Avaloncity Central Park

不肖「信頼出来ない語り手」明智紫苑の我楽多ブログです。主に自作小説とカスタマイズドールを扱いますが、エッセイもあります。

『ファウストの聖杯』18.父と弟

2017-06-30 12:00:00 | ファウストの聖杯 ―Please Burn Me Out―
「創造し、維持し、破壊する女神」
「アヴァロン史上最高の 美神 ミューズ
「誰も彼女にかなわない」
 華々しいキャッチコピーが次々と飛び出す。スター誕生。
 彗星の如く現れた若き新人女性シンガーソングライター、アスターティ・フォーチュン。彼女のデビューは各界に衝撃を与えた。
 高校に進学して間もない、十代の天才美少女。彼女の出現は奇跡ですらあった。少なくとも、その美貌がより一層彼女の優れた才能を引き立て、それが彼女の存在を一層奇跡的に見せていた。
 もちろん、彼女に対して批判的な者たちも少なくないが、それはあくまでも単なるやっかみに過ぎない。特に、彼女のマネージャーの古巣だった大手芸能事務所〈ゴールデン・ダイアモンド(Golden Diamond)〉の関係者たちの動揺がある。
「ミヨンめ、うまくやりやがったな」
 かつて、ミヨン・ヴィスコンティの有能さに嫉妬していた男性役員は舌打ちをする。自分より有能な女だというだけでも十分ねたましかったのに、さらに未婚の母でもあったのだ。ただ単に男であるだけの男にとっては、彼女は実に「嫌な女」だった。そのミヨンが立ち上げた新たな会社は邯鄲ホールディングス(Hantan Holdings)傘下に入ったので、単なる弱小事務所とは言えない。むしろ、これからぐんぐん成長していけるだけの伸びしろがある。現に、他の事務所から移籍している芸能人やスタッフも何人かいるのだ。
 ロクシー…ロクサーヌ・ゴールド・ダイアモンドは、その芸名が示すように、ゴールデン・ダイアモンド社の威信をかけて売り出されたタレントである。そのロクシーの立場を脅かすスターの卵が現れた。これは大事件だった。

 ロクシーは以前から華麗な男性遍歴を売り物にしていたが、今の彼女はますます奔放に振る舞っている。表向きには相変わらず女王然としているが、そんな彼女に対して焦りを見出す者も少なくない。そもそもロクシーは元々モデルであり、アスターティほどの音楽的才能はない。彼女はあくまでも美貌とファッションセンスを売り物にする「美人のプロフェッショナル」であり、「音楽家」ではない。
 その美貌には、以前はほとんど表には出なかった険しさが表れていた。



「フォースタス、まだまだスランプが続いてるようだな」
「まあ、な」
 ヴィクター・チャオとブライアン・ヴィスコンティは、大学を卒業して就職していた。ただし、就職先はブライアンの母ミヨンが社長を務める芸能事務所である。
 ヴィクターは、この事務所の社員であると同時に、駆け出しの放送作家でもある。彼の企画力は「さすがはフォースタス・チャオの弟だ」と高く評価されていた。中には、兄フォースタスの小説やエッセイを元にした番組企画もあった。そんなヴィクターにブライアンは言う。
「母さんが言っていたけど、母さんはお前に社長の役職を譲ろうと思ってるんだ」
「え!?」
「そもそも、邯鄲ドリーム(Hantan Dream)自体が邯鄲ホールディングス傘下の会社なんだし、何よりも、母さんはアスターティのマネジメントに専念したいんだ」
 ヴィクターは、予想外の重圧に悶絶しそうだった。
「な、なしてお前じゃなくて俺なの!?」
「俺は社長って柄じゃないよ。それよりも俺は、今のフォースタスの様子が気になるね」

「最悪の事態が起こっちまったが、今さら悔やんでもしょうがない」
 アガルタのフォースタス・マツナガは、タブレット端末を手にして、ため息をついた。あれから一年、三文ゴシップレストランのメニューは常に入れ替わり続けるが、フォースタス・チャオはいまだに表舞台から遠ざかっている。
 あの時、シャン・ヤンとシャンゴ・ジェロームはマークをマークしていたが、マーカス・ユエは二人が油断した隙に我が家に駆け込んだ。そして、両親と弁護士とフォースタス・チャオが話し合っている隙に台所に入り、一本の包丁を手に、応接室に乱入した。ヤンとシャンゴが家に入った時には、すでに手遅れだった。
 フォースタスはため息をつく。自分と同じファーストネームのあの男、あの屈折が目に見えるようだ。
坊主 ラッド め、そろそろ立ち直っても良さそうだが、それはあいつ次第だな」
 フォースタスはグラスに麦茶を注ぎ、飲み干す。

