そして、オケ合わせまでにわたしの要望を120%の高みまで引き上げてくださった前田章先生、中村恵美先生には感謝を捧げます。

大フィル合唱団を褒めると手前味噌のようで少々憚られますが、見事だったと呼んでも許されるでしょう。この作品を歌い込んでいることについては、全国のどの合唱団にも負けていないはずで、その表現の悉くが、内面から沸き上がってくるかに自然であったし、普段、大フィル定期ではラテン語やドイツ語ばかりを歌っていながら、日本語の発音も明瞭で、本当に指揮台の上から頼もしく眺めておりました。回を重ねる毎の成長を讃えたいと思います。第4曲「御船謡」に於ける腰の据わった「ヤー!」の声には、この掛け声に拘られていたという信時潔先生もご満足頂けたのではないかしら? 

さて、当然のことながら、大フィルも素晴らしかったです。日頃、彼らが対面している世界や日本の一線級の指揮者たちと較べてしまえば、我が哀れな指揮など「屁」のようなものだと想像しますが、それでも、コンマスの須山暢大さん以下の全員が、終始よい演奏をしようという姿勢を崩すことなく、ステージ上では表現者としての止むにやまれぬ魂をメラメラと燃え上がらせてくれました。「海道東征」で声楽陣を盛り立ててくださったのはもちろん、「未完成」では、第1楽章展開部の凄絶さ、第2楽章の目眩く転調の妙など、一流のプロにしかなし得ない境地を間近に聴かせて頂けたことは幸せでした。

終演後、直接、間接に多くのお客様よりの感謝や感動のお言葉を頂戴することができました。わたしとして、意外というか、新鮮だったことは、「聴きながら自然に涙が溢れてきた」「感動で泣いてしまった」という声が少なくなかったことです。第2ヴァイオリン奏者のおひとりも、演奏しながら、ハンカチで涙を拭うお客様が見えた、と語っておられました。むろん、舞台上のわたしたちは、「客を泣かせてやろう」などという下種な考えなど持ち合わせておらず、ただひたすら、作品に献身していただけです。それで、このような現象が起こるというのは、やはり北原白秋による詩と信時潔の音楽による「海道東征」という作品の美しさによるものだと思われます。とはいえ、たった1度の本番で究極の到達することは適いません。もう一度、機会が与えられるなら、表現の無駄を削ぎ落としつつ、さらなる高みを目指し、表現を深化させたいと考えております。

最後に、このような素晴らしい演奏会を企画してくださった産経新聞様に感謝の念を捧げると共に、わたしを指揮者として抜擢してくださった大フィル事務局F氏の蛮勇を讃えたいと思います(笑)。

 

交声曲「海道東征コンサート

2019年11月8日(金) 18:30開演(17:30開場)

<出演>
指揮:福島章恭
独唱:幸田浩子(ソプラノ)
   清野友香莉(ソプラノ)
   石井 藍(アルト)
   小原啓楼(テノール)
   原田 圭(バリトン)
合唱:大阪フィルハーモニー合唱団(合唱指導:福島章恭)、大阪すみよし少年少女合唱団

<曲目>
シューベルト/交響曲 第7番 ロ短調 D759「未完成」
信時 潔/交声曲「海道東征」

 

 


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