「そうだな、あいつを旅に誘おう。親子水入らずで。ヴィックも一緒にな」
 シリル・チャオは一人、会長室でつぶやいていた。
 息子フォースタスの婚約者であるアスターティ・フォーチュンのデビュー曲は、たちまちヒットチャートの上位に駆け上がった。プラチナブロンドの髪と空色の目の天才美少女は、あっという間に売れっ子になった。
 彼女が所属する芸能事務所〈邯鄲ドリーム〉は、シリル率いる邯鄲ホールディングス傘下の会社だが、先ほどシリルの末子ヴィクターが新たな社長に就任したばかりである。しかし、しばらくは、アスターティのマネージャーである前社長ミヨン・ヴィスコンティが実質的な司令塔である。
 邯鄲ドリームのオフィスは、邯鄲ホールディングス本社のビルの中にある。シリルは、そのオフィスのある階に降りた。

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『ファウストの聖杯』17.溢れる罪と血

2017-06-29 12:00:00 | ファウストの聖杯 ―Please Burn Me Out―
「それでは、チャオさん。あなたはライラさんとお互いに合意の上で関係を結んだのですね」
 ついに、この時が来た。俺とユエ先生、リジーとルーシェ弁護士は先生の家に戻り、ライラと応接室で話し合う。ルーシェ弁護士は俺に質問する。
「はい、間違いありません」
「ちょっと待って! フォースタスは悪くはないわ。私が一方的にフォースタスと関係を持ったのよ!」
 ライラは反論する。それに対して、ユエ先生はライラを諭すように再反論する。
「ライラ、僕は君もフォースタスも責めるつもりはない。ただ、別れてほしいんだ。僕はリジーと一緒になりたい。リジーのお腹の子もいるんだし。慰謝料も、僕から君に支払う。その代わり、例の絵がほしいんだよ」
「だったら、マークの親権はどうなるの!? 私たち、あの子に構ってあげられなかったじゃないの! それに、あの子はあなたにも私にもついて行きたくないでしょう」
「ああ、その通りだ!」
 俺たちがドアの方向を振り返ると、そこにはマークがいた。
「やぁ、おかえり。マーク」
「おかえりじゃねぇ! 俺がお前らのせいでどれだけ傷ついてきたか、思い知れ!」
 マークは、台所から持ってきた包丁を手に、俺に襲いかかった。ユエ先生やルーシェ弁護士が止めようとするのを振りほどき、刃は俺の心臓を狙っていた。
「やめて!」
 とっさに、ライラが俺をかばい、息子の凶器に「正確に」左胸を貫かれた。

 マークは、ユエ邸の張り込みをしていた二人の男たちに取り押さえられた。ルーシェ弁護士は警察に電話し、救急車を呼んだ。
 しかし、ライラは即死していた。
 マークは逮捕され、ライラの葬儀が行われた。
 参列者たちが俺とユエ先生を見る目は冷ややかだった。ランスは俺に一言も口をきいてくれなかった。
 師弟揃って文壇追放というシナリオすら思い浮かぶ。俺は師匠の妻との不倫。そして、ユエ先生は俺の元恋人との不倫と、相手の妊娠。激昂した息子の母親殺し。
 世間での俺たちの評判はさんざんだった。俺は、ある雑誌でのエッセイの連載を打ち切られた。
 マークは、少年刑務所に入った。



 あれから一年。アスターティは高校に進学した。文壇で干された俺は、大学時代からの友人スコット・ガルヴァーニ(Scott Gavin Galvani)が主宰する劇団〈シャーウッド・フォレスト(Sherwood Forest)〉で裏方の仕事をしている。
 ランスはマロリー法律事務所に就職したが、いまだに俺を許してくれない。しかし、スコットは俺に同情してくれた。
「あのさ、フォースタス」
「何だい?」
「お前が今書いている小説だけどさ、俺らに舞台化させてくれないか?」
 スコットは言う。
「いや、まだ完成していないけど」
「そうか…」
 俺は窓を通して空を見上げる。午後4時近く。今の季節ではまだまだ空は明るいが、俺の心はいまだに暗い。スコットはそんな俺の気分を察したようだ。
「ランスの奴、いまだにお前を許してないけど、俺からも許してくれるように頼むよ」
「ありがとう、スコット」
「はーい、スコットにフォースタス。差し入れを持ってきたよ」
 ドレッドヘアの黒人の女が紙袋に入った何かを抱えている。ナターシャ・パーシヴァル(Natasha Dinah "Nat" Perceval)。シャーウッド・フォレストの看板女優にして演出家で、彼女も俺の大学の同期で、友人だ。
「おお、ドーナツ! ちょうどいいところに来てくれたな。フォースタス、食おうぜ」
 俺はナターシャからドーナツを受け取ってかじった。ピーナッツバターとアーモンドが香ばしい。
 他の団員たちもあちこちでこの差し入れを食べているようだ。隣の部屋から屈託なく賑やかな談笑が聞こえるおかげで、何だか少しは気が楽になったような気がする。俺たち三人は隣の部屋に移った。
 シャーウッド・フォレストの連中は俺に親切にしてくれる。もちろん、俺の不祥事を内心快く思わないメンバーたちも少なからずいるだろうが、少なくとも、俺を露骨に白眼視する人間はいない。
 それは多分、スコットやナターシャらの人徳のおかげだ。俺はこいつらに感謝している。

 ユエ先生はリジーと再婚し、子供が生まれていた。女の子で、名前はアナベラ(Annabella Tiara Yue)という。名前に「ベラ」がついているが、「ベラ」とはライラのミドルネームだ。
 俺は先生の家に出産祝いの贈り物を届け、サッサと帰った。先生はかろうじて文壇追放という状況に追い込まれずに済んだが、俺は『ファウストの聖杯』を抱えながら迷走していた。

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『ファウストの聖杯』16.大人の事情

2017-06-28 12:00:00 | ファウストの聖杯 ―Please Burn Me Out―
「ごめんなさい、アート」
「いや、避妊していなかった僕が悪いんだ。済まない」
「私、どうしてもこの子を産みたいのよ」
「ああ、子供に罪はないよ」
 アーサー・ユエとリジー・バーデンは、セントラルパークの近くの「隠れ家的」イタリア料理店にいた。二人は渦中の人フォースタス・チャオを待っていた。
 この二人だけではない。もう一人、ダークグレーのスーツ姿の男がいる。
 バーナード・キース・ルーシェ(Bernard Keith Loussier)。だいたい40歳前後のブルネット白人男性。マロリー法律事務所に所属する弁護士である。
 マロリー法律事務所の所長リチャード・マロリー(Richard August Malory)は、アーサーの古くからの知人であり、さらにフォースタス・チャオやランス・ファルケンバーグを子供の頃からかわいがっていた。リチャードは三兄弟の次男だが、兄ジェイソン(Jason Ethan Malory)はボクシングの元チャンピオンで、現在ボクシングジムのオーナーである。そして、弟ルドルフ(Rudolf Albert Malory)は数学者であり、アヴァロン大学理学部数学科で教鞭をとっている。
 ルーシェは、所長の代理としてアーサーたちの依頼を受けたのだ。



「なぁ、ヤンにシャンゴ。お前ら、どう思う?」
 フォースタス・マツナガは、二人の男たちに問いかける。一人は身長180cmくらいの東アジア系、もう一人は身長200cm近くの黒人の男である。
 艷やかな黒髪を後ろで一本結びにした、細身だが筋肉質の男の名はシャン・ヤン(商鞅、Shang Yang / Yang Lycurgus Shang)。その名は古代中国の秦の宰相に由来する。
 スッキリと坊主頭にした、いかつい筋肉質の巨体の男の名はシャンゴ・ジェローム(Shango Jerome)。その名はアフリカの雷神に由来する。
 二人は、ここアガルタで生まれ育ったバールであり、大統領を護衛するSPである。彼らはたまたま、休暇でアガルタに戻っていた。
「チャオ君のスキャンダルは、アスターティの歌手デビューに悪影響を及ぼす可能性がありますね」
 ヤンは生真面目に答える。
「それだけか?」
 ドクターの問いに、シャンゴは答える。
「ユエ氏のご子息のマーカス君は、しばしばゲームセンターで、ヴァーチャル格闘ゲームで遊んでいますが、あのようなゲームは軍隊や警察官の訓練に利用されるシステムの応用です。それに、かなりいら立っている様子でした」
 マツナガ博士は腕を組み、しばらくうつむいて、目を閉じた。そして、二人に命じた。
「お前たち、アーサーたちの家に行け。あそこで張り込みをするんだ。ウキタ所長には、俺から伝えておく。あの家で何かがあったら、不審者を取り押さえろ」

 ヤンとシャンゴが出ていったのと入れ違いに、一人の白衣の男が部屋に入ってきた。
「リッチー、どうした?」
 リッチー…リチャード・タヌキコウジ(Richard Gareth "Ritchie" Tanukikoji)。獣医師である彼はアガルタの実験動物棟の職員である。
「マツナガ先生、サイボーグ犬たちから色々と聞いたのですが」
「犬どもがどうした?」
「あの子らもフォースタス君…チャオ君について心配しているのですよ」
「ほほう、犬もゴシップ好きか?」
「いや、純粋に心配しているのですよ。チャオ君はここの犬たちに人気がありますから」
「そうか…」
 もうすぐ4時。今の季節ではまだまだ暗くならないが、昼に比べてだいぶ涼しくなっている。
 アガルタの実験動物棟には、サイボーグ手術によって人間並みの知能と言語能力を身に着けた動物たちがいる。彼らはバールたちと同じく、カルト団体〈ジ・オ〉の者たちに忌み嫌われている。
 そもそも〈アガルタ〉という場所自体が〈ジ・オ〉の者たちに「悪魔の住処」として忌み嫌われているのだ。
「リッチー、あいつらの問題がなければ、今夜一緒にバーに行きたかったな」
「あの…僕、下戸ですが」
「ああ、そういえばそうだったな。すまん」
 フォースタス・マツナガは窓を見渡す。西日がまぶしい。

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『ファウストの聖杯』15.逃げられない

2017-06-27 12:00:00 | ファウストの聖杯 ―Please Burn Me Out―
「『ある文士たちの悲劇』…か」
 シャレにならないタイトルの記事。頭が痛い。自業自得だが。
 俺とユエ先生夫妻のスキャンダルが大々的に報道されるようになって以来、俺はテレビやラジオの出演依頼が減っており、本業でも徐々に敬遠されるようになっていた。さらに、俺のスキャンダルに連動してか、邯鄲グループ各社の株価が値下がりしつつあるようだ。
 しかし、父さんも母さんも何も言ってこない。それがますます不安をかき立てる。
 今の俺は、ライラに会いに行く以外は、家に引きこもりがちになっている。たまに買い出しに出かけるが、普段は自室でタブレット端末を手にして小説やエッセイの推敲をしている。子供の頃から世話になっている人が経営しているボクシングジムにも通っていないから、ランスにもロビンにも会っていない。
 どうせ、あそこでも白眼視されるのだ。
 自分たちのスキャンダルが異様に大々的に報道されているのは、おそらく政界に何か動きがあるのをごまかしているからなのではないのか? 少なくとも、芸能ニュースとはそのような煙幕として世間に流されるのだ。
 確かに自分は世間に非難されても仕方ない。それだけの罪深さは十分ある。



《フォースタス! 貴様、いい加減にしろ!》
 ランスの奴から電話が来た。こいつは俺のスキャンダルに激怒している。
 法科大学院に在席しているランスは、ユエ先生の教え子ではない。しかし、こいつは俺と同じく、子供の頃から色々とユエ先生のお世話になっている。
 普段、冷静沈着なこいつが本気で怒るのは怖い。こいつは俺にとって、半ば兄貴分なのだ。それだけに、こいつの助言・忠告に対しては真剣に耳を傾ける必要があるのだが、今はそれどころではない。
《一発ぶん殴って、目を覚まさせてやる!》
「お前、そんな暴力事件起こしたら、人生を棒に振るぞ!」
《うるさい!》
「だから、もうすぐ絵のモデルの仕事は終わるんだよ。ユエ先生との約束もあるし」
《先生がお前と奥さんの関係を許す訳ないだろ!?》
「だから、その…」
 いや、先生との約束を漏らす訳にはいかない。俺は、さんざん怒鳴り散らすランスを無視して、電話を切った。
「やれやれ…」

 俺は、いつも通りにユエ邸に行き、ライラのアトリエ兼寝室で彼女と交わり、絵のモデルの仕事をした。絵は、確かに完成に近づきつつある。
「もうすぐ完成するけど、まだまだ完成させたくないわ」
 ライラは言うけど、俺はもう解放されたい。しかし、ユエ先生とライラの関係は冷え切っている。だからこそ、彼女は俺を求めた。
 アスターティ。
 突然、なぜかあの娘を思い出した。俺の婚約者。なぜ、俺はバールである彼女と婚約したのか?
 アガルタの研究者たちが言うには、俺たち人類は しゅ として限界に近づきつつあるという。その人類に新たな血を注ぎ込むために、人類とバールの融合が必要だというのだ。
 そもそも、バールたちは元々人間の亜種である人造人間であり、様々な点で人間より優れた資質を持っている。その「強い」血を俺たち人類と混ぜ合わせるのだ。それで実験台に選ばれたのが、アガルタの研究者の一人ミサト・カグラザカ・チャオの息子である俺と、古代フェニキアの太女神の名を持つあの娘だった。あの娘は、次世代の「聖母」「女神」となるべく産み出されたのだ。
 でも、なぜわざわざそこまでしなければならないのか? この世に終わらないものなどないのに。
 俺がアスターティを避けているのは、自由に恋愛をしたかったからだが、それだけではない。俺の初恋相手で、十年前のモノレール爆発事故で亡くなったヘレナに似てきたからだ。それがつらい。

 俺はユエ邸を去り、車を飛ばした。すぐに家に帰らずに、しばらく走る。気晴らしとしてのドライブだけど、これぐらいでは気分なんか晴れない。
 午後2時過ぎ、アヴァロンシティはそんな俺の思惑なんぞに目もくれずに輝き続ける。
「お前らのスキャンダルなど消耗品に過ぎない」
 そんな声すら聞こえそうだ。
 ゴシップレストランのメニューは新鮮さが第一、人の噂も七十五日。旬が過ぎればメニューは替わる。しかし、俺の醜聞はまだまだ生々しい。
 多分、少なくとももう二、三か月はメディア上をたらい回しにされ続けるだろう。
《pi,pi,pi…》
 電話だ。また、ランスの野郎か? だから、今はほっといてくれ! 俺は思ったが、違う。この番号は、ユエ先生だ。
 俺は車を止め、受話器を手にした。
「はい、フォースタスです」
《フォースタス、ちょっと来てほしいんだ》
「どうしました?」
《急がねばならない。僕らの予定が早まったんだ》
 早まった? 何だろう? 俺は、ユエ先生が待つあのイタリア料理店に向かった。

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『ファウストの聖杯』14.致命的な裏切り

2017-06-26 12:00:00 | ファウストの聖杯 ―Please Burn Me Out―

「人気作家師弟と美人妻の泥沼三角関係!」
「弟子の元恋人を奪う師匠」
「ある文士たちの悲劇」
 メディア上を流れる扇情的な見出しのニュース。大物作家アーサー・ユエとその妻ライラ・ハッチェンスと、若手作家フォースタス・チャオの不倫三角関係…フォースタスの元恋人も含めれば四角関係は大々的に報道されている。
 普通、小説家のスキャンダルは警察沙汰にでもならない限りは、芸能人のゴシップほどには話題にならない。しかし、フォースタス・チャオはテレビ出演などによって、単なる作家以上の人気がある。本人に自覚はないが、彼は中途半端な芸能人以上に華があるのだ。ましてや、彼は邯鄲ホールディングス会長と〈アガルタ〉の女性科学者の息子という「サラブレッド」なのだ。
 元々そんな彼に嫉妬する者は少なくない。しかし、自己評価がさほど高くない彼自身はそれを意識しない。
 三文ゴシップレストランの最新メニュー、フォースタス・チャオの鴨鍋。それまで才色兼備の若手男性作家としてもてはやされていた彼は、すっかり評判を落としていた。もちろん、彼の師であるアーサー・ユエも同様だ。
 文壇でも、二人を冷めた目で見つめる者は少なくない。むしろ、それまでの彼らの評判が良過ぎたのだ。

 ミック…マイケル・クリシュナ・ランバート(Michael Krishna "Mick" Lambert)は、フォースタス・チャオの大学時代からの友人であり、同業者である。彼は友人のスキャンダルに心を痛めている。
「あいつ、いい奴だけど、こんなスキャンダルのせいですっかり評判が落ちたな」
 ミックはフォースタスを見捨てるつもりはない。しかし、電話をかけて励ましの言葉を送ろうか迷い、結局は静観している。
「今のあいつに何か言えるのはランスだけかもしれないが、ランスは怒るとおっかない奴だからな」
 ミックはタブレット端末の電源を切り、キッチンに向かう。お湯を沸かし、マグカップにレモンティーのカプセルを入れ、お湯を注ぐ。そして、マグカップを手にしてリビングに戻り、ソファに腰掛ける。
 素朴な作りのクッキーをつまみ、ひとかじり。普段はその素朴な味わいに安心するが、ミックは友人の状況への心配のせいで、気分がどんよりとしている。



「あの 坊主 ラッド 、アートの嫁とそういう関係なのか」
 フォースタス・マツナガは、自分と同名のフォースタス・チャオを「 坊主 lad 」と呼ぶ。アガルタの自分の部屋にいる彼は、タブレット端末で様々なゴシップを漁っていたが、心臓に剛毛の生えている彼も、さすがに問題のスキャンダルには呆れた。
「こりゃ、あの娘がかわいそうだな」
 ドクター・マツナガはため息をついた。
「坊主」フォースタスだけではない。「坊主」の師匠であるアーサー・ユエ自身も、外で女を作っているのだ。しかも、相手は「坊主」の元恋人だ。
 フォースタス・マツナガは時々、アガルタの外でつかの間の恋を楽しむが、彼は自らに掟を課している。
 未成年者は相手にしない。バールたちにも手を出さない。
 自分が「種なし」でも、性病予防のために避妊具は欠かせない。ましてや、その辺りが疑わしい女には手を出さない。
 特定のパートナーがいる女にも手を出さない。執着心が強過ぎる女にも手を出さない。
 そして、前述の条件を受け入れない女は相手にしない。
「やれやれ、どうしようもないな」

 アスターティ・フォーチュン。彼女は当然、自分の婚約者にして初恋相手である男のスキャンダルが不愉快だった。もうすぐ自分の誕生日なのに、お祝いされてもちっとも嬉しくないだろう。
 彼女は友人たちと遊ばず、学校からまっすぐ家に戻り、自分の部屋に閉じこもった。
「フォースタス! どうして、どうしてなの!?」
 アスターティは布団に潜り込んで号泣した。自分は前々からフォースタスに避けられていたが、こんな形で裏切られるのは本当に悔しかった。
 まだまだ子供として相手にされず、他の女に持っていかれるのは初めてではない。しかし、よりによって人妻との関係、恩師の妻相手の略奪愛だなんて、許せなかった。

「あの馬鹿野郎…」
 ランスロット・ファルケンバーグは呆れた。
 自分の幼なじみのスキャンダル。しかも、共に幼い頃から世話になっている恩師の妻との不倫関係。フォースタス・チャオのスキャンダルは、世間で話題になっていた。
 フォースタスが作家としてデビューしたのはまだ大学時代、20歳の若さだった。邯鄲ホールディングス会長の息子で、大御所作家ケイトリン・オコナーの孫という話題性もあったが、何よりも、才色兼備の青年作家としてもてはやされた。
 ランスにとってはフォースタスは弟のような存在だった。少年時代には、数学が不得意な彼のために家庭教師役を買って出た。義理堅いお節介焼きのランスにとって、フォースタスは出来が悪いがかわいい弟みたいな存在だ。
 そのフォースタスのスキャンダルだ。潔癖で正義感の強い性格のランスは、それに激怒した。
「畜生、しばいたろか!?」
 彼は、携帯電話を手にした。

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